小説(オレもの)

2017/02/17

井田川幻想

 街角に立ち尽くす女が居た。
 吹きっ晒しの風に深くかぶったフードが揺れる。
 時折、男が通り過ぎていく。

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 一瞬、顔を覗き込んでは、やれやれといった顔をして去っていく。
 遠慮のない奴は、フードを引っ張って、顔を晒そうとする。木枯らしより寒々とした男の目線に女は弱弱しげな眼差しで応えようとする。

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2016/03/27

迷い道

 宵闇の迫ろうという頃、いつものように散歩に出た。
 途中、いつものように、あるじを失って、藪同然となっている、ある屋敷の庭に足を踏み入れた。

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 だけど、今日は何かが違っていた。私は屋敷林から出られなくなったのだ。
 見上げても、翳りゆく逢魔が時の背が見えるだけ。

 私は町中の小さな林で迷ってしまったのか。まさか。
 私は、何とか抜け出そうと、叫んでみた。
 私らしく、心の中で。

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2015/08/12

雨の雫に濡れたい

 雨の雫を眺めながら一日を過ごしたいと思った。
 遠い昔、日がな一日、海を眺めて過ごしたように。
 もうずっと長い間、何もしないでボンヤリ過ごしたことなどなかったように思う。

 予定のない休みの日は、折々あった。でも、大概はテレビを観るともなく観、折り込み広告を買うつもりもないのに物色したり、ネットサーフィンに興じたり、随分長く放置したままのCDを手にしてみたり、掃除の真似事をしたり、不意にそういえばあんなこともしなけりゃならなかったと今さらながらに気付いて慌ててみたり、そうしているうちに肝心の用が何も果たせぬうちに一日が、何気なく過ぎ去っていく。

 もう、何もしないでいるなんて、出来なくなっているのかもしれない。

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2015/03/10

ガラスの月影

 宵闇の町を歩いていて。もうすぐ我が家。
 最後の曲がり角を曲がったら、そこに小さな水溜りがあった。
 アスファルトの道にできた小さな、束の間の池。

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→ そらい@抽象画さん 同じ道を通ったこともない他人が、先も見えない真っ暗なトンネルの闇の濃さを知り得ることができるのか。ということを十年以上前に思っていたことをふと思い出しました(`・ω・´)ゞ

 跨いで通るか、迂回するか、それとも、ゆっくりこのまま歩いて過ぎるか。
 迷ってしまって、とうとう水溜りの前で立ち止まってしまった。

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2014/12/01

ハートの風船

 庭木の手入れをしていた。外仕事するには絶好の天気で、やるっきゃないと、張り切っていた。
 明日はもう、師走である。が、寒波の襲来の前の、そう、それこそ嵐の前の静けさといった、麗らかな陽気。

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→ 「ハート 型 バルーン」 (画像は、「Amazon.co.jp 通販」より)

 ほとんど夏場と同じ薄着で作業する。が、案の定だが、三十分も体を動かしたら、体は火照ってきて、汗ばんできた。
 風はやんわり吹いているし、暖かいといっても、晩秋である。汗を掻くのは、作業が結構、力仕事だってことを如実に表しているのだ。

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2014/11/30

赤い風船

  夢であって欲しいと思った。
 何処まで走っても似たような部屋があるばかりだった。
 仰々しいような扉をやっとの思いで開けてみても、そこにあるのは能面のよう な部屋。
 幾つ扉やドアを開け、どれほどピカピカに磨きたてられた廊下を走ったことだ ろう。ようやく、今までとは毛色の違う空間に飛び込んだ。
 しかし、人っ子一人いるわけもなく、古びて饐え切った板壁のだだっ広い空間 があるだけだった。

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2014/10/01

臆の夢

(前略)神の慈愛に満ちた眼差しはとりあえず今、生きている存在 者たちに注がれるだけでなく、土や埃や壁や海の水や青い空に浮かぶ雲や、 浜辺の砂やコンクリートやアスファルトやプラスチックやタール等々に、均 しく注がれているはずなのである。

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← お絵かきチャンピオン 作「パブロン」 (以下、作者ホームページ:「小林たかゆき お絵かきチャンピオン」)

 神の目から見たら今、たまたま生きている生物だけが特別な存在である理 由など、全くないのだ。あるとしたら人間の勝手な思い込みで、自分たちが 特権を享受している、神の特別な関心が魂の底まで達しているに違いないの だと決め付けているに過ぎないのだ。

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2014/09/29

自由を求めて

 思いは頭の中で沸き立っていた。ただただやたらと淋しい思いが脳みそを引っ掻き回し、体の中を無闇に駆け巡る。
 吐き出したいほどの淋しさがオレを一層の赤い闇へと追いやっていく。

 居場所などどこにもない。あるのは、ここじゃない、何処か他の場所、黒い丘の向こうに何かある、すぐにもそこへ向かわないと間に合わない、という切迫した狂熱。
 誰かがオレを待っていてくれる。もう、待ち草臥れるくらいにオレを待っていてくれたんだ、それを愚かなオレはこの期に及んでやっと気が付いた…。

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2014/09/09

脂肪の塊

 道路の反対側の雑踏の中でその人を見かけた。見かけた瞬間、あの人だ、という直感があった。
 見間違いなんかじゃない。あの人だ。
 けれど、その人はあっという間に人波に呑まれていった。
 彼女を追う私の足も、行き交う車に遮られ、道路を渡った時には、見知らぬ人と素知らぬ人が通り過ぎていくばかりだった。

 胸が高鳴っていた。息苦しいほどの動悸を覚えるのも久しぶりで、何か新鮮な感動すら感じるほどだった。
 あの人がこの町に居るはずがないと、頭の中では誰かが告げていた。分かっている。でも、あの人を見たという切なる思いをどうしようもなかった。
 週末だからだろうか、若い人たちの姿が多い。どうやら、大手町辺りでイベントがあるようで、電車で、あるいは歩いて、そっちへ向かうようだった。

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2014/07/20

影を慕いて

 影を探して回った。影が見当たらなくなったのだ。
 梅雨特有の曇天のせいだと思いたい。ほんの一時の、何かの間違いであってほしい。
 とはいっても、影がないのは、何とも淋しい。自分が薄っぺらく感じる。

 影がない…。いや、あることはあるのだ。どんよりした雲のせいで、影がぼやけてしまっているだけなのだ。
 そう考えることもできなくはない。
 ただ、それだと、夜になっても影が薄いことの説明がつかない。

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