旧稿を温めます

2022/03/11

あの日から始まっていた (39 独りきりの祝祭)

Kitune ← 狐の嫁入り by kei

 

  「独りきりの祝祭

 

 もう三十年も昔のこと、バイクの免許を取った夏、小生は中古の故障しているバイクを早速入手し、無謀にも修理もせずに駆って、大学のある仙台から東京を経由して富山への往復旅行を敢行し たことがある。
 これは正に敢行だった。バイクのチェーンがチェーンカバーに擦れていて、走っているとカラカラカラと不気味な音を立てているのだ。

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2022/02/25

あの日から始まっていた (38 孤独な配達人の独り言)

Yukimiti_20220225000601  「孤独な配達人の独り言

 

 昨夜(の延長)というべきか、今朝未明、久しぶりに月影を見た。
 何日ぶりに出合ったのか、定かではないが、気分的には実に久しぶり、と表現したくなる。

 

 観たのは、朝方4時半頃。
 日の出は七時前後のはずだから、まだ、真暗である。
 小雪がちらついていて、空は曇っている。
 雨が雪になって、外での仕事は大変だろうなと覚悟していたので、小雪程度の空模様で助かった。

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2022/02/21

あの日から始まっていた (37 南天の実に血の雫かと訊ねけり)

Nanten_20220221092601 ← 南天の真っ赤な実は、雪の中では一層、色鮮やかである。一瞬、血の雫に見えたりする。

 

 細切れな睡眠を取る日々が続いている。
 眠りが細切れなのは、忙しいから?
 そうではあるが、仮にそれほど忙しくなくても、小生の睡眠は苦しげに息継ぎするような、むしろ喘ぐような仮の眠りにすぎない。

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2022/01/29

あの日から始まっていた (36 「祈り」を巡って)

Sengen

 [「祈り」を巡って(その3)

 雨上がりの小道を歩くと、何かが私の頭に落ちた。数知れない細かな透明な粒を目にした。それは、近所のブロック塀越しの木の葉を伝って、私の頭に落ちた一滴の水の雫だったのだ。ちょっとした衝撃の波が私の心に走った。
 それは、まずは外で冷たい何かの直撃を受けるという予想外の出来事への驚き。

 

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2022/01/21

あの日から始まっていた (35 葬送のこと)

Funeral
  「葬送のこと


(前略)が、宇宙から見たら、海だろうが空だろうが土だろうが、大した違いなどないということも事実に思える。それだったら、どうせ遺骸は火葬されるのだし、遺骨が空葬されようがどうしようが関係ないということでもあるのかもしれない。
 それとも、遺骨などではなく、DNAを遺しておこうか。

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あの日から始まっていた (34 海辺の戯れ)

0704063_20220121020101海辺の戯れ


 臓物がのたうっている。
 まるで言葉のように。
 言葉がもんどりうっている。
 まるで腸(はらわた)のように。

 

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2021/11/26

あの日から始まっていた (30 美は醜の滾りより)

Pierot ← 小林たかゆき作品 (「小林たかゆき お絵かきチャンピオン」参照。「君はピエロ 僕もピエロ」より)

美は醜の滾りより

 美は常に一旦、描かれ示されると、その瞬間から古典になる。昇格されるのか棚上げなのか分からないが、人間はどんな美であっても満足ができないのが宿命らしい。
 この世は美を嘲笑うかのような醜に満ち満ちている。醜の海に美は島として浮んでいるともいえるのかもしれない(決して大陸ではない!)。
 且つ、人間は美に惹かれ美を是としながらも醜に一層、惹かれて行く。醜の海の波は美という島の海岸線を容赦なく波打っている。津波さえ折に触れ襲い来る。
 美の島で安閑としていたいと思っていても、気がついたなら足元まで醜の誘惑の手が、波がひたひたと押し寄せている。

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2021/11/17

あの日から始まっていた (29 シラミの部屋)

Liceシラミの部屋

 

 この部屋を出たかった。出ないことには息が詰まって死んでしまう。
 今度こそ、この部屋を出る! そう決断したことは何度あることか。
 けれど、いざとなると、決心が鈍ってしまう。

 

 

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2021/11/07

あの日から始まっていた (28 ディープブルー)

ディープブルー

 

 夢の中にいる。夢だと分かっている。間違いなく夢に違いないのだ。そんな世界がありえるはずがないし。
 でも、この世界から抜け出せない。上も下も右も左も、どっちを向いても、水である。水に浸されている。口を固く閉じているつもりだけど、つい油断して口を開けてしまう。すると、口の中に水が浸入してくる。水が口中だけじゃなく、喉にまで入り込み、内臓をも水浸しにしてしまう。

 

 喉に入った水は、容赦なく気管支に流れ込み、肺にも入り込んで、肺胞を水攻撃し、水鉄砲で突っつき始め、ついには、無数に分枝したその末端にある肺胞の一個一個が肺の本体から剥がれ落ち、気が付けば、ブクブク上がる水の泡どもと紛れてしまって、もう、水の泡なのか肺胞だったのかの区別も付かない。

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2021/11/05

あの日から始まっていた (26 古ぼけた障子紙)

Yakata

         「古ぼけた障子紙

 


 頭の中の何処かに異常があったからといって、ひたすら精神的に打ちのめされ、打ちひしがれ、圧倒され、精神的な闘争に疲労困憊し、困窮し、心が枯渇し、それこそ、草木の一本も生えない荒涼たる、寒々とした光景ばかりがあからさまとなるケースもある。

 癲癇(などの精神的な病)を抱えることと、精神的な荒廃、あるいはその位相的には逆にあるかのような創造性とは、決して直結しない。心の病を抱えている、だから、心が荒廃した、とも説明できるし、心の病を抱えている、だから、彼はその病を活かして彼特有の世界を探究し表現したとも、そのどちらとも、言える。

 

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