なにがゆえの悪夢だった?
自分のトラウマは、物心付いたかどうかの頃の、手術台でのこと。横たわって全身麻酔されて意識を失いそうで消え切らない末期の眺め。それは闇の中の真上の眩しすぎる照明。手術台の上の闇と光の交合。煌めくメスと肉の深き交合。口唇口蓋が深く切り裂かれて、心身の中までが抉られているという感覚。吾輩はただ無力だった。 [「手術台の上の闇と光の交合」より]
自分のトラウマは、物心付いたかどうかの頃の、手術台でのこと。横たわって全身麻酔されて意識を失いそうで消え切らない末期の眺め。それは闇の中の真上の眩しすぎる照明。手術台の上の闇と光の交合。煌めくメスと肉の深き交合。口唇口蓋が深く切り裂かれて、心身の中までが抉られているという感覚。吾輩はただ無力だった。 [「手術台の上の闇と光の交合」より]
[源五郎の夏]
夕方、シャワーを浴び、扇風機の風で火照った体を癒していたら、不意に虫が飛び込んできた。真黒な大きめの虫。羽音がブーンと。虻か熊蜂か。そのうち、奴は正体を現した。なーんだ、源五郎(正確な名称不明。仮称である。昔、そんな名の昆虫がいたような)だ。光沢のあるボディが美しい。図体がデッカイ。我が茶の間を飛び回る。奴も出口を失って、正体を失っているのか。吾輩の方が冷静になった。
ぬたが好きである。食べ物のぬたではあく、ぬたという言葉が好きなのだ。ぬたはぬめった感じからして何処かぬめりに通じるところがある。あくまで語感の上での連想に過ぎない。郷土料理として愛している方たちには申し訳ない。吾輩も好きである。
ぬめりからしてヒルやナメクジ、ミミズなどを連想する。殻を忘れたカタツムリとか。これらは決して仲間なんかじゃないが、似た者同士の輪に加えたくなる。
「匂いを嗅ぐ」
…そんな自分の肉体的事情があるからこそ、匂いにひとかたならぬ関心があるのかもしれない。口呼吸で匂いを嗅ぐわけにもいかず、一体、健常者として鼻呼吸をされている方というのは、つまり、世の大概の方というのは、どんな正常な感覚生活を送っておられるのか、気になってならないのだが、殊更に訊くわけにも行かないし、また、敢えて尋ねるようなことでもないのだろう。
健常であるということは、それが当たり前のこととしてその健常さを生きているわけで、その健常さを自覚する必要も何もない。
エロティシズムへの欲望は、死をも渇望するほどに、それとも絶望をこそ焦がれるほどに人間の度量を圧倒する凄まじさを持つ。快楽を追っているはずなのに、また、快楽の園は目の前にある、それどころか己は既に悦楽の園にドップリと浸っているはずなのに、禁断の木の実ははるかに遠いことを思い知らされる。
快楽を切望し、性に、水に餓えている。すると、目の前の太平洋より巨大な悦楽の園という海の水が打ち寄せている。手を伸ばせば届く、足を一歩、踏み出せば波打ち際くらいには辿り着ける。
鉛色なんだから仕方がない。気取ってるわけでも、屁理屈をぶってるわけでもない。
あの日から始まっていた鉛色の日々は、あまりに深すぎて重苦しくて、自分でも分からずにいた。
私はやたらと粘る曖昧の海に独り漂っていた。朝の目覚め…それが目覚めと呼べるなら…親の遠い呼び声で深く淀んだ泥水の底にいることを気付かせられた。
それが、もし、そもそも、その手を差し出す前提としての、心の身体が欠如していたとしたら。差し出そうとすると、その力が反作用として働き、自らの身体(心)を砂地獄に埋め沈めていく。砂の海に溺れることを恐怖して、ただ悲鳴の代わりに手を足を悪足掻きさせてみたところが、その足掻きがまた、我が身をさらに深い砂の海の底深くへ引っ張り込まさせる結果になる。
「赤い闇」
手探りして歩いている。何処を歩いているのかさっぱり分からない。何故に歩くのか。それは走るのが怖いからだ。早くこの場を抜け出したいのだが、漆黒の闇が辺りを覆っている。ぬめるような感覚がある。巨大なナメクジに呑みこまれているようだ。それとも呑み込んでいるのか。
息はできている。空気はあるのだろう。吸う。溜める。吐く。意識して呼吸する。体の中に何かを取り込んでいる。肺胞がギリギリの活動をしてくれている。
踏ん張って歩きたい。が、足元が覚束ない。押せば引く、引けば圧し掛かってくる。体が重苦しい。世界は開かれている。そう直感している。ただ、隙間が見えないだけだ。何処かに出口がある。そう信じて生きていくしかない。
Mystery Circle あの日から始まっていた コント ジェネシス タクシーエッセイ・レポート タクシー吟行 ディープ・スペース トンデモ学説 ドキュメント ナンセンス ナンセンス小説 ペット 俳句・川柳 創作(断片) 創作:紀行 創作:落語篇 夢談義・夢の話など 妄想的エッセイ 宗教・哲学 小説 小説(オレもの) 小説(タクシーもの) 小説(ボクもの) 小説(ボケもの) 小説(幻想モノ) 心と体 思い出話 恋愛 文化・芸術 旅行・地域 日記・コラム・つぶやき 旧稿を温めます 書籍・雑誌 未定 浅草サンバレポート・日記 祈りのエッセイ 詩作・作詞 趣味 酔 漢 賦 音楽 駄文・駄洒落・雑記 黒猫ネロもの
最近のコメント