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2005/01/17

フォーティ『生命40億年全史』(1)

 リチャード・フォーティ著『生命40億年全史』(渡辺政隆訳、草思社刊)を読んでいる。期待以上に面白いので、若干、触れてみたい。まずは、刊行した出版社の宣伝文句から紹介しておく。
 小生は別に出版社の回し者ではないが、「絶滅、激変、地殻変動――生命がつむぐ物語の圧倒的な面白さがこの1冊に!謎とドラマに満ちた40億年を一気に語り下ろす、決定版・生命史」という謳い文句は、誇大広告ではないと感じつつ、読み進めている。

 本文の中身に入る前に、朝日新聞の論説委員である吉田文彦氏による本書の案内も紹介しておこう。これだけ読むだけでも、本書の面白味は察せられるし、著者のプロフィールも知ることが出来る。

 この評に、「たとえば3億3千万年前、地球は地質上の分類では石炭紀と呼ばれる年代にあった。文字通り、石炭の元となった巨木が聳(そび)え立っている時期だった。著者はそのころの森林の生態を、まるで散策しているような風景描写で解説する」という一文がある。
 まさに、読み手は、まず、この風景描写の巧みさに引きずり込まれる。
 その上で、「事、濃密な森林は現在の熱帯雨林のような静寂に包まれていた。
 だがその静寂は、「音を出す生きものがいない」が故であった。聞こえるのは、「昆虫がたてるカサコソという音か、両生類がたてるくぐもった低い音」だけ。恐竜や鳥が豊潤な森に鳴き声を響かせるのは、ずっと後のことだったのだ」という著者の説明が続く。

 小生は都会暮らしである。常に何かしら音が聞こえるというのは、当たり前である。隣りが(しかも三方が)工場であるという事情が輪をかけている。室内では冷蔵庫のモーターの音がかすかに鳴っている。夕方など、近所から下手なピアノの音が聞こえてくる。
 折々、通行人の足音が響いてくる。真冬は窓を締め切っているから外の音は遮断されているが、今ごろの時期は外の音が僅かに開けられた窓の隙間から漏れ込むことは仕方ないことだ。
 では、田舎のほうに引っ込んだらどうか。実際には、春を過ぎたりすると、意外というか、想像以上に様々な音や鳴き声に驚いたりする。鳥の鳴き声、あるいは静かだからこそ遠くの音にも敏感になったりする。
 さて、では、遠い昔はどうだったのか。音は何が音源になるのか。そう、風以外には源がありえないのだ。生命が、微細な形からやがて目立って動くようになって初めて、命の囁きが地上世界に、それとも水中に、響き渡り始めるわけだ。
 
 しかし、少し先走りすぎたようだ。
 まず、その前に、地球が存在していなければならないし、そのためには太陽系が、そのためには銀河系が、いや、もっと始原に至るなら宇宙そのものが創始されていなければ、となるが、そうした話はさすがに別の機会に譲る。
 本書でも語られているが、そもそも生命がどのようにして、また、何処で生まれたのかは、依然として謎のようだ。但し、決定的な要素として、太陽系に、そして地球に炭素が豊富に存在したことが大きいことは、忘れてはならない。
 炭素は、生命の素材である。炭素原子は、他の原子と容易に結びつき、複雑な有機化合物を作りやすいのである。
 その炭素に匹敵するような、さまざまな物質と結合し巨大な分子化合物をつくりやすい元素は、ケイ素で、だからこそ、コンピューターのマイクロチップにケイ素が利用されている。ケイ素は、多くの造岩鉱物に必ず含まれている成分なのだ。
 生命のおおもとは炭素であり、岩石のおおもとはケイ素なのである。

 それにしても、生命はどのようにしてどんな場所で生まれたのだろうか。ただ、いずれにしても地球は生命が育まれるための環境を、あるいは生命が作られるための素材を作るための環境をさまざまに用意してくれたことは確かである。
 生命が成った段階では有害な物質、二酸化炭素やシアン化物も、生命が生まれる段階においては重要な役割を果たした。また、現実に生命維持のレベルでは有毒な物質が関わっている。
 また、リンも猛毒物質なのだが、エネルギー伝達のためには不可欠の物質である。
 粘土の存在も生命に有用な物質が作られるためには重要な媒体だったと考えられていると著者は書いている。「神はアダムを土からつくったという聖書の記述」は、最初の生命の誕生に際し、粘土が重要な役割を果たしたことを象徴しているのかもしれない、と著者は語る。
 しかし、生命が創始されるだけでは、何も始まらない。何らかの生命体が生まれないと生命の歴史は始まらないのだ。原始の細胞が生まれて初めて、後の多様な生命体へと発展しえるわけなのだから。
 その最初の細胞は、どこで生まれたのか。   

                               (03/05/25)

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