小説(オレもの)

2024/09/17

昼行燈120「小望月(こもちづき)」

14tuki  「小望月(こもちづき)

 月がぽっかり浮かんでる。満月…いや違う。少し欠けてる。十三夜? でもないようだ。何だっけ? 遠い昔 聞いたことがある。というか、オレには違和感を覚えさせる呼び方。滅多に誰からも聞いたことのない無理矢理な名前。

 そうだ! 確か小望月(こもちづき)だ。 何だって子持ち月なんだ? もっと他に呼び方があったろうに。それこそ満月のほうが似合いそうだ。

 

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2024/07/30

昼行燈107「強迫観念」

Chousinka  「強迫観念

 夢の中にいるに違いない。得体の知れない生き物たちが犇めき蠢いている。命たちがもんどりうっている。命の怒涛が俺に圧し掛かってくる。
 草むしりに日々齷齪してる俺への復讐なのか。日々、際限のない数の生き物たちを踏みつけ掻き削り引き千切っている。俺はただ普通に生きているだけなのに。ただ目障りな雑草を毟り取り、観ただけで、いやその存在の気配を感じ取るだけでぞわぞわさせる微細な虫けらどもを殺虫剤で抹殺を図っているだけなのに。

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2024/07/29

昼行燈106「仕返し」

Taimo   「仕返し

 遠い昔のこと。保育所時代の頃から好きだった彼女。小学生時代も中学生になっても。全く相手にされてないのに、性懲りもなくずっと好きだった。中学校の卒業式の日、とうとう最後の時が訪れた。あの子は、俺の目の前であのやたらとカッコいいアイツに真っすぐ近付いていって、ラブレターらしきものを手渡したのだった。
 ああ、あの子の好きな男の子って、ああいうタイプなのね。
 分かっちゃいたけどさ。

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2024/07/14

昼行燈98「「ラヴェンダー・ミスト」断片」

 「「ラヴェンダー・ミスト」断片」

 私はきっと自分だけの楽しみを求めているに違いない。だがそ れが何なのか自分でも分からないでいるのだろう。
 今、目の前に 獲物がある。それをひたすらに追う自分の姿を突き放したような 冷ややかさで見ているのだ。その気持ちの正体が何かは言葉では 表現できるようなものではないと思われた。

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2024/07/09

昼行燈96「夜は白みゆくのみ」

53669632_2148027475_227large   「夜は白みゆくのみ

 この部屋を出たかった。出ないことには息が詰まって死んでしまう。
 今度こそ、この部屋を出る! そう決断したことは何度あることか。
 けれど、いざとなると、決心が鈍ってしまう。

 何かが引き止めるのだ。

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2024/07/02

昼行燈94「ヴィスキオ」

Yadorigi   「ヴィスキオ

 飲み会だった。会社の同僚にむりやり誘われてのこと。その強引さに何かたくらみがあると予感していた。
 場所は新宿のビル街の一角にあるお洒落なカフェバー。3階のヴィスキオという看板を確認した。自分じゃ思いもよらない粋な店だ。時間は7時頃。

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2024/07/01

昼行燈93「ハートの風船」

Banksy   「ハートの風船

 庭木の手入れをしていた。外仕事するには絶好の天気で、やるっきゃないと、張り切っていた。
 明日はもう、師走である。が、寒波の襲来の前の、そう、それこそ嵐の前の静けさといった、麗らかな陽気。ほとんど夏場と同じ薄着で作業する。が、案の定だが、三十分も体を動かしたら、体は火照ってきて、汗ばんできた。

