創作:落語篇

2005/10/09

浪曲「みみず医者」(弥一版)

[ 本稿は、季語随筆「寒月」中から、浪曲「みみず医者」の部分を抜粋したものである。
 本編を読まれれば分かるように、タクシーでの営業中、「NHKラジオ(第2 浪曲十八番だったか)で、富士琴路という方の「みみず医者」を断片的にだが、聴けたので」、それを記憶に基づいて、メモしてみたもの。よって、「以下、かなり無精庵流に脚色された「みみず医者」であることを最初に断っておく。それでも、読まれるのならば、読む方の責任で、どうぞ」ということに相成るわけである。
 この無精庵方丈記は創作のブログサイト。だから、ちゃんとした富士琴路という方の「みみず医者」であるならば、載せるべき筋合いのものではない。悲しいかな、未だにネット上でも、また図書館などでの文献でも、あるいは録音テープの形でも、本来の形の浪曲「みみず医者」を確認できていない。ひたすら、小生の怠慢の結果である。
 以下、この創作のサイトに掲げるのも、恐らくは(ほぼ全く)創作というかデッチアゲに近い浪曲の話になっているに違いないと思うからである。なんといっても、小生、自分の記憶力に全く自信がない。このことは学生時代を通じて、日々実感してきたし、実績も(成績も)その事実を悲しいほど、悔しいほど裏書きしてくれている! このような事情を斟酌の上、以下のお話をどうぞ。
 浪曲なので、その名調子で高座(浪曲の場合も高座と呼ぶのだろうか)の上で話されていると想像で補いつつ、読んで欲しいと思うけど、ま、贅沢な願いでしょうな。 (05/10/09 アップ時注記)]

続きを読む "浪曲「みみず医者」(弥一版)"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2004/11/15

やじきた問答(6)

 「やじきた問答(6)」

 弥次郎(以下、「やじ」と略する)と北八(以下、「きた」と略する)
との、或る日の問答です。
 久しく喧嘩ばかりで、まともなお喋りなど、とんでもないという雰
囲気でしたが、さすがに、最近になって仲直りも果たせたようです
…。が、なんだか、今回は、しんみりした雰囲気が漂っています:

