ナンセンス小説

2014/11/30

赤い風船

  夢であって欲しいと思った。
 何処まで走っても似たような部屋があるばかりだった。
 仰々しいような扉をやっとの思いで開けてみても、そこにあるのは能面のよう な部屋。
 幾つ扉やドアを開け、どれほどピカピカに磨きたてられた廊下を走ったことだ ろう。ようやく、今までとは毛色の違う空間に飛び込んだ。
 しかし、人っ子一人いるわけもなく、古びて饐え切った板壁のだだっ広い空間 があるだけだった。

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2014/11/10

できたものは

 できたもんはしょうがねえじゃねえか。
 しょうがないってねー、そんな気楽に言わないでよ。他人事だと思ってんじゃない?
 他人事だなんて、思ってねえよ。気にすんなって言ってるだけじゃん。
 気にするなって、そんなー! 女にとって、命がけのことなのよ!
 命懸けって、そんな、大袈裟な。たかが、そんな、ちょっとできたくらいで…。

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2014/09/29

自由を求めて

 思いは頭の中で沸き立っていた。ただただやたらと淋しい思いが脳みそを引っ掻き回し、体の中を無闇に駆け巡る。
 吐き出したいほどの淋しさがオレを一層の赤い闇へと追いやっていく。

 居場所などどこにもない。あるのは、ここじゃない、何処か他の場所、黒い丘の向こうに何かある、すぐにもそこへ向かわないと間に合わない、という切迫した狂熱。
 誰かがオレを待っていてくれる。もう、待ち草臥れるくらいにオレを待っていてくれたんだ、それを愚かなオレはこの期に及んでやっと気が付いた…。

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2013/11/20

片道切符の階段

 ホントに何もしないわよね。 ホントさ。ちょっと御伽の城に入ってみるだけさ。ほら、キラキラして綺麗だろ。 素敵は素敵だけど。中に入るともっと凄いよ。 ホント? 窓からは夜景が見事なんだ。俺たち自身がイルミネーションになるのさ。 人生はすれ違い。熱くすれ違おうぜ。

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2011/06/11

涙の夜

 今日は土曜日。
 俺たちは、週末はあいつの部屋で過ごすことにしている。

 ドアを開けて覗かせたあいつの顔を見て驚いた。 
 涙!
「お前、どうしたんだよ、涙なんて流して」
 そう、問い掛けながら、何かまた、やったかなと頭の中がグルグルしている。

「ううん、なんでもない」
 挨拶代わりのキスも許してくれない。
 あいつは黙って俯いたまま、俺を置き去りにして奥のほうへ。
 俺はためらいを感じたけれど、居間に向かった。

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2010/10/18

私が<それ>になる夜

 いつもの夜が始まる。
 私の夜。
 真っ赤な海に溺れる夜。
 全身が鉛に成り代わる夜。
 赤い闇と黒い闇とが綯い交ぜとなる夜。
 神が鉛の体に全身麻酔を施す夜。
 
 私は意識が薄れていった。眠りはまるで崖を転がるような責め苦だった。
 私は石となり、石はやがて<それ>と区別が付かくなっていった。
 それは、一個の生まれ損なった幼虫。否、空中を飛散する塵か花粉か埃の一粒。この世に偏在する浮遊塵なのだ。
 何かが融けている。訳の分からない何かが、それこそ白蟻に柱が内側から貪られるように、その肉体が蝕まれ崩れ去っていく。

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2010/09/14

青い空と白い雲

 時々、俺って何処で生まれたのだろうって思うことがある。
  「何処からって、お袋さんからに決まってるじゃないか!」
 そんな答えを求めていたわけじゃないのに、「そりゃ、そうだなって」笑ってごまか す。
  (俺って、何処から来たのだろう)
 これも愚問なのだろうか。又、「自分で自分の住所くらい、分かんねえのかよ!」っ て言われて、シュンとするしかないのだろうか。

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2010/03/16

窓の隙間から

 時々、俺って何処で生まれたのだろうって思うことがある。
「何処からって、お袋さんからに決まってるじゃないか!」
 そんな答えを求めていたわけじゃないのに、「そりゃ、そうだなって」笑ってごまかす。

(俺って、何処から来たのだろう)
 これも愚問なのだろうか。又、「自分で自分の住所くらい、分かんねえのかよ!」っ て言われて、シュンとするしかないのだろうか。

 目の前にあるのは埃を被った本、手紙、時計。
 ちょっと脇を向くと窓枠に絡まる蔦が 隙間風に揺れている。

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2009/11/28

赤い闇

 初めに何があったのだろう。
 何一つ、覚えていない。

 忘れてしまった?
 それとも、最初から記憶の網に掛かっていなかった?
 ある言い知れない不快感。
 いや、不快の念というより、ある種の裂け目。
 引き裂かれる痛み。
 …痛みさえ、覚えることのできない痛烈な捩れ。

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2009/03/05

ボクの猫

 この頃、妙な夢を見る。
 いい年をした私が、何故かあの頃のボクになっている。大人になってしまった今の私のような、幼かったあの頃のオレのような、宙ぶらりんな自分が、長いような、短いような旅をする。

0811301

 夢の中のボクは子供なのか五十路となった大人なのか、自分でも分からない。
 きっと、私は何歳になってもボクなのだろう。

 旅…といっても、迷子になった<ボク>が彷徨っているだけなんだけど、夢の中のボクにとっては心の旅に違いない。

 その夢には何故か、必ず猫が登場する。
 それが一番、私には不思議だ。私には猫に絡む思い出などない。猫を飼ったこともない。
 なのに、どうして猫が現れるのか。

 似たような夢を繰り返し見る。
 いつも、最後には猫にそっぽを向かれてしまう。
 で、ボクは声にならない声で咽び泣くのだった。

 でも、とうとうある日、違う結末の夢を見たのだった。


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