ハナ・ホームズ著『小さな塵の大きな不思議』
[季語随筆日記「山笑ふ・花粉症・塵」(2005.03.13)より]
過日、シドニー・パーコウィツ著『泡のサイエンス―シャボン玉から宇宙の泡へ』(はやし はじめ/はやし まさる訳、紀伊国屋書店刊)を読了した。
この本は、森羅万象(ナウマンゾウとは読まない、「しんらばんしょう」である)が素粒子の次元から宇宙全体の構造に至るまで、この世界がいかに泡に満ちているかを縷縷、語ってくれる。
その中で、海の波(潮)が飛沫となり空中に飛散して大気中に広がり、それが雨粒の芯(核)となっている、という話があった。その量たるや膨大なものだという。
その連想だろう、図書館に行ったら、ハナ・ホームズ著『小さな塵の大きな不思議』(岩坂泰信監修、梶山あゆみ訳、紀伊国屋書店)という本が目に付いた。
本書はありとあらゆる「塵」を扱っている。読みやすい。で、即座に借りることに決めた。
まず、砂漠から一年で10億トンから30億トンの砂塵が巻き上げられているし(10億トンだと、有蓋貨車で1400万両相当)、海からは35億トンの潮(塩)の欠片が吹き上げられているという。
植物からは10億トンの有機化合物が吐き出されている(その3分の1が微粒子となって大気中を漂っている)。
その他、火山や海中のプランクトンからも、山火事での煤という形でも、山肌が氷河などにより削られる、生物たち(カビの胞子、ウイルス、バクテリア、花粉、枯れた葉っぱの繊維、虫けらの死骸…。
そこに人間の産業活動による塵の追加である(人の髪のフケや肌の残骸は度外視しても)。化石燃料を燃やしつづけているのだ。
ところで、砂漠から一年で10億トンから30億トンの砂塵が巻き上げられていると書いたが、その大半は人間の(産業活動や開発、なかにはゴルフ場のようにレジャーだったり)せいだと考えられている。砂漠から砂塵が舞うのは当たり前のようだが、砂漠は初めから砂漠だったり荒地だったりしたわけではなく、多くは緑野だったのだ。
それが開発されて土壌が荒れて、土埃などが舞い上がるようになったわけである。
哲学や文学の発祥の地の一つである古代ギリシャも、ポリスなどが発達する前は緑滴る山だったとか。が、都を作るため、木々を徹底して伐採し尽くした結果、大理石の柱廊の背景が砂漠っぽく成り果ててしまったのだという。
つまり、「2004年、アテネオリンピックが開催されるギリシャで、深刻な砂漠化が進行しています。既に国土の20%~35%が表土を失い、このまま放置すると国土の60%以上が砂漠化するというの」だという。
が、「もとは豊かな緑に包まれていたギリシャでしたが、紀元前8世紀に始まる文明の発展と引き換えに砂漠化への道を辿ります。神殿建築や軍艦に使う木材確保や、貿易用に栽培するオリーブやブドウの果樹園を次々と作った結果、森林伐採が進み、自然の生態系が破壊されていきました。」というのである(「素敵な宇宙船地球号 ここが見どころ!! [第286回] 5月18日 23:00~23:30放送 「神々の大地を守る」 ~ギリシャ・粘土団子の実力~」より)。
サハラ砂漠も嘗ては緑の大地だったとか。
緑の消滅は、所謂産業もあるし、農耕もあるし、牧場となって家畜に食い尽くされたということもあるのだろう。いずれにしても、人間の活動と無縁ではない。
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