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<title>壺中方丈庵</title>
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<description>国見弥一の創作の館……小品、俳句、川柳　コメント、トラックバック大歓迎！　但し、一旦、留保し内容を確認の上、表示させていだだきます。</description>
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<title>黒の河</title>
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<description>　俺は無性に腹が立っていた。お袋のこと、仕事のこと、あいつのこと、親父のこと。そ...</description>
<content:encoded>&lt;p&gt;　俺は無性に腹が立っていた。お袋のこと、仕事のこと、あいつのこと、親父のこと。そして自分のこと。&lt;br /&gt;
　お袋は何だってあんなに年老いてしまったんだろう。この数年でびっくりするほどに痩せ衰えてしまった。&lt;br /&gt;
　でも、親父にすれば昨日の今日で、別段、お袋が急に老いたわけじゃないという。&lt;br /&gt;
　そうか、久しぶりに帰郷した俺が迂闊だったんだ。&lt;br /&gt;
　余計な心配も掛けたし、俺のせいで老けたんだと思うのは、俺の思い過ごし、時の流れが俺たちをも確実に何処へともしれない彼方へ押しやっていくだけのことなのだ。&lt;br /&gt;
　道楽息子の御帰還を喜ばせようと、不意を襲ったのがいけなかったのだ。庭先で立ち木鋏を持ったまま、唖然と立ち尽くす親父の目。&lt;br /&gt;
&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　父の目の奥に、また何かやらかしたのかという、怯えの色を俺は見過ごすことはできなかった。&lt;br /&gt;
（何だよ、俺は、もう、あんたにゃ、ただの邪魔者なのかよ！）&lt;br /&gt;
　俺は、そんな言葉を喉に押し込むのに懸命だった。馬鹿なことを口にしなくてよかったと心底、安堵した。何故なら、親父の背中が微かに曲がっていたのだ。麦藁帽子や肩に降り注ぐ陽光さえ、重そうに見えた。&lt;br /&gt;
　そして、親父の目にある怯えは、実は、老いに伴って漂い始める、思わず知らずの弱気の色に他ならないことを感じた。&lt;br /&gt;
　思わず俺は、不覚にも涙を流しそうになった。&lt;br /&gt;
「お袋は？」&lt;br /&gt;
「ああ、これから買い物に行くからって、化粧してるよ。行って、顔を見せてやれ、歓ぶぞ。」&lt;br /&gt;
「うん。そうする。」と言って、家に入ろうとしたら、&lt;br /&gt;
「ああ、ちょっと待ったほうがいいかもしれない…」と言った。&lt;br /&gt;
「どうして？　いいじゃないか、水臭い」と言って、「かあさん！」と叫ぶ父の声を背に、そのまま入っていった。&lt;br /&gt;
　それがいけなかったのかもしれない。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　そこには一人の老婆がいた。化粧鏡の前で、白髪を染めようと夢中になっているのだった。&lt;br /&gt;
　この前、最後にお袋を見た時も、年にしては髪が真っ黒だし、きっと染めているだろうなとは、鈍感な俺だって察していた。女心という奴だ。いつぞやの親父の話で、病気のせいで、お袋が総入れ歯にしたことだって知っているのだ。この俺も腹の出たおっさんになっているんだし、当然じゃないか…。&lt;br /&gt;
　しかし、髪を染める前のお袋は、痩せさらばえた見知らぬ老女だった。瞬間、安達が原の鬼女かと思った。俺は、目のやり場に困った。口に出すはずの言葉が、宙に浮いてしまった。&lt;br /&gt;
　俺以上に驚き慌てたのは、お袋だった。可哀想なくらいだった。今度こそ、涙が溢れそうになった。世界に俺一人だったとしても、嗚咽したかもしれなかった。&lt;br /&gt;
「ああ、祐介、お帰り。疲れたろう」&lt;br /&gt;
　口元だけは、しっかりしていた。フガフガの口の奥の救いようのない深淵を眺めずに済んだだけでも、助かったと思った。&lt;br /&gt;
「突然で、驚いた？　急に休みが貰えたもんだからさ」&lt;br /&gt;
　そう言って、俺は、居場所を探した。電気の点いていない居間は、一層、侘しく感じられて、一人では足が向かなかった。&lt;br /&gt;
　気がつくと、奥の縁側にいた。日に焼けて変色したカーテンと桟に埃の積もったガラス戸を開けた。庭を見ようと思ったのだ。&lt;br /&gt;
　ガキの頃、一人でボンヤリしたいときは、よく、縁側の廊下の縁に坐って庭先の虫けらを眺めたり、姿の見えない鳥の鳴き声に耳を傾けたものだった。&lt;br /&gt;
　足元のコンクリートの土台に、黒っぽい帯が見えた。それは無数の蟻どもの列だった。座敷の下の何処かから、庭の松の木の根元辺りまで、蟻の黒い帯は蜿蜒と続いているのだった。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　ふと、俺は家を飛び出した頃のことを思い出した。その前の日、やっぱり縁側に佇んでいた俺は、こうして蟻の黒い河を眺めていたのだ。そのうちに、俺は無性に腹が立って、庭に散水するためのホースを引っ張ってきて、黒い大蛇のどてっ腹に水をぶっ掛けてやったものだ。&lt;br /&gt;
　奴は、一瞬にして粉々に砕け散った。それでも俺は容赦しなかった。引き千切られた無数の肉片をも、凶暴な水圧で押し潰そうとしたのだった。&lt;br /&gt;
　その翌日、俺はオートバイに跨り、東京へと向かった。田舎は五月晴れだったのに、碓氷峠に近づく頃から俄かに掻き曇り、やがて一気に土砂降りになってしまった。合羽を用意してきたのだけれど、いつの間にか荷物を詰めたバッグが落ちてしまって、リアシートはだらしなく絡み合うゴム紐だけになっていた。&lt;br /&gt;
　若かった俺は、それでも我武者羅に走った。一気に東京へ向かった。何処かで一休みするなんて考えはまるでなかった。やがて、体が寒気で震え始めてきた。必死になって体を緊張させ、震えを堪えながら走った。そして走りきり、東京のあいつの部屋に倒れこんだ。冷たい汗でビッショリだった。&lt;br /&gt;
　それから三日三晩、寝込む羽目になった。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　蟻を苛めた報い？　しかし、あの頃の俺は、熱に浮かされる苦しい時をやり過ごすことが出来たんだ。&lt;br /&gt;
　俺は、急にまた、蟻どもに散水してやろうかと思い始めた。&lt;br /&gt;
　いや、それだけじゃ、気が済みそうにない。今度は、俺の足で踏み潰してやるのだ。あの日は、中途半端だったんだ。だから俺は錦を飾ることができなかったのだ…。とことん、やってしまえば、熱に魘されるだけじゃ済まない筈だ。&lt;br /&gt;
　そう思うと、衝動を抑えることは出来なかった。俺は靴下を剥ぎ取った。やるんなら徹底的だ！　&lt;br /&gt;
　コンクリートの上をくねる黒い大蛇の腹を裸足で思いっきり踏みつけた。けれど、キューという鳴き声の一つも上がらなかった。それが腹立たしかった。せめて一声、泣いて見せろよ。詫びを入れてみろよ！　ええ、何、我慢してるんだ！&lt;br /&gt;
　が、大蛇は、どこまでも押し黙ったまま、無数の肉の塊へと潰れていくだけだった。足の裏は汗と脂と怒りと涙で、グジャグジャだった。俺が生きていると感じられるのは、こんな瞬間でしかないのか…！&lt;br /&gt;
　やがて、悲しみ以上に残酷な沈黙が辺りを支配していた。&lt;br /&gt;
　残ったのは、蟻の葬列、そして俺の夢の骸。 &lt;br /&gt;
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（02/6/26作）&lt;br /&gt;
&lt;/p&gt;</content:encoded>