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2024/06/26

昼行燈92「流れ星」

Natuzora   「流れ星

 遠い昔のこと。あれは林間学校でのことだった。有峰の青少年の家だったろうか。
 友達のいない俺は、キャンプファイヤーの焚火騒ぎの輪を外れ、一人、展望デッキの片隅でコンクリートの塀に凭れて真夏の夜空を眺めていた。
 時間は覚えていない。食後のひと時だったかもしれない。遠足の類いは大嫌いだった。どんなグループにも入れない俺は、一日をどう過ごすか、ひたすら持て余してしまう。誰かに会いに行くとか、用事を果たすため急いで何処かへ向かうとか、トイレを探しているとか、とにかく孤立していることを悟られないように懸命だった。
 でも、遠足は夕方には帰宅の途に付く。それが林間学校となると、一晩中、居場所探しに汲々とする。キャンプファイヤーの輪の中に紛れていれば誤魔化せそうなものなのに、何か遠心力のようなものが作用してか、いつの間にか弾き出されてしまったのだ。
 飛ばされた挙句、夜陰に紛れて自然の家の裏手の階段を登っていた。みんなが宿泊の大広間に集まる頃合いを見計らっていた。それまでをデッキで過ごすことが出来ればいいのだ。
 夏の夜空は凄みがあった。眼下には有峰湖が見下ろせるはずだったが、深い森の中の濃紺の広がりがそれとなく湖を感じさせているだけだった。それより空だ。方角など分からない。無数の星がキラキラ煌めいていた。眩い! しかも流れ星が一つまた一つと、途切れることなく夜空を一閃し続けていた。
 信じられないほどの星々たち。そして祈る暇など一切与えないほどに、絶えることなく現れては夜空に鮮烈な傷を一瞬刻んでは消えてしまう流れ星たち。
 祈るどころか、息を継ぐのも忘れそうだった。息を吞むとはあのことだった。孤独を託つことすら忘れさせていた。俺は流れ星なんだ。広大過ぎる宇宙空間を過る一つの逸れ星。束の間の命の輝き。焚き火なんて目じゃない。
 一瞬、流れ星が夜空を外れて地上世界に突き刺さる! と確信させる瞬間すらあった。
 星の矢が地上に、いや俺の脳裏に突き刺さる。
 突き刺さった後はどうなるのだろう。俺の脳髄の中で星屑となって煌めいてくれるならどんなに!
 数知れない流れ星を眺め続けた。心に浴び続けた。無数の星屑を脳裏に溜め込もうとしていた。新たな宇宙が俺の中で生まれる!
 そのうち眼下遠くのキャンプファイヤーの火が消え去り、みんなが散会し三々五々施設の中に吸い込まれていくようだった。
 俺も階段を慌てて駆け下りてその雑踏に紛れていった。仲間の一人を装うことは決して忘れない。俺も仲間だったのだ。星屑の欠片。誰もが星屑に違いないのだ。何が何だか分からなかったけど、星屑の一片となって下界の中に紛れ込めた気がした。それは流れ星のお陰だったのだろうか。  

                       (03:22)

(画像は、「#41726: 夏の大三角と流れ星 by mk_58_18 - 天体写真ギャラリー」より)

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2024/06/25

昼行燈91「我が友は蜘蛛」

Hibiya_20240625031501  「我が友は蜘蛛

 蜘蛛の行方を追っていた。部屋の中に一人いると、暇を持て余す。テレビもラジオも飽きた。ネットも観るところは同じ。所詮は自分の選ぶ世界で、つまりは己の手の平の上を堂々巡りしているようなもの。自分の顔を観ているようなものなのだ。
 音楽も俺にはうざい。音を楽しむ。音の愉しみ。流行りの曲はどれも同じように聞こえてならない。要するに俺は若くはない、今どきの音楽シーンからは相手にされてないってことだ。

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2024/06/12

昼行燈90「藪の中を蠢くもの」

Hasami   「藪の中を蠢くもの

 まるで地の底を這いずり回っている…自分の感覚じゃそうとしか思えない。
 大袈裟なのは分かってる。でも、藪としか思えない庭の植木の中を這うように巡っていると他に表現のしようがないのだ。
 やっているのはただの草毟りであり、樹木の剪定作業。

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