あの日から始まっていた
2024/09/05
2024/09/04
昼行燈117「夏の終わりの雨」
「夏の終わりの雨」
俺は眠れないままに闇を見詰めていた。
じっと眺めていると、見えないはずの闇の中にいろんなものが見えてくる。
分厚いカーテンの向こうの何処か靄の掛かったような夏の終わりの夜の闇が、まるで船底の罅割れから水の洩れ入るように俺の部屋を満たしているようだった。
内と外とを厳格に分けるために、高いカネを払っておんぼろなアパートには不似合いな遮光カーテンを下げたのに、まるで役目を果たしていない。
2024/08/26
2024/08/12
昼行燈112「サナギ」
「サナギ」
剥き出しなんだよ。裸じゃないか。皮膚さえ剥がれて。
まっさらのこころ。まっさらすぎて、この世では淡雪の如く、生まれた瞬間から手足の先が融けていく。
顔が蒸気のように大気に呑み込まれていく。
自分でも嗤っている。可笑し過ぎて涙もでない。
2024/08/09
昼行燈111「長崎幻想」
「長崎幻想」
浮腫する肉体。血肉の蒸発する風船玉。まるで癇癪玉だ。ああ、涙が出るほど滑稽な光景だ。ゴロゴロ転がっている。
衣服さえも天に召し上げられたのだ、髪など熱風と共に蒸発するのは当然じゃないか。髪は天へと揮発し、あるいは肉の底へと巻き込まれ縮こまっていった。天が地上世界をのし歩き睥睨して回る時、髪の毛など屁にもならぬ。
2024/08/07
昼行燈110「長崎の黒い雨」
「長崎の黒い雨」
長崎の地に降った黒い雨に俺は祟られている。あの、紫よりも周波数の 高い、怒る光のシャワー。肉が蒸発し、血が噴き、肺腑が踊り、羊水が煮え滾った。胎児は生煮えとなり、妊婦は遮光土器の模様と化した。鉄骨が蕩け、瓦が泡立ち、石が煤となり、コンクリートが灰燼に帰した。
2024/08/06
昼行燈109「日蔭ノナクナツタ広島ノ上空ヲトビガ舞ツテヰル」
突如 空襲 一瞬ニシテ 全市街崩壊 便所ニ居テ頭上ニサクレツスル音アリテ 頭ヲ打ツ 次ノ瞬間暗黒騒音
その時を境に私は変わった。昨日の私は消滅し新しい私は居場所を天に変えた。
薄明リノ中ニ見レバ既ニ家ハ壊レ 品物ハ飛散ル 異臭鼻ヲツキ眼ノホトリヨリ出血 恭子ノ姿ヲ認ム マルハダカナレバ服ヲ探ス 上着ハアレドズボンナシ
私は全てを見ようと決心した。私とは非在の焔。それとも存在の無。
2024/08/02
2024/07/30
2024/07/24
昼行燈105「月に吠える」
「月に吠える」
月をジッと眺めあげていると、つい月の面に淡い文様を見出す。煌々と照る月、未だに自ら光るとしか直感的には思えない月、その月は、その表面の文様を見分けることを許すほどには、優しい。
優しいのだけれど、秋の空の満月は、やはり、凄まじい。空にあんな巨大なものが浮かんでいるなんて、信じられなくなる。ポッカリ、浮いて、どうして落ちてこないのか、不思議でならなくなる。
より以前の記事一覧
- 昼行燈104「赤茶けた障子紙」 2024.07.24
- 昼行燈102「黴と錆」 2024.07.22
- 昼行燈101「単細胞の海」 2024.07.19
- 昼行燈100「踏切の音」 2024.07.18
- 昼行燈98「「ラヴェンダー・ミスト」断片」 2024.07.14
- 昼行燈97「私はゴムに 私はコンクリートに」 2024.07.10
- 昼行燈95「海月」 2024.07.05
- 昼行燈91「我が友は蜘蛛」 2024.06.25
- 昼行燈90「藪の中を蠢くもの」 2024.06.12
- 昼行燈88「眠れない」 2024.05.29
- 昼行燈86「神の目を憶する」 2024.05.20
- 昼行燈85「虚ろな瞳」 2024.05.15
- 昼行燈84「闇の衣」 2024.05.07
- 昼行燈83「夢は眼下に」 2024.05.06
- 昼行燈79「カップ麺」 2024.03.12
- 昼行燈78「貝の殻」 2024.03.11
- 昼行灯77「影の女へ」 2024.03.06
