思い出話

2011/03/22

私はゴムに 私はコンクリートに

                   (前略)

 さて、肝心の全身麻酔をされての体験のこと。

 ゼンマをされるのは初めてじゃないのに、麻酔が効いてくる感じがまるで予想と反していた。
 予想といっても、子供の頃の麻酔体験しかないから、その時の状態とは麻酔の効き方が違う! と感じていたのである。

 徐々に意識が遠退いていくとか、そんな感じではなかった。

 体の遠い部分から、体が泥か鉛か、とにかく肉体とは異質な何かへ完全に変質していくのである。
 体が重いようであり、しかもさらに重くなっていくようであった。

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2011/03/10

火車の頃

 ガキの頃、あるいは物心付いたかどうかの頃、地獄絵図の夢をよく見たものだった。立山曼荼羅に描かれる世界が、小生の夢の中では現実だった

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→ 拙稿「宝泉寺蔵地獄極楽図から我が地獄の夢へ」参照。

 幾度となく炎熱地獄、無間地獄の世界を逃げ惑った。目が醒めて、ああ、夢だったのかと安堵の胸を撫で下ろすのだったけど、目覚めというのは、眠りの間の束の間の猶予に過ぎず、夜ともなると、また、元の木阿弥へと突き落とされていく。

 その地獄では、同じ場面が繰り返された。ある男(自分?)の脛(すね)の肉が殺ぎ落とされる。

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2011/02/06

藍色の闇の海の白き花びら

 その頃は未だ、雪は神秘の塊のように思えていた
 雪が水の違う相なのだとは信じられなかった。仮に水が、あるいは凍って雪になるのだとしても、そこには天の意思とか、あるいは神の見えざる手が加わっているに違いないとしか思えなかった。

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 小生の生まれた富山は、小生がガキの頃は冬ともなると、これでもかというほどに雪が降って、家の手伝いなどしない甘ったれの小生だったが、雪掻きだけは大好きだった。疲れ、湯気の立ち上る身体を堆く積まれた雪の小山の天辺に横たえ、何処までも深い藍色の夜空を眺め入った。

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2010/10/01

雨音はショパンの

 あの人の面影が今もボクを苦しめる。会えなかった、会わなかったあの人のはずなのに、なぜ、いつまでもボクを苛むのだろう。
 いや、会ったといえば、会っていたのだ。ただ…。

 あの人のことを知ったのは、いつだったろうか。いや、その前に知ったと言えるのだろうか。ボクはあの人の気配を感じていただけじゃなかったのか。 それとも気配さえも感じていなかったのか。
 初めて彼女の存在に、それともあの人の不在の重みに気付いたのは夏の終わりの、とある午後だった。ボクは夏の初めから、友人に誘われてピアノ教室に通っていた。
 それは友人のアパートの近くにあった。

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2010/05/19

合鴨の和みの時に和みけり

 その帰り、ふと遠回りしてみたくなった。雨は上がったとはいえ、雲はまだ分厚いし、雲の流れも速い。
 風景を撮るには相応しくないが、この数日、家のことに忙しく、自転車での散策もやっていない。
 
 完成間近の公園の光景を眺めたりして、我が町でほとんど唯一、残っている田圃の脇を通りかかったら、驚いた。

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← 自転車での買物の帰り、近所の水田脇を通りかかったら、足元にカモが二羽!

 合鴨 が水田に!
 合鴨農法 ?
 まさか、大規模な田圃というわけでもないのに、合鴨農法をやっているとは ? !

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2010/05/18

ツバメの巣を巡る小さな思い出

 鳥など空を舞うものというと、ハトやカラスもいたのだろうが、記憶の中では、コウモリやトビやツバメが印象に鮮やかである。
 コウモリについては、何年か前、夏の夜、屋根裏部屋でのコウモリとの遭遇を描いた小文を仕立てたことがある(「コウモリの夏」参照)。
 トビについても、いつか何か書いてみたいが、今日はツバメ(の巣)のことをちょっと。

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→ 掲げた写真は、04年7月25日、スクーターを駆り中央高速を使っての帰京途上、某SAの施設で小生が偶然、目にし、撮った燕の巣。燕の子供たちへ親燕が懸命に餌を運んでいた(「鳥雲に入る」参照)。

 ツバメの巣。
 昔は小生の居住する町は農村に毛が生えたような、田圃や畑の広がる長閑な地だった。
 我が家だけじゃなく、少なからぬ家の軒先にツバメの巣があったような気がする。
 我が家も例外ではなく、巣は何と玄関の中にあった。