<dc:subject>小説（オレもの）</dc:subject>
<dc:subject>旧稿を温めます</dc:subject>

<dc:creator>国見弥一</dc:creator>
<dc:date>2008-05-10T10:37:23+09:00</dc:date>
</item>
<item rdf:about="http://atky.cocolog-nifty.com/houjo/2008/04/post_a724.html">
<title>嗤わぬ月</title>
<link>http://atky.cocolog-nifty.com/houjo/2008/04/post_a724.html</link>
<description>　毎日ではないが、夕方から真夜中過ぎまで、そう草木も眠るという丑三つ時頃まで、富...</description>
<content:encoded>&lt;p&gt;　毎日ではないが、夕方から真夜中過ぎまで、そう草木も眠るという&lt;a href=&quot;http://www.tamagoya.ne.jp/potechi/2005/20050928.htm&quot;&gt;丑三つ時&lt;/a&gt;頃まで、富山の町を車でウロウロしつつ働いている。&lt;br /&gt;
　昨晩は見事な月を折々に愛でることができた。暖かな日差しに恵まれた日中は、それでも吹き渡る風がやや強かった。東京など関東や東日本では突風というのか強風が吹き荒れていた。&lt;br /&gt;
　その風も夜には収まっていた。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;&lt;a href=&quot;http://atky.cocolog-nifty.com/photos/uncategorized/2008/04/20/blue03.jpg&quot;&gt;&lt;img alt=&quot;Blue03&quot; title=&quot;Blue03&quot; src=&quot;http://atky.cocolog-nifty.com/bushou/images/2008/04/20/blue03.jpg&quot; width=&quot;200&quot; height=&quot;149&quot; border=&quot;0&quot; style=&quot;float: left; margin: 0px 5px 5px 0px;&quot; /&gt;&lt;/a&gt;&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　風が空の塵や埃や花粉の類いを綺麗に拭い去ってくれたようで、夜気が澄み渡って感じられる。&lt;br /&gt;
　夕方になって仕事先へ向う道すがら、夜になって雨にならないかと天蓋を眺めてみると、月影が清かである。ほぼ満月の月。今夜どころか明日も雨の心配はなさそうである。&lt;br /&gt;
　月が地上の世界を明るくしている。夜空を横切る筋状の雲を背後から照らし出して真っ白に、そして薄い真綿のように見せている。&lt;br /&gt;
　そんな透き通るように眩く輝く雲よりも月は煌々と照っている。&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　磨きぬいた鏡よりも怜悧な輝き。&lt;br /&gt;
　情の念のあまりの深さのゆえにか酷いほどに静まり返った月影。&lt;br /&gt;
　地上世界にあって些事に日々汲々としている我が身を嗤ってもくれない。&lt;br /&gt;
　大理石の光沢にも似た深い青色の海。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;&lt;a href=&quot;http://atky.cocolog-nifty.com/photos/uncategorized/2008/04/20/blue02.jpg&quot;&gt;&lt;img alt=&quot;Blue02&quot; title=&quot;Blue02&quot; src=&quot;http://atky.cocolog-nifty.com/bushou/images/2008/04/20/blue02.jpg&quot; width=&quot;200&quot; height=&quot;149&quot; border=&quot;0&quot; style=&quot;float: right; margin: 0px 0px 5px 5px;&quot; /&gt;&lt;/a&gt;&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　できることなら能面のような、そうどんな表情も所詮は己の渇いた心をしか映してくれない完璧な球体のような世界。&lt;br /&gt;
　何処へでも行ける。何故なら何処へ行ってもそこには己が纏わりついているから…という懐かしい慨嘆の念さえ思い出させそうな夜。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　あの頃、お前は一人きりの部屋で呟いたね。&lt;br /&gt;
&lt;blockquote&gt;　月の光が、胸の奥底をも照らし出す。体一杯に光のシャワーを浴びる。青く透明な光の洪水が地上世界を満たす。決して溺れることはない。光は溢れ返ることなどないのだ、瞳の奥の湖以外では。月の光は、世界の万物の姿形を露わにしたなら、あとは深く静かに時が流れるだけ。光と時との不思議な饗宴。&lt;/blockquote&gt;&lt;br /&gt;
&lt;a href=&quot;http://atky.cocolog-nifty.com/photos/uncategorized/2008/04/20/yozakura06.jpg&quot;&gt;&lt;img alt=&quot;Yozakura06&quot; title=&quot;Yozakura06&quot; src=&quot;http://atky.cocolog-nifty.com/bushou/images/2008/04/20/yozakura06.jpg&quot; width=&quot;200&quot; height=&quot;149&quot; border=&quot;0&quot; style=&quot;float: left; margin: 0px 5px 5px 0px;&quot; /&gt;&lt;/a&gt;&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　そんなお前はもういない。&lt;br /&gt;
　お前は物質にさえなれなかった。その証拠にお前はとうとう恍惚の時をみすみす手ずから逃（のが）してしまったではないか。&lt;/p&gt;

&lt;blockquote&gt;　この世にあるのは、物質だけであり、そしてそれだけで十分過ぎるほど、豊かなのだという感覚。この世に人がいる。動物もいる。植物も、人間の目には見えない微生物も。その全てが生まれ育ち戦い繁茂し形を変えていく。地上世界には生命が溢れている。それこそ溢れかえっている。&lt;/blockquote&gt;
　ああなんと白々しい！
　今のお前には命などない。命の輝きなど無縁だ。パサパサの地上世界を這い蹲っているだけだ。今のままでは干からびる一方だ。

&lt;p&gt;　さあ、どうする？&lt;br /&gt;
　どうしようもない？&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　おっと、感傷に浸っている暇などない。今夜もいつも以上に地を這うのさ。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;&lt;br /&gt;
［画像はすべてFree Web Graphicsサイトの「&lt;a href=&quot;http://www.d3d.co.jp/~akop/index.html&quot;&gt;La Moon&lt;/a&gt;」より借りました。］&lt;/p&gt;</content:encoded>


<dc:subject>妄想的エッセイ</dc:subject>
<dc:subject>心と体</dc:subject>
<dc:subject>日記・コラム・つぶやき</dc:subject>

<dc:creator>国見弥一</dc:creator>
<dc:date>2008-04-21T10:01:04+09:00</dc:date>
</item>
<item rdf:about="http://atky.cocolog-nifty.com/houjo/2008/03/post_f117.html">
<title>メロディが鳴っている</title>
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<description>　突然、懐かしいメロディが聴こえてきた。 　家の近くにある用水に架かる小さな橋を...</description>
<content:encoded>&lt;p&gt;　突然、懐かしいメロディが聴こえてきた。&lt;br /&gt;
　家の近くにある用水に架かる小さな橋を渡っていたときだった。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　引っ越してきて、家の周辺を一人で散歩するのは初めてだった。&lt;br /&gt;
　何日か前、誰かと一緒にこの橋も渡ったことは覚えている。&lt;br /&gt;
　初めての橋じゃない。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;&lt;a href=&quot;http://atky.cocolog-nifty.com/photos/uncategorized/2008/03/31/08_0325narrow1.jpg&quot;&gt;&lt;img alt=&quot;08_0325narrow1&quot; title=&quot;08_0325narrow1&quot; src=&quot;http://atky.cocolog-nifty.com/houjo/images/2008/03/31/08_0325narrow1.jpg&quot; width=&quot;150&quot; height=&quot;186&quot; border=&quot;0&quot; style=&quot;float: left; margin: 0px 5px 5px 0px;&quot; /&gt;&lt;/a&gt;&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　辺りには誰もいない。&lt;br /&gt;
　直前に見知らぬ人が自転車で駆け抜けていったから、もしかしてその男がとも思ったけれど、後姿はとっくに小さくなっていた。鼻歌も何も聴こえるはずがない。&lt;br /&gt;
　大体、近付くときには何も聴こえなかったはずだ。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　周囲を見回してみた。&lt;br /&gt;
　せいぜいこの十年ほどの間に建ったような家々が並んでいる。&lt;br /&gt;
　人影はない。窓も扉もしっかり閉じられている。&lt;br /&gt;
　春が近いとはいえ、まだ寒いのだ。&lt;br /&gt;
&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　メロディが鳴り続けていた。&lt;br /&gt;
　気のせいか、段々大きくなるようだ。&lt;br /&gt;
　これ以上、大きくなったら近所迷惑になりそうだった。&lt;br /&gt;
　小心者のボクは弁解の言葉を捜していた。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　違うんです。ボクのせいじゃないんです。どこかあっちのほうから聴こえてくるじゃないですか…。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　でもここでボクは言葉に詰まった。&lt;br /&gt;
　&quot; あっち &quot;って一体どっちなのか、サッパリ分からないのだ。&lt;br /&gt;
　メロディは確かに鳴っている。懐かしい、誰が知っているはずのメロディ。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　歌詞も付いているはずの曲だけど、メロディだけが聴こえ続けていた。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　ボクは誰でもいい、一緒に聴いてほしいと思った。&lt;br /&gt;
　いや、正直、一緒に聴いてくれる人が欲しいと願った。&lt;br /&gt;
　…誰かに傍に居て欲しいんだ！&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　長い、長すぎる。一人で居るのが長すぎた…。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　もしかして、ただの耳鳴りなのだろうか。&lt;br /&gt;
　聴こえているのはボクだけなんだろうか。&lt;br /&gt;
　ボクの頭の中で鳴っているだけなんだろうか。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　頭がおかしい？&lt;br /&gt;
　寂しい、寂しい、誰か友だちが欲しいって思ってたから、神様がプレゼントしてくれた？&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　メロディが鳴っている。&lt;br /&gt;
　ボクはメロディが欲しかったんだろうか。友達じゃなくて。&lt;br /&gt;
　神様が願いを誤解するはずないよね。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　メロディだけなの？&lt;br /&gt;
　ハーモニーはないの？&lt;br /&gt;
　リズムは？&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　友だちとのハーモニーは望めないの？&lt;br /&gt;
　友だちの胸のリズムは感じちゃいけないの？&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　メロディって、何？&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　もしかしてこの場所がいけないんだろうか。&lt;br /&gt;
　ボクが覚えていないだけで、遠い昔ボクがここで何か悪さしたとか？&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　急に小さな橋の上に立ちつづけていることが怖くなった。&lt;br /&gt;
　なんでもないのに、橋の上でキョトキョトキョロキョロしてるなんて、絶対、おかしい！&lt;br /&gt;
　ボクはその場を離れた。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　不思議なことに、橋から遠ざかるとメロディも薄れ弱まり、やがて消えていった。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　何日間はあの橋を避けるようにしていた。&lt;br /&gt;
　ボクのうちの二階のベランダから例の橋が見える。&lt;br /&gt;
　渡る人を見ても、誰も不思議がる様子は窺えない。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　退屈だった。そして、寂しかった。&lt;br /&gt;
　胸の中が空っぽだった。&lt;br /&gt;
　ただ、メロディの余韻というのか名残りなのか、寝入ろうとするときには特に何か波のようなもの、迷子になった筋雲の切れっ端のような、ドアに挟まって千切れた上着の布切れのような、変てこなものが瞼の裏に、耳の底に見えるようであり、聴こえるようでもあった。&lt;br /&gt;
　&lt;br /&gt;
　もどかしかった。&lt;br /&gt;
　そのメロディはそこにある。&lt;br /&gt;
　でも、つかめない。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　&lt;br /&gt;
　メロディの影はボクの中で巨大な黒雲になっていた。&lt;br /&gt;
　メロディの影に圧倒されてしまっていた。&lt;br /&gt;
　怖かった。&lt;br /&gt;
　その代わり、寂しさを感じなくてすむ。&lt;br /&gt;
　吐きたくなるほどの、髪の毛を掻き毟りたくなるような、そんな孤独とはさよならできた。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　やっぱり、行くしかないんだ。&lt;br /&gt;
　ボクにはこうするしかないんだ。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　とうとう我慢がならなくなった。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　何日経ったかしれないある日、ボクはあの橋へ向った。&lt;br /&gt;
　他の誰にも何も害はないんだ、渡ったってどうってことはないはずだ。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　仮にボクにしか聴こえないのだとして、別に構わないじゃないか。自分に何か異常があったわけじゃなし！&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　それでいて恐怖感なのか、ただの緊張感なのか、体が強張るのを感じていた。&lt;br /&gt;
　終いには、橋に近付くにつれ、ブルブル震えてきた。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　歩くんだ。行くんだ。これはきっと神様がボクに与えた試練なんだ。&lt;br /&gt;
　ボクだけにしか達成できない秘密の冒険なのに違いないんだ。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　ちっちゃな橋が目前にあった。&lt;br /&gt;
　もう、メロディが鳴り始めているようだ。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　ここに来てボクはビビリ始めた。&lt;br /&gt;
　本当は渡っちゃいけないんじゃないのか…。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　違う！&lt;br /&gt;
　勇気だ。&lt;br /&gt;
　この前は怖くなって後戻りしてしまった。&lt;br /&gt;
　渡りきってしまえば、なんてことはない。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　橋の向こう側にきっとハーモニーやらリズムやらが待っているに違いない。&lt;br /&gt;
　渡るんだ。越えてしまうんだ。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　橋の幅は２メートルもない。用水など、１メートルもあるかどうか。&lt;br /&gt;
　いざとなったら、橋を飛び越えちゃえばいい。２メートルほどならボクにだってジャンプできる。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　ボクは、橋の手前、十メートルのところから駆け出した。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　一気だ。思い切って飛び越すんだ。&lt;br /&gt;
　きっと、橋のど真ん中でメロディが鳴り、渡りきったらハーモニーとリズムが共に手を携えてボクを迎えてくれる。ボクの孤独ともおさらばだ！&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　勢い良く駆けた。風が耳元で鳴った。メロディとハーモニーとリズムのかたまりだった。これだ、ボクが欲しかったのはこれだ！&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　が、ボクはヘマをした。橋の手前の小さな段差に足を取られた。&lt;br /&gt;
　つまづいて、体が妙なふうに回転し、何とか倒れこむのを踏ん張ろうとしたら、今度はその足が橋の端の十センチほどのガードに引っ掛かり、用水に頭から突っこむ羽目になった。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;&lt;br /&gt;
　何日かして、橋の袂に花束が手向けられていた。&lt;br /&gt;
　誰にもその少年の＜自殺＞の理由は分からないままだった。&lt;/p&gt;</content:encoded>