- 昼行灯76「真夏の夜の訪問者」 2024.03.05
- 昼行燈75「首を振って悪夢を振り切る」 2024.03.01
- 昼行燈72「四次元の世界旅へ」 2024.02.20
- 昼行燈65「結ぼれ」 2024.01.29
- 昼行燈64「架空凝視という病」 2024.01.24
- 昼行燈63「線虫」 2024.01.23
- 昼行燈61「蒟蒻問答」 2024.01.15
- 昼行燈59「パラサイト」 2024.01.10
- 昼行燈58「日蔭ノナクナツタ広島ノ上空ヲトビガ舞ツテヰル」 2024.01.09
- 昼行燈57「ドキュメント 脱糞だ!」 2024.01.05
- 昼行燈56「蝋燭の焔に浮かぶもの」 2024.01.05
- 昼行燈54「The Walking Man」 2024.01.01
- 昼行燈51「蛸と海女」 2023.12.27
- 昼行燈50「刀葉林の夢」 2023.12.27
- 昼行燈47「ふわふわ ふわふわ」 2023.12.12
- 昼行燈(番外3「葬送のこと」) 2023.12.12
- 昼行燈46「土の精」 2023.12.08
- 昼行燈45「浮かび上がらせてやりたい」 2023.12.07
- 昼行燈43「お地蔵さんは黙っている」 2023.12.03
- 昼行燈(番外2「音という奇跡」) 2023.11.29
- 昼行燈42「無間 」 2023.11.28
- 昼行燈41「 ダストシュート」 2023.11.27
- 昼行燈40「縫合」 2023.11.23
- 昼行燈39「 廃墟」 2023.11.22
- 昼行燈38「軽石」 2023.11.20
- 昼行燈37「ドリッピング」 2023.11.19
- 昼行燈36「糸が切れた」 2023.11.16
- 昼行燈35「バスキア!」 2023.11.16
- 昼行燈34「オワンクラゲ」 2023.11.14
- 昼行燈33「沈黙の宇宙に鳴る音楽」 2023.11.13
- 昼行燈31「誕生日に寄せて」 2023.11.09
- 昼行燈30「瑠璃色の光」 2023.11.06
- 昼行燈29「沈黙の宇宙に鳴る音」 2023.11.05
- 昼行燈28「謎の女」 2023.11.02
- 昼行燈27「黒い雨の降る夜」 2023.11.02
- 昼行燈26「森の雨音」 2023.11.01
- 昼行燈25「点々は 宇宙を攪拌しないのです」 2023.10.31
- 昼行燈24「古タイヤの列」 2023.10.27
- 昼行燈23「石ころ」 2023.10.26
- 昼行燈22「耳鳴り」 2023.10.24
- 昼行燈21「青い雫」 2023.10.24
- 昼行燈20「あの影しかない」 2023.10.23
- 昼行燈19「鳥の餌」 2023.10.23
- 昼行燈18 「海の響きも聞こえない」 2023.10.20
- 昼行燈(番外) 2023.10.19
- 昼行燈17「ピエロは嗤う」 2023.10.19
- 昼行燈16 2023.10.17
- 昼行燈15 2023.10.16
- 昼行燈14 2023.10.13
- 昼行燈13 2023.10.12
- 昼行燈12 2023.10.10
- 昼行燈11 2023.10.08
- 昼行燈10 2023.10.05
- 昼行燈9 2023.10.05
- 昼行燈8 2023.10.04
- 昼行燈7 2023.09.29
- 昼行燈6 2023.09.28
- 昼行燈5 2023.09.23
- 昼行燈4 2023.09.21
- 昼行燈3 2023.09.19
- 昼行燈2 2023.09.15
- 昼行燈 2023.09.14
- あてどなく 2023.08.13
- 観る前に飛ぶんだ 2022.10.25
- あの日から始まっていた (39 独りきりの祝祭) 2022.03.11
- あの日から始まっていた (37 南天の実に血の雫かと訊ねけり) 2022.02.21
