創作(断片)

2022/12/22

海月為す

Kyokusen  疼くものを感じる。どよめく何か。ドロドロの心。形になりきれない何か。姿を現わそうとする意志が逆に熱になり、生まれいずる何かを溶かし去る。世界は海月為す溶暗の海。命の微粒子達の生成消滅。生まれ生き喰われ消え果て異なる何かとなって再生し、やがてまた餌となって潰え去る。全ては過程。全ては命の輪廻。

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2022/10/25

観る前に飛ぶんだ

Segan  沈黙の宇宙。闇の奥に佇む湖の誘惑。眠りに陥る寸前の恐怖に似た感情の委縮。

 何を怖れて居る。溺れる苦しみ? 何を今さら。あるのは真っ赤な、それこそ燃え上がる炎の揺らめきに過ぎないのだ。際限のないぬめぬめした壁面の洞窟を潜り抜ければ、待っているのはお前の夢の躯。

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2022/10/10

青い空、白い雲

Sirai-2  泥水を啜ってる。黴臭い壁を這い伝ってる。分厚い曇りガラスの窓の外は晴れているようだ。

 ん? 俺は今、何処にいる。青空の下を歩いてるんじゃなかったか。燃え上がる闇の一夜を命からがらやり過ごして、お袋に起こされて、目覚めた振りをして、味のない香りもない食事を済ませ、いつものように学校へ。

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2021/11/06

あの日から始まっていた (27 ぬめり)

         「ぬめり

 何かがぬめっている。粘着く闇の中でぬめっている何かがある。ぬた? いや違う。
 排水溝のぬめりだろうか。酔っぱらった魚の腹なのだろうか。それとも、イカのぬめり?
 梶井基次郎が好きなあの滑りだろうか。奴は光まで滑ってると喝破していた。いや違う、奴は光が鼻っ面を滑ったと言っただけだ。あと一歩だったんだ。もう一歩で辿り着けていたのに、滑ってしまった。

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2021/10/12

あの日から始まっていた (19 球体関節人形)

2014_1400  ← 画像は、「小林たかゆき お絵かきチャンピオン」より

 

   「球体関節人形

 

 それはあまりに可憐すぎた。生きる途上のほんの一時、幻のように現れる神の気紛れだった。
 風になびくススキの穂よりやわらかかった。陽光に映える水面より眩かった。
 無邪気としか思えぬ瞳の輝きが誰の魂をも刺し貫いた。
 それは情け容赦のない電撃。逃れようのない救い。闇の世の光明。
 誰をも心に笑みを浮かべさせた。とっくに忘れ果てていた魂の弛緩。

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2021/09/30

あの日から始まっていた (15 窒息した美)

Vols ← ヴォルス『無題』1942/43年 DIC川村記念美術館 グァッシュ、インク、紙 14.0×20.0cm (画像は、「「アンフォルメルの先駆者」ヴォルスの全貌を探る 国内初の展覧会 - アート・デザインニュース CINRA.NET」より)

 

 世界の中のあらゆるものがとんがり始めた。この私だけが私を確証してくれるはずだったのに、突然、世界という大海にやっとのことで浮いている私は、海の水と掻き混ぜられて形を失う一方の透明な海月に成り果てているのだった。
 私だけが丸くなり、やがて形を失ったのだ。

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2021/09/08

あの日から始まっていた (8 睡魔)

 鉛色なんだから仕方がない。気取ってるわけでも、屁理屈をぶってるわけでもない。
 あの日から始まっていた鉛色の日々は、あまりに深すぎて重苦しくて、自分でも分からずにいた。
 私はやたらと粘る曖昧の海に独り漂っていた。朝の目覚め…それが目覚めと呼べるなら…親の遠い呼び声で深く淀んだ泥水の底にいることを気付かせられた。

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2021/08/26

あの日から始まっていた (5 赤い闇)

赤い闇

 

 手探りして歩いている。何処を歩いているのかさっぱり分からない。何故に歩くのか。それは走るのが怖いからだ。早くこの場を抜け出したいのだが、漆黒の闇が辺りを覆っている。ぬめるような感覚がある。巨大なナメクジに呑みこまれているようだ。それとも呑み込んでいるのか。


 息はできている。空気はあるのだろう。吸う。溜める。吐く。意識して呼吸する。体の中に何かを取り込んでいる。肺胞がギリギリの活動をしてくれている。
 踏ん張って歩きたい。が、足元が覚束ない。押せば引く、引けば圧し掛かってくる。体が重苦しい。世界は開かれている。そう直感している。ただ、隙間が見えないだけだ。何処かに出口がある。そう信じて生きていくしかない。

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2021/01/24

タールの彼方

創作だろうか声にならない呟きだろうか:

 

 まだるっこしい。粘りつく何か。纏わりつく細い腕。波の音が体をなぶる。潮の香が鼻腔を貫く。真っ赤な闇が瞼を焦がす。中空に漂っている。白い脚が波打つ髪のように絡み付いている。あっさりと溺れてしまいたい。半端に慰撫するんじゃない。蜜の味の舌が体を這う。歯噛みするそれ。ああ、私は何処にいる? お前は誰? 際限のない愛撫が回転する螺旋階段に抉られている。目覚めはまだか。出口はないのか。

 

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2020/10/16

ボクの世界は真っ赤な闇

「ボクの世界は真っ赤な闇」

 暗闇の何処かから声が聞こえる。声の主は目の前にいる。きっと先生だ。「10から1まで逆に言いなさい」とか何とか。生徒らは順番にハキハキと、中にはつっかえながらも、何とか答えている。やがてボクにも番がやってくる。ボクにできるだろうか。隣の女の子は、なんて綺麗な声なんだろう。「じゅう きゅう はち なな……さん にぃ いち。」ボクだ。みんなの目線がボクに集まる。何十もの目玉がボクの顔にへばり付く。視線というハリネズミの針がボクの心を突き刺す。椅子を引いて立ち上がるボク。「じゅう…きゅう……はち……」そこで止まってしまう。「なな」が言えない。

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