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2010/01/05

真夏の夜の夢の旅

(前略)当時は国道さえ、一部は舗装されていなくて砂利道だったりする。
 道が分からないのだから、ひたすら国道に沿って走っているつもりなのだが、曲がりくねる砂利道を長く走っているうちに日が暮れてしまった。周辺も空も真っ暗闇。街灯などない。民家もなくて、しかも、道はドンドン山の中へと呑み込まれて行くようでもある。

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 どれほど走ったことだろう。不安も頂点に達していた。幸い、夏の雨に祟られることのなかったのは助かったと今でも思う。あれで雨に降られていたら、途方に暮れていたに違いないのだ。

 闇の道をよりによって一層、深い闇の世界へ分け入っていくような感覚があった。
 盛り上がるような黒い影。きっと鬱蒼と生い茂る森か林が黒い物塊となって自分に圧し掛かろうとしているに違いない。
 中古のバイクのヘッドライトは、懐中電灯じゃないかと思われるほどに頼りない。本当に照射しているのか、前に回って確かめてみたくなる。いっそのこと、懐中電灯で照らしたほうが余程、明るいのじゃないかとバイクに突っ込みを入れてみたくなる。
 でも、しない。突っ込んだ挙げ句、バイクに逆切れされても困る。下手するとバイクの奴、自棄を起こして、藪に突っ込むかもしれない。それでは薮蛇である。

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2009/09/09

秋茄子と言えば

秋茄子と言えば」(本稿は駄文です!)

 例えば、中森明菜さんが、明菜’sなんていう自分のブランドを作ってみるとか(当然、シンボルはナスなんでしょうが)思うのは、可愛げ気があるけど、かの中世の神学者・哲学者、トマス・アクィナス(Thomas Aquinas)などを思い出す、なんて言うと、教養をひけらかすようで、ちょっと気が引ける。
 まあ、駄洒落はともかく、秋茄子と言うと、秋茄子は嫁に食わすなという昔からの言い伝えというか、諺がある。
 意味合いは、一頃は、「秋茄子はとっても美味しいので嫁には食べさせるのはもったいない」とか、「秋茄子は種が無いので嫁に子供が出来ない事を気遣う」などという意味なのだと、言い習わされたりもしたものだが、クイズなどによく採り上げられ、今では、「ナスは、体を冷やすので食べ過ぎるのは体に良くない」ので特に嫁には食べさせないほうがいいのだという思いやり乃至は知恵の含まれた諺だと理解されてきている。

 泉鏡花に『雁われの秋茄子は所帶の珍味』という極めて短い作品がある。

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2009/07/30

頬杖

 頬杖ついているあの子は、何を想っているんだろう。多摩川の土手に腰掛けて、じっと川のほうを眺めている。
 声をかけてみたいような。
 でも、そんなことができるわけもない。
 俺は、子供には、いや誰にもただの小父さん。それも変な小父さんに過ぎないのだ。
 あと、ほんの数年もすれば太鼓腹になりそうなお腹を見ると、遠くで、できるだけ遠くで見つめているしかない。

 あの子の視線の先を追ってみる。川面? そうかもしれない。川の向こう岸の釣り舟が珍しくて、関心が奪われているだけなのかもしれない。

 ぼーんやり、川を眺めている。

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2009/07/07

バタイユへ寄せるオマージュあるいは懺悔

 エロティシズムへの欲望は、死をも渇望するほどに、それとも絶望をこそ焦がれるほどに人間の度量を圧倒する凄まじさを持つ。快楽を追っているはずなのに、また、快楽の園は目の前にある、それどころか己は既に悦楽の園にドップリと浸っているはずなのに、禁断の木の実ははるかに遠いことを思い知らされる。

 快楽を切望し、性に、水に餓えている。すると、目の前の太平洋より巨大な悦楽の園という海の水が打ち寄せている。手を伸ばせば届く、足を一歩、踏み出せば波打ち際くらいには辿り着ける。

 が、いざ、その寄せ来る波の傍に来ると、波は砂に吸い込まれていく。波は引いていく。あるいは、たまさかの僥倖に恵まれて、ほんの僅かの波飛沫を浴び、そうして、しめた! とばかりに思いっきり、舌なめずりなどしようものなら、それが実は海水であり、一層の喉の渇きという地獄が待っているのである。

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