<dc:subject>小説（ボクもの）</dc:subject>
<dc:subject>小説（幻想モノ）</dc:subject>

<dc:creator>国見弥一</dc:creator>
<dc:date>2008-03-31T11:31:20+09:00</dc:date>
</item>
<item rdf:about="http://atky.cocolog-nifty.com/houjo/2008/03/post_946e_1.html">
<title>煙草に火を点けて</title>
<link>http://atky.cocolog-nifty.com/houjo/2008/03/post_946e_1.html</link>
<description>　街がやたらと変化していく。 　ほんのしばらく足を向けないだけで、気が付くと嘗て...</description>
<content:encoded>&lt;p&gt;　街がやたらと変化していく。&lt;br /&gt;
　ほんのしばらく足を向けないだけで、気が付くと嘗てはあったはずの木造二階建てのアパートや古びた工場が消え去って、更地か駐車場になっている。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　俺は某町の一角にあったアパートを見るのが好きだった。&lt;br /&gt;
　何十年という歳月を感じさせる朽ちかけた木の塀や壁。きっと開け閉てするとギーという音がするだろうし、びったり閉まることはないだろうという窓。&lt;br /&gt;
　雨が降ったら、紙の家のように水が染み込み、そう、きっと廊下とか誰かの部屋のベニヤ板の天井には雨漏りの染みの痕が生々しいに違いない。&lt;br /&gt;
　モルタルの壁の透き間にはウレタンのテープなどが巡らせてあるに違いない。触るとポロポロ剥げ落ちる壁には、&lt;a href=&quot;http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%BA%BB%E7%94%B0%E5%A5%88%E7%BE%8E&quot;&gt;麻田奈美&lt;/a&gt;のポスターなどが貼ってあったりして。&lt;br /&gt;
（奈美の奴、あの顔で、凄い胸だった。）&lt;br /&gt;
　今度、強い風が吹いたら倒壊するに違いない。&lt;br /&gt;
&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　俺はあのアパートを見るのが好きだったのだ。&lt;br /&gt;
　別に知り合いが住んでいるわけじゃない。&lt;br /&gt;
　ともかく好きだったのだ。&lt;br /&gt;
　もしかしたら…&lt;br /&gt;
　あるいは、俺が遠い昔に住んでいた下宿に似ているからなのかもしれない。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　このうらぶれたおっさんが、昔は学生だったことがあるなんて、公園の誰も信じないだろう。&lt;br /&gt;
　出っ腹の、浮腫み顔の、気弱なおっさん。他の奴等のように痩せさらばえていれば、少しは恰好がつくのに…。&lt;br /&gt;
　でも、あの頃は走ることが好きだった。好きが昂じて新聞配達だってやった。生活のためというより、走るため、走って汗を流すため。決して、配達コースの途中のどこかのブロック塀の上から女風呂が覗けるという余得のためばかりじゃなかったのだ。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　本を読むことだって好きだった。&lt;br /&gt;
　いや、こっちはちょっと見栄が混じっている。虚勢を張って読んでいたような気がする。周りの皆が読んでいる本を、分かろうがどうしようが、とにかく読み進めていった。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　まわりが文学だ哲学だと言っている陰で、俺は密かに詩を読んでいた。&lt;br /&gt;
　詩を謡った。&lt;br /&gt;
　でも、周りには誰も詩の好きな奴がいなくて、自分が軟弱な人間なのかと悩んでもいたのだ。&lt;br /&gt;
　そうだ、昔は目だってよかったのだ。俺の自慢は走ることと目のいいこと。誰よりも遠くの看板の細かな文字を識別できたんだ。&lt;br /&gt;
　あの人が角を曲がる前にだって、あの人の姿を彷彿とすることだってできた。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　けれど、今は見る影もない。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　ボロアパートは消え去って、茫漠とした更地が拡がっているだけだ。&lt;br /&gt;
　俺はガッカリした。俺の唯一の親友だったのに。俺のことを分かってくれるただ一人の心の友だったのに。&lt;br /&gt;
　俺は、好きだった。大好きだった。なのに…、今は…、声もない。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　悄然とした俺は、いつもの公園に向かった。心に火を点けるために。&lt;br /&gt;
　都会では焚火をすることなど論外だ。秋も深まって寒さが身に沁みる。弱った体には尚のこと、吹きっ晒しの風はきつい。俺をせめているようだ。&lt;br /&gt;
（あの日、あの時、俺が好きだと言いそびれたことがそんなにも罪なことだったのか）&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　この頃は、吸殻だって、めったに落ちてはいない。あってもフィルターだけってのがほとんどだ。路上を方々彷徨って、吸殻を拾い捲って、やっと３本の&lt;a href=&quot;http://www.jti.co.jp/Culture/museum/tokubetu/eventDec/sikemoku.html&quot;&gt;シケモク&lt;/a&gt;が出来た。&lt;br /&gt;
　これが今日の収穫だ。&lt;br /&gt;
　まあまあの収穫じゃないか！&lt;br /&gt;
　大したものだ。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　それが今夜の俺の焚火のネタなのだ。&lt;br /&gt;
　メラメラと燃え上がる炎を見たかった。焚火の火に当たって、心をなどと贅沢は言わない、体だけでも暖めたかったのだ。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　でも、都会という奴はそんな願いを踏み躙る。&lt;br /&gt;
　だから俺は、せめて公園の中の築山の影の木立に埋もれ風を防ぎながら、拾ってきた百円ライターでシケモクに火を点ける。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　この数年は、百円ライターさえ、めったに落ちていない。ほんの二三年前には、飲み屋の裏のゴミ箱か駅の灰皿を漁ったら幾つも見つけることができたのに。それも、新品同然の奴を、だ。仲間の間じゃ、鼻高々だ。&lt;br /&gt;
　だから、今では百円ライターは宝物なのだ。俺は三個も持っているんだ！&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　ライターの火を、チョロチョロさせてシケモクに火を点ける。スパ、スパ、スパ、と慌しく火を点ける。ライターのガスが減るのが勿体無いのだ。&lt;br /&gt;
　でも、あまり懸命に息を吸ったりすると、噎せるだけじゃなく（肺の調子が今一つだ）、シケモクが呆気なく燃え尽きてしまう。この兼ね合いが難しいのだ。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　漆黒の闇の底を流れる深い河。そこに蛍の火のような灯りが舞い浮かぶ。&lt;br /&gt;
　あっ！　しまった。シケモクの出来が悪くて、空中分解しやがった！&lt;br /&gt;
　飛び散ったのは火の粉？　違う！　星屑だ。つい握り損ねたシケモクの葉の粉が儚い赤となって闇の海に沈む。&lt;br /&gt;
　風前の灯火のように煌く。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　でも、俺には命の輝きなのだ。あと何日、こんな眩い煌きを堪能することができるだろうか。&lt;br /&gt;
　星よ、星よ！　煙草の火よ！&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　嬉しいことに、今日はひもじくはない。フライドポテトを三本も食べたのだ。グルメになったような気分だ。脂肪分の摂り過ぎを心配するほどだ。&lt;br /&gt;
　しかも今日はシケモクが未だ２つも残っている！&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　だから、俺は蝋燭の焔よりもっと儚い、けれど、だからこそ切ない煙草の火をゆとりをもって愛でることに集中できるのだ。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　煙草の煙が舞い上がって、木立の透き間に差し込む街灯の光を一瞬、浴びる。&lt;br /&gt;
　紫煙の夢幻に変貌する形。&lt;br /&gt;
　魂の形。男と女の形。あの人の形。手の届かない夢の形。&lt;br /&gt;
　俺は自分が今こそ本物の詩人になったような気がする。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　詩。&lt;br /&gt;
　詩は特別なものなんかじゃない。&lt;br /&gt;
　この世界そのものが詩なのだ。&lt;br /&gt;
　キンキンに冷えた秋の夜。天には星と月影。地上には俺が息を吐くたびに漂う銀色の湖。そして小さな紫の雲。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　そんな贅沢な世界が目の前にあることに気付くのが遅すぎたのだろうか。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　そんなことはないのだろう。あの世へ行けば、心行くまで詩を作ることができる。&lt;br /&gt;
　いや、死の瀬戸際には往生際の悪い俺のことだ、きっと死にたくない！　野垂れ死になんて嫌だ！って喚き散らすに違いない。&lt;br /&gt;
　天上世界の星屑の奏でる交響楽を、それとも流れ星という弦を張ったハープでセレナーデを奏でることができる。&lt;br /&gt;
　そこに俺の呻き声というソロが朗々と鳴り響くというわけだ。&lt;br /&gt;
　翌朝には灰となった俺。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　世界は詩だ。俺は世界で唯一の詩人だ。命を代償の司祭だ。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　そのことに気付いただけでも、素晴らしいことなんじゃなかろうか。&lt;/p&gt;</content:encoded>