- あの日から始まっていた (36 「祈り」を巡って) 2022.01.29
- あの日から始まっていた (35 葬送のこと) 2022.01.21
- あの日から始まっていた (34 海辺の戯れ) 2022.01.21
- あの日から始まっていた (33 自分一人の部屋) 2022.01.20
- あの日から始まっていた (32 雪に埋もれていく) 2022.01.19
- あの日から始まっていた (31 凍てつく宇宙に鳴る音楽) 2022.01.18
- 私の荒涼館 2022.01.12
- あの日から始まっていた (30 美は醜の滾りより) 2021.11.26
- あの日から始まっていた (29 シラミの部屋) 2021.11.17
- あの日から始まっていた (* 番外編) 2021.11.08
- あの日から始まっていた (28 ディープブルー) 2021.11.07
- あの日から始まっていた (27 ぬめり) 2021.11.06
- あの日から始まっていた (26 古ぼけた障子紙) 2021.11.05
- あの日から始まっていた (25 伽藍堂) 2021.10.31
- あの日から始まっていた (24 音という奇跡) 2021.10.26
- あの日から始まっていた (23 思わぬデート?) 2021.10.22
- あの日から始まっていた (22 屈辱の夜) 2021.10.18
- あの日から始まっていた (21 孤独ではなく孤立) 2021.10.15
- あの日から始まっていた (20 バスキア!) 2021.10.14
- あの日から始まっていた (19 球体関節人形) 2021.10.12
- あの日から始まっていた (18 ベルメール!) 2021.10.11
- あの日から始まっていた (17 夢を憶する) 2021.10.09
- あの日から始まっていた (16 麻酔は未だ効いてない) 2021.10.06
- あの日から始まっていた (15 窒息した美) 2021.09.30
- あの日から始まっていた (14 土中の恩寵) 2021.09.29
- あの日から始まっていた (13 夢は嘘をつかない) 2021.09.27
- あの日から始まっていた (12 匂いを嗅ぐ) 2021.09.22
- あの日から始まっていた (11 赤いシーラカンス) 2021.09.16
- あの日から始まっていた (10 明けない夜に) 2021.09.13
- あの日から始まっていた (9 火車の頃) 2021.09.09
- あの日から始まっていた (8 睡魔) 2021.09.08
- あの日から始まっていた (7 雪の朝の冒険) 2021.09.08
- あの日から始まっていた (6 タール) 2021.09.01
- あの日から始まっていた (5 赤い闇) 2021.08.26
- あの日から始まっていた(4 ゼンマ) 2021.08.25
- あの日から始まっていた(3 バケツ) 2021.08.22
- あの日から始まっていた(2 頬杖) 2021.08.17
- あの日から始まっていた(1) 2021.08.16
その他のカテゴリー
Mystery Circle あの日から始まっていた コント ジェネシス タクシーエッセイ・レポート タクシー吟行 ディープ・スペース トンデモ学説 ドキュメント ナンセンス ナンセンス小説 ネロもの ペット 俳句・川柳 創作(断片) 創作:紀行 創作:落語篇 夢談義・夢の話など 妄想的エッセイ 宗教・哲学 小説 小説(オレもの) 小説(タクシーもの) 小説(ボクもの) 小説(ボケもの) 小説(幻想モノ) 心と体 思い出話 恋愛 文化・芸術 旅行・地域 日記・コラム・つぶやき 旧稿を温めます 昼行燈 書籍・雑誌 未定 浅草サンバレポート・日記 祈りのエッセイ 詩作・作詞 趣味 酔 漢 賦 音楽 駄文・駄洒落・雑記 黒猫ネロもの
最近のコメント