小説(幻想モノ)

2023/09/19

昼行燈3

Suzume_20230919234301

 吹雪いていた。家の中にいるはずなのに猛吹雪だ。雪の粉が顔面に叩く。冷たい! 氷の礫。
 が、何故かまるで痛くない。冷たくもない。まして寒くなんかない。まるで浮き粉だ。それとも小麦粉なのか。微かに香りさえ漂ってくる。表面の光沢が反射し合って眩しいほどだ。

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2023/09/14

昼行燈

 まっさらな空間。何もない? 茫漠たる気分。浮いてる? 漂ってる? 何処に? 掴みどころのない時空。何もないというのは本当? なのに体は火照っている。火照るどころじゃない、燃えるようだ。鉛のように凝り固まっているのに、熱いのは何故だ? 削れば金属の粉がボロボロ零れるに違いない。

 

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2022/10/09

罅割れのガラス窓

Waregara-2 白濁した水晶。それとも胡乱な曇り空。違う。雲は垂れ込めていない。むしろ青空かもしれない。見えないだけなのだろう。空気が重いのは寒いから? それも違う。いつも同じように重い。圧し掛かっている。これも違う。体そのものが鉛のようだ。鉛かコンクリートの塊。

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2021/09/16

あの日から始まっていた (11 赤いシーラカンス)

Akagyo

 「赤いシーラカンス

 

 不思議の海を泳いでいた。粘るような、後ろ髪を引かれるような海中にもう馴染み切っていた。
 髪を掴まれて、何処へでも流れていったって構わないはずだ。
 なのに、妙な意地っ張りな心が前へ、前へ進もうとする。

 

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2021/09/08

あの日から始まっていた (8 睡魔)

 鉛色なんだから仕方がない。気取ってるわけでも、屁理屈をぶってるわけでもない。
 あの日から始まっていた鉛色の日々は、あまりに深すぎて重苦しくて、自分でも分からずにいた。
 私はやたらと粘る曖昧の海に独り漂っていた。朝の目覚め…それが目覚めと呼べるなら…親の遠い呼び声で深く淀んだ泥水の底にいることを気付かせられた。

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あの日から始まっていた (7 雪の朝の冒険)

 それが、もし、そもそも、その手を差し出す前提としての、心の身体が欠如していたとしたら。差し出そうとすると、その力が反作用として働き、自らの身体(心)を砂地獄に埋め沈めていく。砂の海に溺れることを恐怖して、ただ悲鳴の代わりに手を足を悪足掻きさせてみたところが、その足掻きがまた、我が身をさらに深い砂の海の底深くへ引っ張り込まさせる結果になる。

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2021/08/17

あの日から始まっていた(2 頬杖)

Kwawa  頬杖ついているあの子は、何を想っているんだろう。神通川の土手に腰掛けて、じっと川のほうを眺めている。
 声をかけてみたいような。
 でも、そんなことができるわけもない。
 私は、子供には、いや誰にもただの小父さん。それも変な小父さんに過ぎないのだ。
 あと、ほんの数年もすれば太鼓腹になりそうなお腹を見ると、いや自分の顔を想うと遠くで、できるだけ遠くで見つめているしかない。

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2021/08/16

あの日から始まっていた(1)

 あの日に始まっていたことを自分でも気付かずにいた。朝、あれが朝と呼べるなら、目覚めの時のはずだから朝なのだろう。
 入院生活から戻った私はすっかり変わっていた。変わっていたことを姉の親たちへの訴えで知った。術後の私はひどい鼾を掻くようになっていた。当人の私は未だ異変に気付いていない。あまりにひどい鼾で眠れない、一緒の部屋では到底我慢できない。十歳だった私は一人で寝ることになった。親にやんわり諭された。軽い驚きがあっただけだった。淋しくはなかった。一人で部屋を占有することのほうが嬉しかった。鼾の声…音は私には聞こえない。どれほどひどいものかも分からない。

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2020/10/15

赤い闇

 手探りして歩いている。何処を歩いているのかさっぱり分からない。何故に歩くのか。それは走るのが怖いからだ。早くこの場を抜け出したいのだが、漆黒の闇が辺りを覆っている。ぬめるような感覚がある。巨大なナメクジに呑みこまれているようだ。
 息はできている。空気はあるのだろう。吸う。溜める。吐く。意識して呼吸する。体の中に何かを取り込んでいる。肺胞がギリギリの活動をしてくれている。

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2020/03/05

俺の口は鍾乳洞

 夜、決まって観る夢がある。口の中に石膏のような味気のない白い塊が詰まる。吐き出したいけど、粘着いて、指で掻き出そうとしても剥がれない。ドアの向こうから足音がする。近所の人か、通り過ぎるだけなのか、それとも、俺に用なのか。足音が段々近づいてくる。まずい、ドアの前で足音が止まったぞ。
 口の中を懸命に穿り返している。粘膜が少々傷ついたって構わない。とにかく抉り出さないと、俺の秘密が知られてしまう。誰にも知られたくない、こんな無様な姿を見られたくない。流しに立って、水道の蛇口を直接口に含んで、石膏を融かそうとした。
 何だってこんなものが喉の奥から出てくるんだ。鍾乳洞じゃないんだぞ、俺の喉は。

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