<dc:subject>妄想的エッセイ</dc:subject>
<dc:subject>小説（オレもの）</dc:subject>
<dc:subject>日記・コラム・つぶやき</dc:subject>
<dc:subject>旧稿を温めます</dc:subject>

<dc:creator>国見弥一</dc:creator>
<dc:date>2008-03-05T00:19:17+09:00</dc:date>
</item>
<item rdf:about="http://atky.cocolog-nifty.com/houjo/2008/02/post_bd94_1.html">
<title>放火魔</title>
<link>http://atky.cocolog-nifty.com/houjo/2008/02/post_bd94_1.html</link>
<description>　真夜中の病室。隣り合う人たちも、ようやく眠りに就いている。 　看護の人も先ほど...</description>
<content:encoded>&lt;p&gt;　真夜中の病室。隣り合う人たちも、ようやく眠りに就いている。&lt;br /&gt;
　看護の人も先ほど見て回って行ったばかりである。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　静まり返った病室での楽しみは、こっそり蝋燭に火を灯すこと。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　蝋燭の焔は、今日は真っ暗闇の中に何を浮かび上がらせてくれるだろうか。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;&lt;a href=&quot;http://atky.cocolog-nifty.com/photos/uncategorized/2008/02/27/fire.jpg&quot;&gt;&lt;img alt=&quot;Fire&quot; title=&quot;Fire&quot; src=&quot;http://atky.cocolog-nifty.com/houjo/images/2008/02/27/fire.jpg&quot; width=&quot;210&quot; height=&quot;157&quot; border=&quot;0&quot; style=&quot;float: right; margin: 0px 0px 5px 5px;&quot; /&gt;&lt;/a&gt;&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　そもそも闇の中でポツンと立つ蝋燭が何かを照らし出したとして、それが何か意味を持つのだろうか。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　&lt;a href=&quot;http://atky.cocolog-nifty.com/houjo/2005/11/post_74f7.html&quot;&gt;誰もいない森の中で朽ち果てた木の倒れる音&lt;/a&gt;というイメージと同じく、病室という名の、誰も見ていない闇夜の地蔵堂に立てられた蝋燭の焔の織りなす影は、ある種、夢幻な世界を映し出していると、ほとんど意味もないレトリックを弄して糊塗し去るしかないのか。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　夜の深みに直面して、何を思う？&lt;br /&gt;
&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　過ぎ去った遠い昔のこと、それともあるかないか分からない明日のこと、もしかしたら信じている振りを装ってきた将来のこと。&lt;br /&gt;
　消え行く魂の象徴としての、吹きもしない風に揺れる小さな焔だけが確かだ。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　焔とは魂の象徴。&lt;br /&gt;
　だとして、それは一体、誰の魂なのか。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　自分の魂！　と叫んでみたいような気がする。&lt;br /&gt;
　不安に慄き、眩暈のするような孤独に打ちのめされ、誰一人をも抱きえず、誰にも抱かれない幼児（おさなご）の自分の魂なのだ！　と誰彼なく叫びまわりたい気がする。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　許されるなら、体の自由が利くのなら、今すぐにもベッドから飛び出して、非常灯からの緑色や橙色の薄明かりに沈む長い長い廊下を駆けて行きたいと思ったりもする。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　あの扉の向うには、きっとあの人が待っていてくれるはずなのだし。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　できはしない！　そんなことができるくらいだったら、とっくの昔にやっていることなのだ。&lt;br /&gt;
　せいぜいお前の出来ることといったら、ちっちゃな焔を闇夜の海に放り投げるくらいのものじゃないか！&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　胸の内の情熱の焔（ほむら）は誰にも負けないほどに燃え盛っている。なのに、誰に気遣い彼に気兼ねし、気がついたら焔は燻ったままに、肉体の闇からあの世の闇へと流されていく。水子のように。&lt;br /&gt;
　一体、何のための人生かと思い惑う。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　愚か者だもの、末期の闇を見詰めるこの期に及んでやっと哲学する重さを感じるのも無理はないのだろう。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　何があるのか。何がないのか。何かがあるとかないとかなどという問い掛けそのものが病的なのか。&lt;br /&gt;
　闇の中、懸命に蝋燭の焔を思い浮かべる。&lt;br /&gt;
　そう、魂に命を帯びさせるように。&lt;br /&gt;
　焔が幾つもの分身を闇に撒き散らす。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　それとも、誰のものでもない、命のそこはかとない揺らめきを、せめて自分だけは見詰めてやりたい、看取ってやりたいという切なる願いだけが確かな思いなのだろうか。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　きっと、魂を見詰め、見守る意志にこそ己の存在の自覚がありえるのかもしれない。&lt;br /&gt;
　風に揺れ、吹きかける息に身を捩り、心の闇の世界の数えるほどの光の微粒子を掻き集める。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　けれど、手にしたはずの光の粒は、握る手の平から零れ落ち、銀河宇宙の五線譜の水晶のオタマジャクシになって、輝いてくれる。星の煌きは溢れる涙の海に浮かぶ熱い切望の念。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　蝋燭の焔もいつしか燃え尽きる。漆黒の闇に還る。僅かばかりの名残の微熱も、闇の宇宙に拡散していく。&lt;br /&gt;
　それでも、きっと尽き果てた命の焔の余波は、望むと望まざるとに関わらず、姿を変えてでも生き続けるのだ。&lt;br /&gt;
　一度、この世に生まれたものは決して消え去ることがない。あったものは、燃え尽きても、掻き消されても、踏み躙られても、押し潰されても、粉微塵に引き千切られても、輪廻し続ける。&lt;br /&gt;
　輪廻し続ける…。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　なのだとして、ああ、お前は戯言を吐くばかり。&lt;br /&gt;
　寂しい！　という一言が何故叫べないのだ。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　見ろよ！　お前の放った小さな焔が今、あんなに燃え盛っているじゃないか！&lt;br /&gt;
　そう、お前の代わりに町中で叫んで回っているのだ！&lt;br /&gt;
　孤独を思い知れと。&lt;/p&gt;</content:encoded>


<dc:subject>妄想的エッセイ</dc:subject>
<dc:subject>小説（オレもの）</dc:subject>
<dc:subject>心と体</dc:subject>
<dc:subject>日記・コラム・つぶやき</dc:subject>
<dc:subject>旧稿を温めます</dc:subject>

