堤隆 著『黒曜石 3万年の旅』
「堤隆 著『黒曜石 3万年の旅』(NHKブックス No.1015)」
小生は何故か黒曜石に魅せられてきた。といいつつ、だからといって黒曜石の原産地を訪ねるとか、せめて黒曜石を使って造形されたアクセサリーの類いを購入したわけではない。
記憶をたどると、小学生の終わり頃だったか、妙に石に興味を抱くようになり、木の化石とか黄鉄鉱の欠片とか、磁力のある石、模様や形の綺麗な石ころだとかを集めていた。
あるいは中には、低くとも透明度のある青みがかった石ころなどもあった。もしかしたら、新潟は糸魚川が原産地として有名だが、富山は朝日町の河口に当たる海辺などでも採れる、ヒスイではないかと思っていた(思わせられていた)のかもしれない。
[ヒスイについては、「朝日町 - ヒスイ海岸」などを参照のこと]
そうした石ころのささやかな蒐集の中に黒曜石もあった。尤も、最初はストーブにくべる石炭と区別が出来たかどうか怪しいものだが、次第に黒曜石の持つ特有の奥深い、柔らか味のある黒い耀きに見せられていった。
悲しいことに、宇宙をテーマにした切手の収集などと共に、中学に入って間もない頃には、蒐集するというひめやかな、しかし、小宇宙ではあるとしても、その奥行きの計り知れない世界からは撤退していってしまった。
何故なのだろう。自分に探究する心が足りなかったといえば、それまでだが、中学校でもあまりに出来が悪く、また、受験戦争の最中でもあり、中学三年は、二年の時までの成績で1組から10組まで振り分けられるという現実に心を傷付けられ、また、水俣病やイタイイタイ病など公害病や公害裁判がテレビなどマスコミを賑わしていたこと、さらには、安保の自動延長問題などにも関心を抱いたりして、どちらかというと社会問題への関心に傾斜していったこともあったのかもしれない。
これが、単なる社会問題・政治問題に止まらず文学を飛ばして哲学への関心に向かってしまうのだが、これは、また、別の話である。
とにかく、黒曜石の持つ言い知れない魅力は、一旦は、心の海の底に沈んだが、近年、また、何故か浮かんできたのだった。
「黒曜石を使い工芸品を加工・販売いたして」いる工房である「十勝工芸社」さんのサイト、「黒曜石の世界」にもリンクさせてもらったりしている。
ここで原石の魅力を画像を通してだが確かめてみるのもいいし、宇宙やフクロウ、モモンガ、シルエットなどの造形を楽しむのもいい。いつかは北海道にある工房に訪れたいと思いつつ、望みは叶わないでいる。
せめてもの慰みというわけでもないが、「翡翠の浜、そして黒曜石の山」という掌編を書いたこともある。
さて、本題に入ろう。堤隆 著『黒曜石 3万年の旅』のことだ。
久々に図書館で借りてきた新刊本。それが黒曜石の本だというのは、嬉しかった。
本書について、定番的な紹介を試みておく。
まず、裏表紙に本の内容が出版社により示されている:
火山活動によって生成された天然ガラスである黒曜石は打ち欠くと鋭利な剥片となり、細石刃として、鏃や石斧、石匙などの利器として、利用された。狩猟・採集をなりわいとする人々が、いかに黒曜石を求めてきたのか。遠い原石産地から山野を越えて、またあるものは海峡を超えていることがわかった。黒曜石のたどった道と人類の生活の軌跡をさぐる。
ついで、目次を転記しておく:
第1章 信州の黒曜石を追って
第2章 耀く石への探究
第3章 日本列島の黒曜石
第4章 石器製作の起源
第5章 縄文の資源開発
第6章 黒い瞳の巨像
[第6章の「黒い瞳の巨像」とは、イースター島の話題である]
小生は、黒曜石の利用が縄文時代のかなり初期から使われていたこと、北海道で採れ(さらに加工され)た黒曜石がロシアにも伝わっていたりなど、そんな幅広い交流があることは、知っていた。
が、伊豆は神津島産の黒曜石の細石刃石核が、長野県野辺山高原の矢出川遺跡(旧石器時代)で発掘されたりするなど、利用は旧石器時代の幕開けである3万年前にまで遡るとは、本書を読んで認識を新たにした思いだった。
著者の堤隆氏によると、3万年よりも前である前・中期旧石器時代にも黒曜石は使われていたかもしれないが、「黒曜石のような特定資源の開発と供給システムの確立こそが、後期旧石器時代の幕開けを告げる出来事であるとみられる」というのである。
但し、世界レベルでは、「東アフリカではすでにアシュール文化末の三十万年前、原産地周辺で黒曜石製のハンドアックスが作られているという」し、「また、ケニアでは、およそ六・七万年前の中期旧石器時代、ハウィソンズ・プールトと呼ばれる文化に相当する石刃と幾何形細石器の制作に黒曜石が用いられており、その資源利用は現代人(ホモ・サピエンス)の行動の起源とも絡んで重要な問題を提起している」という。
順番が違うかもしれないが、まず、黒曜石とはなんぞやだが、これは、数多くのサイトがあるが、例えば、「隠岐の黒耀石」が楽しく、分かりやすい(「八幡黒耀石店」のサイトのようだ)。この店の関係者は本書にも登場する)。
隠岐もまた、小生が一度は行ってみたい場所だ。
遡るベクトルを変えて、時間や空間・歴史ではなく、石そのものへの関心も小生にはある。「石の心」というテーマで何度、小説を試みたことか。厄介すぎて、それとも切実すぎてなのか、勿論、能力もおぼつかないからだが、なかなか書き切れない。
いつかは、また、挑戦してみたいテーマなのである。
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