妄想的エッセイ

2024/09/04

昼行燈117「夏の終わりの雨」

Rain   「夏の終わりの雨

 

 俺は眠れないままに闇を見詰めていた。
 じっと眺めていると、見えないはずの闇の中にいろんなものが見えてくる。
 分厚いカーテンの向こうの何処か靄の掛かったような夏の終わりの夜の闇が、まるで船底の罅割れから水の洩れ入るように俺の部屋を満たしているようだった。

 内と外とを厳格に分けるために、高いカネを払っておんぼろなアパートには不似合いな遮光カーテンを下げたのに、まるで役目を果たしていない。

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2024/08/02

昼行燈108「無音の木霊」

Chou_20240802025201  「無音の木霊

 

 いつだったか、海の底の沸騰する熱床で最初の生命が生まれたという話を聞いたことがある。ホントだろうか。命に満ち溢れた海。海への憧れと恐怖なのか畏怖なのか判別できない、捉えどころのない情念。そう、想いたいだけなのかもしれない。

 命という、あるいは生まれるべくして生まれたのかもしれないけれど、でも、生まれるべくしてという環境があるということ自体が自分の乏しい想像力を刺激する。刺激する以上に、圧倒している。

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2024/07/24

昼行燈105「月に吠える」

Mangetu   「月に吠える

 月をジッと眺めあげていると、つい月の面に淡い文様を見出す。煌々と照る月、未だに自ら光るとしか直感的には思えない月、その月は、その表面の文様を見分けることを許すほどには、優しい。
 優しいのだけれど、秋の空の満月は、やはり、凄まじい。空にあんな巨大なものが浮かんでいるなんて、信じられなくなる。ポッカリ、浮いて、どうして落ちてこないのか、不思議でならなくなる。

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昼行燈104「赤茶けた障子紙」

Yakata_20240724024701  「赤茶けた障子紙

 

 肉体的異常があったからといって、ひたすら精神的に打ちのめされ、打ちひしがれ、圧倒され、精神的な闘争に疲労困憊し、困窮し、心が枯渇し、それこそ、草木の一本も生えない荒涼たる、寒々とした光景ばかりがあからさまとなるケースもある。

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2024/07/19

昼行燈101「単細胞の海」

Kikuji   「単細胞の海へ

 夢の中に居るに違いない!
 願望なのか悲鳴なのか分からない、声にならない声が喉元に蟠っていた。溜まって腫れあがった浮腫が破裂しそう。膿なのか叫びか喚きの渦が噴出する裂け目を見出せずにいる。

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2024/07/18

昼行燈100「踏切の音」

  「踏切の音

 眩しく広がる空に惹かれて歩き出していった。何処へ行くあてなどない。家の中に籠っているのが億劫になっただけかもしれない。
 外には誰かがいる。何かがある。そんな期待があったのだろうか。
 あまりに遠い昔のことで、ろくすっぽ覚えちゃいない。

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2024/07/10

昼行燈97「私はゴムに 私はコンクリートに」

Yukei   「私はゴムに 私はコンクリートに

 さて、肝心の全身麻酔をされての体験のこと。

 ゼンマをされるのは初めてじゃないのに、麻酔が効いてくる感じがまるで予想と反していた。
 予想といっても、子供の頃の麻酔体験しかないから、その時の状態とは麻酔の効き方が違う! と感じていたのである。

 徐々に意識が遠退いていくとか、そんな感じではなかった。

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2024/07/05

昼行燈95「海月」

Kurage   「海月

 脳味噌がブヨブヨ脳漿の海に浮かんでる。まるでゼリーだ。それどころかクラゲだ。
 クラゲ…水母…海月…闇の海に漂うコンニャク…クラゲなし漂える海の雲…

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2024/02/27

昼行燈74「負け犬の遠吠え」

Madoakari  「負け犬の遠吠え

 物質とは、究極の心なのだと今は考えている。別に根拠はない。直感的なものに過ぎない。
 心というものがあって、肉体にも物質にも経済にも制度にも世界の終わりにも関わらず永遠に存在する……。それは魂という呼び方しか出来ない何ものか。

 

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2024/02/25

昼行燈73「化粧」

Konao  「化粧

 薄紅を引き、頬紅を差し、鼻筋を通らせ、眉毛の形や濃さ・長さそして曲線を按配する。項(うなじ)にもおしろいを塗ることで、後ろから眺められる自分を意識する。髪型や衣服、靴、アクセサリー、さらには化粧品などで多彩な可能性を探る。
 見る自分が見られる自分になる。

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