<dc:creator>国見弥一</dc:creator>
<dc:date>2008-02-27T00:32:19+09:00</dc:date>
</item>
<item rdf:about="http://atky.cocolog-nifty.com/houjo/2008/02/post_f359.html">
<title>水たまり</title>
<link>http://atky.cocolog-nifty.com/houjo/2008/02/post_f359.html</link>
<description>　久しぶりに夜の町を散歩した。 　いつだったか、いつも通りに気分よく散歩していた...</description>
<content:encoded>&lt;p&gt;　久しぶりに夜の町を散歩した。&lt;br /&gt;
　いつだったか、いつも通りに気分よく散歩していたら、警察官に誰何され、それ以来、夜中に徘徊するのを躊躇っていた。&lt;br /&gt;
　でも、梅雨の束の間の晴れ間で、しかも明日からはまたしばらく空が愚図付くということなので、思い切って外出することにしたのである。&lt;br /&gt;
　明日は間違いなく雨模様だという予報。&lt;br /&gt;
　けれど、歩いてみても綿のシャツがジトッとすることはない。ゆっくり歩いている分には、汗を気にせずに歩ける。なんだか、それだけで嬉しい。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　梅雨の時期の散歩は、湿気のせいで、体に衣服がベト付き、深夜に特有の尖った刃のような闇を感じないで済む。狂気も霊気も切っ先が錆び付いてしまうのである。&lt;br /&gt;
　けれど、今日の空気は乾いている。それだけが俺には気にかかる。&lt;br /&gt;
&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　警察官に呼び止められた方面にはさすがに足は向かない。&lt;br /&gt;
　ほぼ反対の方向へダラダラと歩いている。歩くルートが違うと、町の表情も違って見える。&lt;br /&gt;
　そのうち、やっと車が擦れ違えるような道幅の舗装された道から、さらに枝分かれした細い道のあることに気が付いた。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　めったに歩かない町だとはいえ、二度や三度はその前を行き過ぎたことはあったはずなのに、どうして気が付かなかったのだろう。&lt;br /&gt;
　でも、別に怪しい感じはしない。ちゃんとコンクリート舗装されている。こんな裏の路地までセメントなんかで固めなくてもいいのにと思うような、細い道。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　両脇には小さな民家が密集している。建物の周りは塀で囲まれている。その間は、猫がやっと通れるくらいの透き間しかない。それでも塀が欲しいし、一角には庭が欲しいのだ。&lt;br /&gt;
　出窓にはレースのカーテン越しにプランターが垣間見える。出窓のある部屋の奥の部屋からの明かりだろうか、白っぽい光が漂っている。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　さすがに立ち止まるわけにはいかない。警察官でなくても不審者と思われかねない。何が物騒と言って、誰もが誰に対しても不審の念を以って見る、そんな風潮が悲しい。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　自分という人間が、どんなに平凡な人間で、どれほど軟弱な人間なのかを知るのは、結局のところ、自分以外にはいない。町を出歩くのも、ただただ寂しいからに過ぎない。一人であることに堪えられない、そんな弱虫なのだ。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　許されるなら、大声を張り上げて、助けてくれ！　とＳＯＳを発したくなる。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　勿論、我慢する。胸のうちの張り裂けそうな悲しみも嘆きもすべて、紙屑を屑篭に棄てるように、夜の闇に棄てる。&lt;br /&gt;
　町の灯りがどれほど愛しいものなのか、どれほど切なく感じているかを誰に告げたらいいのだろう。&lt;br /&gt;
　それでいて、誰かが傍に近づくと、こっちはこっちで警戒したり、心にもなく邪険に振る舞ったり。こんなはずじゃないのだけれど、と思いつつも、一層、孤立の島へ自分を追いやっていくのだ。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　耳聡い…いや、臆病な俺は、遠くからのハイヒールの足音を聞き逃さない。急いで遠ざかる。存在をその場から消す。何処でもいい、とにかく人影のない場所へ自分を追いやる。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　すると、今度は、目の前を黒い影が行き過ぎた。猫だ！　&lt;br /&gt;
　猫の奴は俺より用心深い。俺が人を避ける以上に、猫の奴は俺を避ける。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　猫よ！　お前だけは俺を分かってくれたっていいじゃないか。どうして俺を避けるんだ。俺の気持ちを分かる奴がこの世にいるとしたら、それは猫以外に考えられない俺なんだぞ！&lt;br /&gt;
　なんだか、妙に向かっ腹が立ってきて、猫が消えたブロック塀に背を向け、ことさらに違う方向に足を向けた……。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　そんなことを繰り返すうちに、本当に見知らぬ町へ迷い込んでしまった。住居表示を読んでも、聞いたことがあるかなという程度である。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　空には疎らな星。月は隠れている。雲に覆われているようだ。微かに月明かりの余韻が夜の底に零れている。夕刻だったか、さっと降った雨でできた水溜りに、月の光の欠片が滲んでいる。気のせいか、赤っぽいような、何処か不気味な色合いである。&lt;br /&gt;
　何処か朱色っぽい橙色の光の戯れにしばらく見惚れていた。風もないのに、何故、水面が揺らぐのか、俺には分からなかった。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　次第に俺は、その水の出所が気になり出した。地面にひび割れでもあって、水が溢れ出しているのかもしれない。あるいは、もしかしたら何処かから雨水か排水が流れ込んでいるのかもしれない。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　水の揺らぎの一番、大本になっている辺りを眺めてみた。&lt;br /&gt;
　やっぱりアスファルトに亀裂が走っている。巾は数センチほどだが、長さが腕ほどもある。すっかり水浸しである。&lt;br /&gt;
　裂け目の底から水がドンドン溢れ出しているのが分かる。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　これが山の中なら、湧水であり、泉であり、コンコンと湧き出す水の様の大好きな俺は、飽かず眺め入ることだろうに。&lt;br /&gt;
　町中だから、ただの雨水の道路への漏水であり、明日になれば消え行く意味のない、一夜限りの池に過ぎない。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　だとしたら、俺だけの池なのか！　そんな大したものじゃないのは分かりきっている。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　俺は、この湧き出でる水が、たとえば高山の麓の水のように、気の遠くなるほどの歳月を経てようやくこの世の光と再会した水だったら、どんなに素晴らしいことかと思った。その出口を見つけたばっかりの水たちと俺とがたった今、こうして出会っているなんて！&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　しかし、夕刻か、せいぜい、昼間に降った雨ではドラマを感じられない。しかも、地べたにだらしなくとぐろを巻いている雨水。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　呆然とちっぽけな水溜りを眺めていると、ふと人の気配を感じた。アスファルトにしがみつき削られるゴムの音。発電機のゴリゴリという音も聞こえてくる。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　自転車を駆るオマワリ？！&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　俺は思わず近くの物陰に身を潜めた。&lt;br /&gt;
　案の定だった。また、オマワリの奴がやってくる。特に急いでいる様子も伺えない。奴より先に気がついてよかったと思った。冷や汗さえ掻いている。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　不意に、いっそのことお巡りさんに声をかけようか、一瞬、そんな思いが浮かんだ。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;――お巡りさん、お喋りしませんか、ボクは淋しいんですよ。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　まさか！　俺はここまで追い詰められているのだろうか……。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　俺は、奴が走り過ぎると、慌ててその場を去った。俺の本音が露見したような気がしたのだ。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　誰にも見咎められることなく、立ち去れるだけでもありがたいと思った。そうだ、それだけでもいいんだ。それだけでも、今の俺にとっては、ありがたいことなのだ。&lt;br /&gt;
　夜の散歩も、もう、できなくなるに違いない。&lt;br /&gt;
　もう、何処にも俺の居場所はないのだから。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;&lt;br /&gt;
旧題：「&lt;a href=&quot;http://homepage2.nifty.com/kunimi-yaichi/essay/foreboding-of-summer.htm&quot;&gt;夏 の 予 感&lt;/a&gt;」&lt;/p&gt;</content:encoded>


<dc:subject>小説（オレもの）</dc:subject>
<dc:subject>心と体</dc:subject>
<dc:subject>旧稿を温めます</dc:subject>

