小説(幻想モノ)

2015/04/10

シラミの部屋

 この部屋を出たかった。出ないことには息が詰まって死んでしまう。
 今度こそ、この部屋を出る! そう決断したことは何度あることか。
 けれど、いざとなると、決心が鈍ってしまう。

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→ お絵かきチャンピオン 作「天井ピアノ弾き」

 何かが引き止めるのだ。
 殺っちまったことが露見するから? 
 それもある。部屋の模様替えなんかされたら大変だ。いや、壁紙でも貼っちゃえば、壁の汚れなど誤魔化すこともできよう。何年も経てば、建て替えだ。重機か何かで一気に倒され潰され跡形もなく消え去ってしまう。その頃には、何もかもが骨か皮だ。

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2013/12/31

黄色いライン

 フロントウインドーを叩いていた雨が不意にシャーベット状になり、ついには雪に変わった。
 ヘッドライトに浮かぶ無数の白い牡丹の花びらたち。
 高い空から風に乗り風に運ばれて長い旅をしてきた。

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 多くは屋根や田圃や道路に落ちては、他の仲間たちと合流する。
 でも、中にはこのようにウインドーに衝突して砕け散り、一瞬、粉雪かと思わせ、見ると濁ったような飛沫となってウインドーを涙のように流れていく。

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2013/08/08

闇に降る雨

 いつの日かの黒い雨の降った夜を思い出していた。
 あの日の雨も、目を閉じると見えてくる、タールのように粘る雨だった。 池の淵に佇み、心を閉ざし、闇に沈み、池の底に揺れる蒼白な月の影を思 っていた。

 血糊のようなタールは、口から吐き出されたのだ。鼻の穴から、目の端 から、耳の穴から、そして毛穴から溢れ出し流れ出し噴き出し、地を這い 伝い、低きに流れ、やがて抉られた一角を埋めていったのだった。
 肉片が浮き、毛髪が漂い、目玉が我こそは月影だとばかりに闇を凝視し ている。そう、見詰めるに値するものなど、この世に何もないと言わんば かりに、藪睨みしている。

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黒い雨の降る夜

 あれは夢の中でしか見ることの出来ない黒い雨の降る夜のことだった。
 鮮烈なほどの蒼い光が俺の目を刺し貫いた。貫通した光は、瞬時に消え去っ たが、俺の後ろの分厚い壁に怪しい人影を残していた。
 その日から俺は影の世界に生きてきた。
 俺にはもう、この世とやらとは縁も縁(ゆかり)もない人間に成り果てたの だ。
 けれど、俺は生きている。生きて喘いでいる。この胸の苦しさをどうにも晴 らせないでいる。なのに、誰も俺を見向きもしない。俺を素通りする。眼前の 俺を差し置いて、どこかあらぬ方を見遣り、楽しげに悲しげに退屈そうに語り、 あるいは黙する。
 こんなに胸を掻き毟りたくなる俺なのに、この世の誰にも俺の存在が認めら れない。

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2012/01/22

間に合わない

 何かの(長い)夢の続き、その挙句、ある家(我が家のようでもある)の前(庭)にいる。
 オレの隣に車(小型)がある。パステルカラー調のブルーの新車。でも、ほとんど乗った形跡がなく、放置されていたようだ。が、なぜか車窓が大きく(三分の一ほど)開いていて、細かな虫が好き放題に出入りしているし、くもの巣が張っているし、鳥(蝶)が時折、入り込んだりする。
 閉めてやろうか…。
 とにかく開いていることが気になってならない。

 突然、無線が飛び込んできた。
「クラウジウス(という名の会社)へ行け」という指示。
「そこに客が待っている…。12時(正午)までに行くように」
 暗黙の中で、その会社の場所、分かるの、教えなくていいのと、訝(いぶか)しむ係員の気持ちを感じる。

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2012/01/16

白い影

 わけもなく、遠い日の光景が目に浮かんでくる。
 でも、それは景色の断片、いや欠片ですらなく、古びた板戸の透き間から漏れ込もうとする陽光の一閃だ。
 その日、何かがあったに違いない。

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 だから、忘れたはずの記憶が蘇ろうとしているのだろう。
 脳みその奥の、赤潮に覆われた死の海のヘドロ。

 忘れたどころか、とっくに死滅して久しいはずなのに、なぜ、今頃になって炭酸ガスの泡のように、ブクブクと噴出そうとするのか。

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2011/09/22

オレは蛇

 縄というより、蛇だった。蛇がニョロニョロと這い回っているのだった。蛇は、泥の中を、土の中を、そして土器の周りを冷たい目と冷たい胴体とで経巡っていた。絡み取っていた。熱い血肉を冷たい胴体に隠している。滾るような血肉が、てらてら光る蛇の長く折れ曲がった身体に蔵されている。

 蛇は、闇から闇を渡り、どんな透き間をも見逃さず、どんな穴にも入り込み、狙った相手の体と蛇の身体との間には、微塵の透き間もない。ねちねちと絡む。へばり付く。絡みつく。泥の造形物を幾重にも取り巻く蛇の胴体。

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2011/05/06

蒼白の刃

 旅の空でのこと。
 何故か眠れないままに宿を出た。
 梅雨の丑三つ時の夜独特の濃密な時空が待ち受けていた。

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 梅雨の最中の、貴重な晴れ間が惜しかったのかもしれない。
 窓のカーテンの隙間から洩れ込む月の光があまりに眩かったのだ。何かただならぬ気配が漂っているような気さえした。

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2010/11/22

冬の蝶

 よんどころない用件があって、埋め立て地の工場地区にむりやり作られた住宅街を離れ、練馬のさらに郊外に向った。表の通りから一つ道を逸れ、その道をしばらく歩くと見つかるからと教えられた郵便ポストのある角を曲がる。
 すると、不意に懐かしい臭いが漂ってきた。肥料の混じったような土の匂い。畑が近いと感じる。
 案の定だった、お寺の妙に長い板塀と、同じ敷地内の公民館と幼稚園とを囲む白い壁とに挟まれた道の先に畑が姿を現してきた。

 土曜日の午後遅い。あとほんの少し時が流れると、一気に暮れていく、その間際のやけに明るい日差しが目には億劫である。早く黄昏て欲しいような、でも、土地勘のない町で人気のない暗い道を歩くのは辛くもある。

 約束の時間には十分余裕があった。

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2010/04/14

花の宴

 影がちらついて離れなかった。
 昼間の喧騒に紛れていた何かが、夜の帳(とばり)が降りると、やにわに蠢きだす。
 それは、生きること自体の不可思議への詠嘆の念に近い。

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 この世に何があるのだろうとしても、とにかく何かしらがあるということ自体の不可思議への感動なのだ。この世は無なのかもしれない。胸の焦慮も切望も痛みも慟哭も、その一切合切がただの戯言、寄せては返す波に掻き消される夢の形に過ぎないのかもしれない。
 そうだ、蠢いているのは、あの人の影などではない、ただただ、春の夜の悩ましいまでの妖しさのゆえに過ぎない…。そう言い聞かせた。
 そうだ、それで十分なのだ。他に何もない。朧なる春の霞に誑かされているだけのこと。
 今夜も眠れるはずがない。たとえ夜通しになろうと、春の夜という幻の世に導く隧道(ずいどう)を歩き通そう。

 春の夜の妖しさゆえにあくがれて

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