パーコウィツ著『泡のサイエンス』
「陽炎」は飛ばす。続いて、「泡」へ。蜃気楼と泡には直接の関係はない。共に陽炎のように淡く儚いというイメージがある。まあ、イメージつながりである。陽炎は文章を繋げる都合上の接着剤だということかもしれない。
こんな飛躍をするのも、今朝、読了したシドニー・パーコウィツ著『泡のサイエンス―シャボン玉から宇宙の泡へ』(はやし はじめ/はやし まさる訳、紀伊国屋書店刊)に感化されているからである。
もう一度、出版社側の謳い文句だけ、転記しておくと、「私たちの宇宙は多様な泡に満ちあふれています。生活に身近な石鹸やビールの泡のほかに、原子・分子の世界から大宇宙の構造まで、泡は形を変え出現します。また実用面では、食べるもののみならず、医療やゴミ処理や宇宙探検にいたるまで、泡は活躍しています。本書は、驚くほど多岐にみちた泡の魅力的な世界へ読者を誘います。」とのこと。
ついでに目次も示しておきたい。本書の性格がかなりイメージできるだろう:
1 泡とは何だろう―シャボン玉の幾何学
2 泡を調べる―撮影装置、レーザー、コンピューター
3 食べられる泡―パン、ビール、カプチーノ
4 実用的な泡―コルク、エーロゲル、シェービングクリーム
5 生きている泡―細胞、ウイルス、医療用の泡
6 地球上の泡―火山、海洋、気候
7 宇宙の泡―量子、彗星、銀河
泡ほど謎に満ちて不思議なものはない
泡というと、石鹸とか波飛沫とか、シャボン玉とか、人それぞれに連想されるだろう。小生は、少々気取って、鴨長明の『方丈記』で、つまりは、「泡沫(うたかた)」をつい想ってしまう。古文の嫌いな小生も、これだけは、幾度か読み直してしまう。名調子の文章が続く。
駄洒落好きという弊がなかったら、きっと小生も、『方丈記』もかくやと思われるような名文を綴っていただろうと思うが、なかなか現実は厳しい。つい、遊びに走ってしまう。
改めて、下記のサイトにも引用されている、原文の一部を味わってみよう:
ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて、久しくとどまりたる例なし。世の中にある、人と栖(すみか)と、またかくの如し。・・・朝に死に、夕べに生まるるならひ、ただ水の泡にぞ似たりける。・・・いはば朝顔の露に異ならず。或いは露なほ消えず。消えずといへども、夕べを待つことなし
(転記終わり)
実は、ネットで検索したら、「つれづれ化学草子_泡の巻_方丈記」という恰好のサイトが見つかった。表題は、「つれづれ化学草子 泡の巻 よどみに浮かぶうたかた 鴨長明 方丈記」とある。
難しい理屈はともかく、泡(バブル)は、我々は日常的に関わっている。
このサイトから転記すると、「泡の科学の世界における活躍は幅広く、これが実に人間生活と深く関わっているのです。朝シャンではシャンプーリンス、お化粧ではフォーム剤にお世話になることから始まり、調理では水の沸騰による泡の力を借り、食事の後は歯磨きで口を泡いっぱいに。しつこい油汚れを台所洗剤で落とした後は、洗濯だ。ペットの熱帯魚の水槽のエア調節の後は、フォームクッションの効いたソファーで一休み。そこで原稿作りを思い出し、パソコンを開くがこれにも磁気メモリーにバブルが使われている。もちろん急ぎのワープロ仕上げはインクジェット印刷。呼び鈴で宅急便の荷物を受け取ったが、中身は発泡スチロールでしっかり梱包。お楽しみコーヒータイムには生クリームをホイップして一工夫。ついでにおやつクッキーも頂くが、この軽い食感も重曹の熱分解によるバブルのなせる技。夕食のサラダにはお好みでマヨネーズかドレッシング、これらはどれもエマルジョン。風呂ではバブルジェットで疲れをいやし、ほっと一息、一杯のビールは適当な泡立ちのものが旨い・・・。」となる。
もっというと、『泡宇宙論』(池内 了著、ハヤカワ・ノンフィクション文庫刊)といった本が著されるほどに、この宇宙そもののが泡構造を為しているし、プランク長の世界では時空も意味をなさないほどに泡立っていると考えられている。
泡宇宙論に興味があれば、例えば、「松岡正剛の千夜千冊『エレガントな宇宙』ブライアン・グリーン【3】」や、小生の拙稿を参照するのもいいかも。
シドニー・パーコウィツ著『泡のサイエンス―シャボン玉から宇宙の泡へ』は、読みやすい(数式は一切ない)のに、中身が濃すぎて紹介しきれない。ここでは、もう、気軽に読めるので推奨しておくに留めておこう。
[本稿は、季語随筆日記「無精庵徒然草」の「蜃気楼・陽炎・泡(続) 」から、書評(感想文)の部分を抜粋したものです(一部、加筆)。]
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