創作(断片)

2017/02/17

井田川幻想

 街角に立ち尽くす女が居た。
 吹きっ晒しの風に深くかぶったフードが揺れる。
 時折、男が通り過ぎていく。

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 一瞬、顔を覗き込んでは、やれやれといった顔をして去っていく。
 遠慮のない奴は、フードを引っ張って、顔を晒そうとする。木枯らしより寒々とした男の目線に女は弱弱しげな眼差しで応えようとする。

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2017/01/24

君はピエロ 僕もピエロ

 何だろう、やたらと淋しいじゃないか。
 淋しいというより、心が張り裂けそうだよ。
 そういえば、夕べ見た夢にピエロが現れたっけ。

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 ぼくを笑わせようと、懸命になって、身を捩らせてまで滑稽な踊りを披露してくれていた。
 ぼくは笑いたかったんだよ。君に逢えて嬉しい。君がぼくのそばを通り過ぎたりしないでさ、足音を響かせてまで、ぼくの気を引いてさ、そうして氷雨の夜、町の片隅で身を凍らせてまで、剽軽な踊りを見せてくれたんだよね。
 なのに、ぼくはまるで知らん顔して、闇の底を呆然と眺めているだけだった。

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2016/08/11

靄の中の女

 靄(もや)のかかった池の脇を通りった。
 そんな場所に行くつもりなどなかった。

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 郊外の新興住宅地の一角を歩いているはずが、一歩、裏道に踏み込んだら、そこは野原。
 目的の家が分からない。建ったばかりで、表札もない、ただ、目印にパンダ(フィアット)の中古車を表に止めてあるという。
 奴の愛車なのだ。何処を見渡しても、それらしい車が見つからないってことは、奴はまだ帰宅していないのか。

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2016/07/02

永遠と一瞬の美しき目合ひ

 夜、仕事の合間などに空の星を眺めることがある。
 遠い星。遥かな高みの星。
 あの星に人類はいつか、到達するんだろうなって。

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← お絵かきチャンピオン 作「不詳」 (ホームページ:「小林たかゆき お絵かきチャンピオン」参照)

 人類は、月に達し、火星にも近い将来、立つのだろう。
 既に地に降り立ったという月の世界すら、小生のようなぼんくらには遥かに遠い世界なのだ。

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2016/06/30

ボクのブルー

 青色が好きなのは、空の青、海の青が好きだから…なんかじゃない。
 ブルーが好きなのだ。

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← そらい@抽象画 作品名不詳。油彩かな。「sorai(そらい)」へ!

 ブルーの心が眸の中に漂っている。
 それとも、ホントはグレイの脳味噌のはずが、悲鳴を上げてヒートアップして、青く発熱しているのかもしれない。
 何も分からないのだよ。世界が揺蕩っている。どよーん、どよーんって、揺さぶられる潮のざわめきが煩いほど聞こえてくる。
 膿が浸潤して、骨も血管も腱も筋も、そして肺腑だって崩れ始めている。

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2016/04/23

寧日の日々

 私は形を失ったゾウリムシ。それとも、腐り切ったミジンコ。
 あるいは、踏みつけられ大地に無残な姿を晒すミドリムシ。

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← (画像は、「小林たかゆき お絵かきチャンピオン」より)

 透明な粘々する、恐ろしく濃密な時空に窒息し押し潰された肺の成れの果て。
 体表の繊毛列は、ダンプカーに突っ込まれた麦畑のように、薙ぎ倒された茎の惨状を呈している。
 細胞の口は、喘ぐことしか知らない、末期の老婆のように、呆けた心を吐きだそうとしている。

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2016/03/28

雨っ垂れ

 水道の水が一滴、また一滴と落ちている。
 どんなにしっかり締めても水は垂れてしまう。

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 蛇口に水が垂れ零れてきて、一瞬、透明な顔を覗かせたかと思うと、次の瞬間には、流し台へと落ちていく。
 飽きずに見惚れてしまう。
 庇に降りかかる雨がケーブルを伝っていく。

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2016/02/04

影の女へ

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 あなたは形を失っていく。
 わたしを見つけることもできないままに。

 あなたは形を失い、崩れていく、ひたすらに。
 まるでわたしをなぞらえるように、蕩けていく。
 わたしなど、生まれた時から形がなかった。形を成すすべもなく、無力のままに世界の中に放置された、そう魂の躯。そんなわたしを追いかけてどうするというのだ。

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2015/05/31

曝け出すしか

 野中に立ち尽くす一本の木。風も光も独り占め。
 荒野に屹立している? とんでもない! 奴は独りぼっちなのだ。人に和すこともできず、人に抗うこともできない。ただ、孤立している。

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2015/04/10

シラミの部屋

 この部屋を出たかった。出ないことには息が詰まって死んでしまう。
 今度こそ、この部屋を出る! そう決断したことは何度あることか。
 けれど、いざとなると、決心が鈍ってしまう。

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→ お絵かきチャンピオン 作「天井ピアノ弾き」

 何かが引き止めるのだ。
 殺っちまったことが露見するから? 
 それもある。部屋の模様替えなんかされたら大変だ。いや、壁紙でも貼っちゃえば、壁の汚れなど誤魔化すこともできよう。何年も経てば、建て替えだ。重機か何かで一気に倒され潰され跡形もなく消え去ってしまう。その頃には、何もかもが骨か皮だ。

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