<dc:creator>国見弥一</dc:creator>
<dc:date>2008-02-17T00:49:55+09:00</dc:date>
</item>
<item rdf:about="http://atky.cocolog-nifty.com/houjo/2008/02/post_7e30.html">
<title>滑り台</title>
<link>http://atky.cocolog-nifty.com/houjo/2008/02/post_7e30.html</link>
<description>　あれはずっと昔のこと。もう、記憶の彼方になっている。 　でも、忘れられない。 ...</description>
<content:encoded>&lt;p&gt;　あれはずっと昔のこと。もう、記憶の彼方になっている。&lt;br /&gt;
　でも、忘れられない。&lt;br /&gt;
　忘れられないけれど、一体、何があったのか、自分でも分からない。&lt;br /&gt;
　分からないけれど、何かがあったんだと、疼く胸がハッキリと伝えてくる。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　オレは、あの日、一人で公園の滑り台で遊んでいた。その滑り台は、今にして思うと、&lt;a href=&quot;http://home.raidway.ne.jp/~iharay/suberidai/danchi.htm&quot;&gt;人研ぎ滑り台&lt;/a&gt;という形だったと思う。&lt;br /&gt;
　当時は当たり前の形だったような気がするけれど、ま、そんなことはどうでもいい。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　滑り台の上に登っては、滑る。登っては、滑り降りる。降りては、駆け上っていって、天辺からまた、勢いよく滑り降りる。&lt;br /&gt;
　滑り台の下のほうは、傾斜がなくなっているので、降りていっても、ちゃんとブレーキがかかるようになっている。無論、滑り降りた先には砂場がある。&lt;br /&gt;
&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　でも、何度も滑っていると、何だかつまらなくなって、その傾斜のなくなる直前のところでわざとお尻を少し浮かし、ズックの爪先がコンクリート製の滑る斜面に擦れるようにして変化を加えていた。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　すると、浮かしたお尻が宙に浮かぶし、それどころか体全体までもが宙に飛ぶ。で、気持ちよくジャンプして地面に格好よく、そして勢いよく降り立つというわけだ。&lt;br /&gt;
　宙に浮んだ瞬間の、ほわっとした感じがたまらなく気持ちよかった。&lt;br /&gt;
　もしかしたらオリンピックのジャンプ競技に影響されてだったかもしれない。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　そんな変化技を幾たびか繰り返すうちに、ついにオレは失敗してしまった。&lt;br /&gt;
　踵が予想外に斜面に引っ掛かってしまって、宙に浮くだけじゃなく、体が宙返りしてしまったのだった。しかも、中途半端に。&lt;br /&gt;
　オレは、ほとんど頭から地面に叩きつけられてしまった。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　多分、ハッキリとは分からないのだけど、オレは、そのまま地面に突っ伏したまま長いこと意識を失っていたらしい。&lt;br /&gt;
　そこはらしいとしか今のオレには言えない。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　あの日は、公園に誰も来なかったのだろうか。&lt;br /&gt;
　雨が降っていたわけじゃない。快晴だったかどうかは覚えていないけれど、でも、青空は見えていたような気がする。宙を舞った瞬間、青い空と白い雲が目に眩しかったのを覚えているし。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　オレは恐らくは長い意識喪失の果てに気が付いたような気がする。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　まだ明るかったけど、人の声が遠くから聞こえてきた気がする。&lt;br /&gt;
　というか、人の声で意識が戻ったのかもしれない。オレは、上半身を起こして周囲を見回した。&lt;br /&gt;
　…つもりだったけど、急にまた目がグルグル回りだして、辺りを見渡すどころの騒ぎじゃなかった。&lt;br /&gt;
　吐き気さえしていた。仕舞いには、四囲が竹とんぼみたいに物凄い速さで回転し始めた。回転の中心はオレの中の何かだったような気がする。&lt;br /&gt;
　いや、世界中がオレの脳味噌の中の何処かを中心にフル回転していた。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　吐く余裕さえなくなっていた。意識があるような気がするのだけれど、その意識って奴がいつかテレビで観た鳴門の海の渦潮みたいに激しく渦を巻いている。オレはその渦の底に吸い込まれそうだった。&lt;br /&gt;
　その渦が何だか、オレの体の皮膚を捩って、引っ張って、引っ剥がして、そうして何処までも引っ張り込もうとするのだった。&lt;br /&gt;
　ついには、体が裏返しになった。腸とか心臓とかが日の下に晒されたようだった。胃の腑の中身が噴出した。&lt;br /&gt;
　で、オレはあまりの気持ちの悪さに、またまたぶっ倒れてしまった…、ような気がする。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　でも、倒れるといいながら、垂直の感覚も水平の感覚もないものだから、宙に浮かぶベッドに体が埋まったままに、滅茶苦茶にあちこちと回転させられたり、上下させられたり、あるいは何処かの壁にぶつかって不意に動きが止められたりした。&lt;br /&gt;
　今思うと、無理矢理に立ち上がって、そのままフラフラと歩き出したものだから、何処かの壁か柱か鉄柵かにぶつかったんじゃないかと思う。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　ぶつかった勢いで　オレは衝突した車から体が放り出されるように、オレの意識だけが何処かへスッポリと吹き飛ばされたみたいだった。&lt;br /&gt;
　そう、体は鈍重なものだから、何処か公園の片隅に取り残され、意識だけが体から抜け出して、何処か遠い遠い彼方へ飛び去り消え去っていったのだった。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　それからのオレは、体はここにあるけれど、自分の心って奴が見当たらないような気がする。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　オレはここにいる。&lt;br /&gt;
　でも、もう一人のオレはオレをはるかに高い空から見詰めている。&lt;br /&gt;
　オレはここにいる。でも、いない。オレは空にいる。あの空で地上を眺め下す奴もオレなのだ。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　で、オレは、一体、本当は何処に居るんだろうか。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　誰かオレの居場所、知りませんか？&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;&lt;br /&gt;
［買物の途中、小さな公園を通り抜けた。小雪のチラチラ降る中、滑り台がポツンと所在なさそうに。一瞬、ガキの頃、滑り台で滑り損ねて、砂場に頭から突っこんだことを思い出した。そんなドジはさておいて、数年前、「&lt;a href=&quot;http://homepage2.nifty.com/kunimi-yaichi/essay/slide.htm&quot;&gt;滑 り 台&lt;/a&gt;」って題名の掌編を書いたことを思い出した。なんてことない作品。ある意味、類似する作品に、「&lt;a href=&quot;http://homepage2.nifty.com/kunimi-yaichi/essay/gohst.htm&quot;&gt;幽霊&lt;/a&gt;」がある。］&lt;/p&gt;</content:encoded>


<dc:subject>創作：紀行</dc:subject>
<dc:subject>小説（オレもの）</dc:subject>
<dc:subject>小説（ボクもの）</dc:subject>
<dc:subject>旧稿を温めます</dc:subject>

<dc:creator>国見弥一</dc:creator>
<dc:date>2008-02-10T01:24:21+09:00</dc:date>
</item>
<item rdf:about="http://atky.cocolog-nifty.com/houjo/2008/02/post_db3b_1.html">
<title>明けない夜に</title>
<link>http://atky.cocolog-nifty.com/houjo/2008/02/post_db3b_1.html</link>
<description>　エロティシズムへの欲望は、死をも渇望するほどに、それとも絶望をこそ焦がれるほど...</description>
<content:encoded>&lt;p&gt;　エロティシズムへの欲望は、死をも渇望するほどに、それとも絶望をこそ焦がれるほどに人間の度量を圧倒する凄まじさを持つ。快楽を追っているはずなのに、また、快楽の園は目の前にある、それどころか己は既に悦楽の園にドップリと浸っているはずなのに、禁断の木の実ははるかに遠いことを思い知らされる。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;&lt;a href=&quot;http://atky.cocolog-nifty.com/photos/uncategorized/2008/02/04/4480089829.jpg&quot;&gt;&lt;img alt=&quot;4480089829&quot; title=&quot;4480089829&quot; src=&quot;http://atky.cocolog-nifty.com/houjo/images/2008/02/04/4480089829.jpg&quot; width=&quot;150&quot; height=&quot;211&quot; border=&quot;0&quot; style=&quot;float: left; margin: 0px 5px 5px 0px;&quot; /&gt;&lt;/a&gt;&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;&lt;strong&gt;←　ジョルジュ・バタイユ【著】『&lt;a href=&quot;http://bookweb.kinokuniya.co.jp/guest/cgi-bin/wshosea.cgi?USID=&amp;W-NIPS=9980660821&quot;&gt;聖なる陰謀―アセファル資料集&lt;/a&gt;』（マリナ・ガレッティ【編】・吉田　裕・江澤　健一郎・神田　浩一・古永　真一・細貝　健　ちくま学芸文庫）&lt;/strong&gt;&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　快楽を切望し、性に、水に餓えている。すると、目の前の太平洋より巨大な悦楽の園という海の水が打ち寄せている。手を伸ばせば届く、足を一歩、踏み出せば波打ち際くらいには辿り着ける。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　いざ、その寄せ来る波の傍に来ると、波は砂に吸い込まれていく。波は引いていく。あるいは、たまさかの僥倖に恵まれて、ほんの僅かの波飛沫を浴び、そうして、しめた！　とばかりに思いっきり、舌なめずりなどしようものなら、それが実は海水であり、一層の喉の渇きという地獄が待っている。&lt;br /&gt;
&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　どこまでも後退する極楽。どこまでも押し寄せる地獄。地獄と極楽とは背中合わせであり、しかも、ちっぽけな自分が感得しえるのは、気のせいに過ぎないかと思われる悦楽の飛沫だけ。しかも、舐めたなら、渇きが促進されてしまい、悶え苦しむだけ。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　何かの陥穽なのか。&lt;br /&gt;
　何物かがこの自分を気まぐれな悪戯で嘲笑っているのか。そうなのかもしれないし、そうでないのかもしれない。しかし、一旦、悦楽の園の門を潜り抜けたなら、後戻りは利かない。どこまでも、ひたすらに極楽という名の地獄の、際限のない堂々巡りを死に至る絶望として味わいつづける。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　明けることのない夜。&lt;br /&gt;
　目覚めることのない朝。睡魔は己を見捨て、隣りの部屋の赤い寝巻きの女の吐息ばかりが、襖越しに聞え、女の影が障子に悩ましく蠢く。かすかに見える白い足。二本の足でいいはずなのに、すね毛のある足が間を割っている。オレではないのか！　オレではダメなのか。そう思って部屋に飛び込むと、女が白い肌を晒してオレを手招きする。そうして…。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;&lt;a href=&quot;http://atky.cocolog-nifty.com/photos/uncategorized/2008/02/04/4480087990.jpg&quot;&gt;&lt;img alt=&quot;4480087990&quot; title=&quot;4480087990&quot; src=&quot;http://atky.cocolog-nifty.com/houjo/images/2008/02/04/4480087990.jpg&quot; width=&quot;150&quot; height=&quot;211&quot; border=&quot;0&quot; style=&quot;float: right; margin: 0px 0px 5px 5px;&quot; /&gt;&lt;/a&gt;&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;&lt;strong&gt;→　ジョルジュ・バタイユ【著】『&lt;a href=&quot;http://bookweb.kinokuniya.co.jp/guest/cgi-bin/wshosea.cgi?USID=&amp;W-NIPS=9977851042&quot;&gt;エロティシズム&lt;/a&gt;』（酒井　健【訳】　ちくま学芸文庫）&lt;/strong&gt;&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　夜は永遠に明けない。人生は蕩尽しなければならない。我が身は消尽しなければならない。そうでなければ、永劫、明けない夜に耐えられない。身体を消費しなければならない。燃やし尽くし、脳味噌を焼き焦がし、同時に世界が崩壊しなければならない。&lt;br /&gt;
　そう、我が身を徹底して破壊し、消尽し、蕩尽し、消費し尽くして初めて、己は快楽と合体しえる。我が身がモノと化することによって、己は悦楽の園そのものになる。言葉を抹殺し、原初の時が始まり、脳髄の彼方に血よりも赤い光源が煌き始める。宇宙の創始の時。あるいは終焉の祭り。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;［ 本稿は、&lt;a href=&quot;http://atky.cocolog-nifty.com/manyo/2005/12/post_55b4.html&quot;&gt;ある書評エッセイ&lt;/a&gt;からの抜粋です。到底、書評とは呼べないよね。若い頃のことを思い返しての雑想。不毛と徒労。蕩尽未満だったことが露骨に分かって気恥ずかしい。 （08/02/04 アップに際し、付記）］&lt;/p&gt;</content:encoded>


<dc:subject>妄想的エッセイ</dc:subject>
<dc:subject>心と体</dc:subject>
<dc:subject>思い出話</dc:subject>
<dc:subject>日記・コラム・つぶやき</dc:subject>
<dc:subject>旧稿を温めます</dc:subject>

<dc:creator>国見弥一</dc:creator>
<dc:date>2008-02-04T14:16:44+09:00</dc:date>
</item>
<item rdf:about="http://atky.cocolog-nifty.com/houjo/2008/01/post_dd47.html">
<title>ふでおろし</title>
<link>http://atky.cocolog-nifty.com/houjo/2008/01/post_dd47.html</link>
<description>　我が家の伝統で、息子の筆下ろし（ふでおろし）には父と母が立ち会うことになってい...</description>
<content:encoded>&lt;p&gt;　我が家の伝統で、息子の&lt;a href=&quot;http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AD%86%E4%B8%8B%E3%82%8D%E3%81%97&quot;&gt;筆下ろし（ふでおろし）&lt;/a&gt;には父と母が立ち会うことになっている。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　それは、水ぬるむ５月の初めだった。&lt;br /&gt;
　祭日の朝、いつもより早く、突然、母が真面目な顔をしてボクを起こしにきた。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;――父の書斎に来られ。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　そこでは父が、座卓に向かい何か書き物をしている。&lt;br /&gt;
　父は大切な人には、わざわざ硯で墨を磨り、毛筆の手紙を書いて送るのである。手紙の隅には、顔彩で山里の風景やら田園風景やら、あるいは庭の雑草などを軽く描き添える。&lt;br /&gt;
　我が父ながら、なんとも息を飲む見事さだ。鼻には墨の香りがツンと来て、なんとも心地いい。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　その間、ボクは坐って待たされる。&lt;br /&gt;
　でも、父の手際に見惚れているから退屈はしない。いつかはボクだって父のようになりたい。母もボクの斜め後ろで父が用件を終えるのを黙って見守っている。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　日頃、カカア殿下の我が家でも、書斎では父が断固、上席なのである。口を挟ませない。この四畳半の限られた空間だけが父の天下なのだ。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　やがて、用件を片付けた父が、語り始めた。&lt;br /&gt;
　その表情は、いつもと違う。&lt;br /&gt;
&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　その強張（こわば）ったような、でも、気のせいか、にやけたくなるのを懸命に抑えているような複雑な表情も伺えて、ボクは一層、緊張する。&lt;br /&gt;
　やはり、ただ事ではないようだ。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;――お前も、もう、そろそろ覚えてもいい頃だ。聞き及んでいるかもしれないが、我が家の伝統で、初めての時は、両親の立会いのもとで行うことになっている。最初が肝腎だからな。今日が、その日だ。庭先に準備万端整えてある。今日は快晴だ。青空の下、心行くまでやってもらうぞ。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　ボクはついにこの日が来たということに当惑したけれど、喜びも湧いてくる。大人になるんだ。我が家の成人式なのだ。ふでおろしの日なのだ。&lt;br /&gt;
　ふでおろしといっても、何も書道を習い始めるというわけではない。&lt;br /&gt;
　そう、言うなれば、大地の上でのふでおろしをするのだ。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　開け放たれた縁側の向こうには、ボクの猟場が横たわっている。&lt;br /&gt;
　暖かな日差しに獲物は、ボクの緊張を知らぬげに、のんびりゆったり寛いでいるようだ。どこか、媚びるような笑みさえ浮かべているようにも思える。大人の女のようだ。いや、どんな女（ひと）だって、ボクにはみんな大人の女（ひと）に見えたんだけど。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　あの女（ひと）をボクが今から……。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　ああ、そんなことをしていいものだろうか。&lt;br /&gt;
　人がそんな振る舞いをして許されるんだろうか。&lt;br /&gt;
　でも、その一歩を越さないと男の子は男になれない。一家の大黒柱にはなれないのだ。ボクは勇気を振り絞った。拳を力一杯握っていた。耐え切れるだろうか。最後までやり通せるだろうか。&lt;br /&gt;
　でも、ボクは負けないぞ！&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　父も母も、すっかり身支度をしている。汚れても構わない恰好をする。終わる頃には汗まみれになるはずなのだ。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;――ここには他に誰もいない。お前は、最初から裸になれ。途中で脱ぐのは結構、面倒なものだからな。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　ボクは何となく恥ずかしい。風呂とかは父や母と入ることもあるし、その時は真っ裸っだけど、でも、外なのだ。お天道様が見てらっしゃるんだ。父や、まして母は裸じゃない。その両親らの前で裸になるなんて。&lt;br /&gt;
　でも、獲物を前にしては、否応もないのである。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　五月の風はまだ裸の体にはひんやりする。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　ボクの獲物は、陽光をタップリ浴びている。&lt;br /&gt;
　全てを世界に晒している。その豊かな肢体を誇るかのように大地に横たわっているのだ。そうだ、神聖な儀式なのだ。神代の昔から伝わる聖なる営みなのだ。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　母は黙ってボクを促した。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;――最初は何も分からないかもしれないけど、でも、いいの。みんな初めての時は失敗するのよ。恥ずかしがることはないの。相手は大人よ。思いっきり飛び込んできなさい。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　思いっきり！&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　ああ、ついにこの日が、ボクが大人になる日が来たのだ。&lt;br /&gt;
　次第に父や母の視線も気にならなくなってきた。&lt;br /&gt;
　もう、眼前に広がるのはボクには無限の海原とも思われるような肥沃な大地だった。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　恐る恐る一歩を踏み出してみた。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　ぬぽ！&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　豊穣の海はすっかり濡れている。&lt;br /&gt;
　そうだ。父はボクがやりやすいようにお膳立てしてくれていた。&lt;br /&gt;
　ボクが起きない間に、熟練した腕と体ですっかり濡れさせてくれていたのだ。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　大地の底から泉のように生暖かな液体が湧く。&lt;br /&gt;
　ボクは滑るように走っていけばいい。&lt;br /&gt;
　欲望の赴くままに、父と母の寝室の隣りで妄想を逞しくしていたように、今こそ、渾身の力を篭めて大地と戯れるのだ。&lt;br /&gt;
　相手はボクなど軽く飲み干すような巨体だ。じゃじゃ馬だ。大人の笑みを浮かべている。&lt;br /&gt;
　何の遠慮もいらないと父母が言ったじゃないか。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　でも、やっぱり初めての体験は難しい。&lt;br /&gt;
　ほんの数歩も足を踏み入れないうちにボクは粗相をしてしまった。&lt;br /&gt;
　何処か訳の分からない場所を抉ってしまったようで、濡れていた大地が一気に乾燥してしまったのようだった。愛する大地は、一瞬、凪のように静まり返ったような気がした。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　大地も空もボクのドジを嘲っているに違いない。&lt;br /&gt;
　ボクは萎えていた。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　恐る恐る振り返ると、母は微笑ましいとばかりにいつもの笑みを浮かべているだけ。&lt;br /&gt;
　父は、ボクの視線を受け流している。&lt;br /&gt;
　そして、「やっぱり、いきなり体当たりじゃ無理か…」と独り言を呟いて、納屋の中から何か妖しげな道具を持ち出してきた。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　ボクは、（それは何？）と尋ねたかったけれど、喉がカラカラで言葉が出ない。&lt;br /&gt;
　父はその道具のスイッチを入れる。&lt;br /&gt;
　すると、その道具は勢いよく回転し始めるのだった。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;（まさか、そんな道具を使うの？　大丈夫なの？）と問い詰めたかったけれど、舌が渇きでまるで動かない。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;――見てろ、こんなふうにやるんだ！&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　そう言って、父は潤いの失せた女体に道具を突っ込んだ。&lt;br /&gt;
　遠慮も配慮も何もなかった。グイグイと一物を突っ込んでいく。抉（えぐ）るように擦（こす）るように、こじ開けるように捻（ひね）るように。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　大地は身を捩っていた。悦びのあまりなのか、あまりの苦痛に顔を顰めているのか、ボクには判断が付かなかった。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;（そんなひどいことを！）&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　でも、ボクは、すっかり父の手際に魅了されていた。&lt;br /&gt;
　やがて大地はまた濡れてくる。ジュクジュクと生ぬるい液が溢れ返り、荒地だった大地が水の漲り満ちる沃野と化した。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　麦藁帽子を被っているけれど、父の顔は真っ赤だ。&lt;br /&gt;
　ボクの体も火照っている。日に焼けてもう真っ赤になってるに違いない。&lt;br /&gt;
　大きな赤鬼。小さな赤鬼。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　父は一切、手加減などしないのだった。&lt;br /&gt;
　大地を掘り起こし、表を裏にし、裏を表にし、縦のものを横にし、横のものを縦にして、ありとあらゆる姿態を眼前に繰り広げさせるのだった。モーターの音が鳴り響いていた。大地の喘ぎ声を駆り立てていた。喉の奥、腹の底からの叫びがあった。&lt;br /&gt;
　歓喜の叫び、雄叫び、阿鼻叫喚とはこのことなのだ。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　父と母の寝所から夜毎聞こえる歓声の正体はこれだったのだ！&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;（ああ、とうさん、もう、よしなよ。可哀想じゃないか。あんなに悲鳴を上げてるじゃないか。優しくしてやりなよ。許してやりなよ。あとはボクがやるよ。ボクにもやらせてよ！　ボクがやるんだよ！）　&lt;br /&gt;
　依然としてボクは声が出ない。こんなふうにして大地を押し倒すのか。これがボクが夢にまで見た、あれなのか。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　今日は指導するだけで、余裕のはずの父さえ、途中で一枚一枚脱いでいって、仕舞いにはステテコ一丁になってしまっていた。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　ボクはたまらなくなった。もう、恥も外聞もなかった。真っ赤な情熱が迸っていた。血が沸騰していた。ボクがやる。だって、今日はボクのふでおろしの日なんだろ？！&lt;br /&gt;
　あの、のた打ち回る女体はボクのためにあるんじゃないか！　&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　ボクは、でも、父のようには道具に頼らなかった。真っ裸の体で、体当たりだ！&lt;br /&gt;
　今度は男の意地でやるのだ！　　&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　ボクは精魂篭めてやり続けた。&lt;br /&gt;
　やっているうちに何をやっているのか自分でも分からなくなったりした。汗にまみれ、容赦のない陽光を浴び、剥き出しの足を絡め、腕を突っ込み、掻き回し、あるいは思い出したように嘗めるが如く優しく撫ぜ回し、猫の額ほども触れ忘れることのないよう、思い残すことのないよう、頑張り通した。皺のどんな一本をも見逃さずに引き伸ばし、その裏筋を愛撫した。窪みの底をまさぐった。ボクの汗と情熱を最後の一滴まで大地に降り注いだ。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　ボクは男の名誉を保てたと思う。父も母もそのことは認めたと思う。&lt;br /&gt;
　やがて日が落ち始めた。戦いが終わった。女体は満足げに横たわっている。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　一日にしてボクは大人の男になったのだ。豊穣なる大地を従順なる子猫へと飼い馴らし終えたのだ。&lt;br /&gt;
　こうして、&lt;a href=&quot;http://www.sato-sato.jp/2007/03/post_77.php&quot;&gt;田起こし代（しろ）かき&lt;/a&gt;は終わった。ボクは耕運機などを使わずにやり遂げたのだ。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　さあ、明日からはいよいよ田植えだ！&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（&lt;a href=&quot;http://homepage2.nifty.com/kunimi-yaichi/essay/hudeorosi.htm&quot;&gt;03/05/02作&lt;/a&gt;）&lt;/p&gt;</content:encoded>


<dc:subject>小説（ボクもの）</dc:subject>
<dc:subject>旧稿を温めます</dc:subject>
<dc:subject>駄文・駄洒落・雑記</dc:subject>

<dc:creator>国見弥一</dc:creator>
<dc:date>2008-01-29T19:55:45+09:00</dc:date>
</item>
<item rdf:about="http://atky.cocolog-nifty.com/houjo/2008/01/post_a79f.html">
<title>刀葉林の夢</title>
<link>http://atky.cocolog-nifty.com/houjo/2008/01/post_a79f.html</link>
<description>　ガキの頃とて、説明の詳細などは右の耳から左へ抜ける前に、何処かで滞ってしまって...</description>
<content:encoded>&lt;p&gt;　ガキの頃とて、説明の詳細などは右の耳から左へ抜ける前に、何処かで滞ってしまっていたと思うが、絵図の印象は鮮明であり、強烈だったようである。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　小生は、小学校に上がる前に、一時期、夜毎、地獄の世界を彷徨っていた。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;&lt;a href=&quot;http://atky.cocolog-nifty.com/photos/uncategorized/2008/01/27/large3.jpg&quot;&gt;&lt;img alt=&quot;Large3&quot; title=&quot;Large3&quot; src=&quot;http://atky.cocolog-nifty.com/houjo/images/2008/01/27/large3.jpg&quot; width=&quot;150&quot; height=&quot;224&quot; border=&quot;0&quot; style=&quot;float: right; margin: 0px 0px 5px 5px;&quot; /&gt;&lt;/a&gt;&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;&lt;strong&gt;→　『地獄極楽図部分・刀葉林』　（画像は、「&lt;a href=&quot;http://www.chogakuji.or.jp/bunkazai/kaisetu/kaisetu.html&quot;&gt;長岳寺　地獄図解説&lt;/a&gt;」より）&lt;/strong&gt;&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　といっても、家を脱け出て、どこかの地獄をうろついていた…といった類いのことではない。&lt;br /&gt;
　夜、眠りに就くと、決まって、焦熱地獄とでもいうのか、炎の燃え上がる崖の上を逃げ回っていたりする自分がいるのだった。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　特に幾度も繰り返し見た光景は次のようなものである。&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　閻魔様か誰かに包丁か刀か分からないが、何かの刃で足の脛か脹脛の肉が抉り取られる（不思議なのはその犠牲者が自分なのかどうか、覚束ないことだ。なんとなく他人の悲惨な光景を眺めていたようにも思える…）。&lt;br /&gt;
　痛いとは感じなかったように思う。&lt;br /&gt;
　それより、そんな無様な姿を他人に見られるのが無性に恥ずかしかった。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　自分はその肉片を取り戻そうと懸命に追い駆け、苦労の果てに、なんとか追い着いて取り返す。&lt;br /&gt;
　そして、その肉片を肉の削げ落ちた辺りに宛がってみる。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　ところが、どう合わせてみても、合わないのである。もしかしたら他人の肉片を間違って持ってきてしまったのではないか、という疑念が脳裏を掠めている。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　そういえば、何処かの若い男女が焔熱地獄の野を逃げ惑っていた。その若い男性も、脛（すね）だったか脹脛（ふくらはぎ）だったかの肉が削がれていたのだ。&lt;br /&gt;
　窮していた自分は偶然目にした肉片をもっけの幸いとばかりに拾い上げ、逃げ去ってしまった…、そして自分の欠けた部位に宛がおうと徒（いたずら）な苦労をしていたような…。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　何故、自分の肉片ではないのではと思ったかと言うと、その血の滴る肉の塊の皮膚はなんと脛毛（すねげ）が濃かったのだ！&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;&lt;a href=&quot;http://atky.cocolog-nifty.com/photos/uncategorized/2008/01/27/000001_000_001_s_2.jpg&quot;&gt;&lt;img alt=&quot;000001_000_001_s_2&quot; title=&quot;000001_000_001_s_2&quot; src=&quot;http://atky.cocolog-nifty.com/houjo/images/2008/01/27/000001_000_001_s_2.jpg&quot; width=&quot;230&quot; height=&quot;156&quot; border=&quot;0&quot; style=&quot;float: left; margin: 0px 5px 5px 0px;&quot; /&gt;&lt;/a&gt;&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;&lt;strong&gt;←　『越中立山開山縁起大曼陀羅』　（画像は、「&lt;a href=&quot;http://www.lib.pref.toyama.jp/gallery/collection/intro.aspx?mngcd=1&amp;istopnv=1&quot;&gt;古絵図・貴重書ギャラリー　越中立山開山縁起大曼陀羅&lt;/a&gt;」より）&lt;/strong&gt;&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　しかし、そんな＜事実＞をこの期に及んで認めるわけにはいかない。&lt;br /&gt;
　で、いつまでも、未練がましく、合いもしない肉片を脛（すね）か脹脛（ふくらはぎ）に宛がいつづけながら、途方に暮れている……。&lt;br /&gt;
　しかも、その取り戻したはずの肉片が、いつの間にか捥げた脛（すね）の部分と同じ大きさの櫛（くし）を後生大事に握っているではないか！&lt;br /&gt;
　若い男の脛毛じゃなくって、女の櫛を拾ってきて、脛に宛がおうとしていた？&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　呆気に取られ、呆然としているところで、目が覚めるというわけだった。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;&lt;br /&gt;
［本稿は、ブログ「&lt;a href=&quot;http://atky.cocolog-nifty.com/bushou/2008/01/post_bf0d.html&quot;&gt;三途の川と賽の河原と&lt;/a&gt;」からガキの頃に見た夢について記述した部分を抜粋したものである（アップに際し、若干手直しの上、画像を付す）。］&lt;/p&gt;</content:encoded>


<dc:subject>夢談義・夢の話など</dc:subject>
<dc:subject>宗教・哲学</dc:subject>
<dc:subject>思い出話</dc:subject>

<dc:creator>国見弥一</dc:creator>
<dc:date>2008-01-27T03:43:35+09:00</dc:date>
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