やじ:最近よ…
きた:さいきん? 細菌? ああ、なんだか最近、流行ってるらしい
   な。梅雨だしな。黴菌の季節だしな。
やじ:流行ってるかどうか知らねえけどよ。
きた:ああ、白髪ね。霜降り頭だあな。しゃあ、あんめいよ。年だも
   の。
やじ:おめえ、何の話、してんだ?
きた:白髪だろ。
やじ:どこから白髪の話になったんだ?
きた:だから、てめえが白髪が何とかって言ったじゃねえか。
やじ:白髪が…。馬鹿だね、知らねえけどよって言っただけじゃね
   えか。
きた:虱(しらみ)だと。なんだい、藪から棒に。そりゃ、オレッチは
   よ、頭は洗わないよ。
やじ:ひええ、てめえ、風呂、入らないのかよ。
きた:入るさ。だけどよ、頭は洗わないことにしてるのさ。
やじ:なんで、頭、洗わねえんだ? (と北八の頭を見遣る)
きた:じろじろ見るなって。別に髪が薄くなったこと、気にしてんじ
   ゃねえぞ。
やじ:ま、無理すんな。触らぬ髪に祟りなしって言うしな。
きた:どうも、癇に障るな。
やじ:それを言うなら髪に触るな、だろうが。
きた:てめえも拘る奴だな。てめえにゃ、関係ねえだろうが。とにか
   くよ、確かに頭は洗わねえけどよ、虱はさすがにいねえぞ。
やじ:いねえぞって、確かめたこと、あんのかよ。虫眼鏡で調べたっ
   てえのか。
きた:そんなもん、頭が痒いかどうかで分からあな。
やじ:へん、面の皮も厚けりゃ、頭の皮だって厚いって道理で、虱が
   巣食ってたって、おめえじゃ、気が付かねえってこと、あるんじ
   ゃねえか、え?
きた:何、言ってんだ! 何なら、見せてやろうか、オレッチの頭。
やじ:いいよ、見たかねえよ、そんな汚ねえもん。
きた:だから、汚ねえはやめとこうって。
やじ:そうじゃなくえ、不衛生なもの、見せるなって、言ってるんだ、オ
   レは。
きた:いんや、どうあっても、見せる。オレッチの沽券に関わるからな。
やじ:股間に触るって?
きた:いや、沽券に関わるって言ったんだ。
やじ:苔が集(たか)ってるって?
きた:誰が苔がどうしたって、言ったってんだ。沽券だよ、沽券!
やじ:虱は股間に巣食うよな。
きた:股間は救いようがねえだろう。
やじ:確かにな、それはお互いさまだあな。ん? で、何の話だっけ?
   風呂に入るかどうかだっけ?
きた:そう、オレはちゃんと風呂に入ってるって…、そうじゃねえだろう。
やじ:おえめが突然、虱がどうしたとかって言うから変になったんじぇ
   ねえか。
きた:だって、てめえが白髪に虱がどうしたとかって、言ったじゃねえ
   か。
やじ:オレが虱の話を持ち出したって、とんだ言いがかりってもんだ。
きた:だって、白髪が虱でとかって…。
やじ:知らねえけどよって、言っただけじゃねえか。
きた:なんだ、知らねえを、白髪とか虱とかって、聞き間違えただけか。
   かなり、無理があるな。
やじ:そうよ。ちゃんと知らないとかって、最初から言えばいいんだ。
きた:それにしても、知らねえを白髪とか虱とかって、ちょっと無理、あ
   るよな。ま、見逃しておくけどよ。
やじ:内緒だけどよ。どうも、最近、書き手の奴、インスピレーションが
   湧かなくて辛いとかって、こぼしてたぜ。
きた:ととと。なんだ、そのインチキがションとかって。
やじ:立ちションじゃねえやな。インスピレーションだよ。ん? てめえ
   にゃ、横文字は鬼門だったっけな。
きた:何、言ってんだ、オレッチはよ、横文字は得意さ。横森良造って
   えくらいだからな。現に横書きで喋ってるじゃねえか。オレが苦
   手なのは、カタカナよ。
やじ:だっけか?
きた:で、書き手がどうしたって? 毛虱が痒くて、頭を掻いてるってか。
やじ:ああ、それもあるかもしれねえな。会うと、いつも、頭、掻いてる
   からな。それも、股間をボリボリやった手で頭、掻くんだからな。
   で、その手で原稿まで書くってえんだから、奴の文章の臭えこと! 
   汚えこと!
きた:おっと、汚えことはやめとこうぜ。
やじ:おお、そうだったな。それでさんざん、揉めたんだからな。
きた:で、そのエスカレーションがどうしたって。
やじ:エスカレーターじゃなくて、インスピレーション! 分かんねえ奴
   だな。
きた:なんでもいいから、先、続けな。
やじ:うん。奴、オレ、とんでもない間違いをしたかもって、嘆いてたぜ。
きた:とんでもない間違い?! 何を今更じゃねえか。奴がこんなもん、
   書くってこと自体が間違いだってこと、分かってねえのかな。
やじ:それを言っちゃあ、おしめえよ。可哀想じゃねえか。
きた:それもそうだな。苦し紛れなのは、分かりきったことだしな。奴も
   生活があるから、何かしら、でっち上げねえと、生活が成り立た
   ないんだろうし。で、奴の言う、とんでもねえ間違えってえのは、
   何だ。
やじ:奴、名前を間違えたって、ぼやいてたんだ。
きた:名前、自分の名前を? じゃ、誰の名前と混同してたんだ?
やじ:じゃ、なくてよ。よりによって、オレの名前らしいんだってんだから、
   情ねえじゃねえか。
きた:え? 自分の名前と虚構の登場人物の名前を間違えたって? 
   それじゃ、最初から全部、やり直しじゃねえか。
やじ:そうなのよ。
きた:で、どう、間違げえたって、奴、言ってるんだ?
やじ:オレの名前、知ってるよな。弥次郎ってんだ。
きた:知ってるぜ、それくらい。馬鹿にすんなって。
やじ:いや、馬鹿にするとかじゃなくてよ、奴が言うには、その弥次郎
   って名前が勘違いらしいんだ。
きた:弥次郎が勘違いしたって。おめえ、何か勘違いしたのか、また。
   でも、いつものことじゃねえか、お前が間違えるのは。
やじ:オレが勘違いしたんじゃなくて、書き手が弥次郎でトチったって
    ことさ。
きた:でも、書き手と弥次郎は、建前からして、別人格なんだろう。
やじ:そりゃ、そうさ。
きた:どうも、言ってることが見えねえな。
やじ:あのよ、奴、自分じゃ、相当、教養があると自惚れてやがんだ。
きた:ああ、それは、みんな、言ってる。奴の教養なんて、高が知れて
   るってえのに。でも、ま、可哀想だから、みんな、凄いですねって、
   奴の重い体をよいしょして持ち上げてやってんだけどな。
   で、奴の教養がどうした? 
やじ:オレとてめえの名前は、奴が尊敬している十返舎一九の「東海
   道中膝栗毛」から戴いているってこと、知ってるよな。
きた:そんなこたあ、言われなくたって、誰でも分かるさ。盗作、盗用
   は奴のお手の物だからな。
やじ:し! それを言うなって。奴、自分が江戸時代の古典を諳んじ
   られるって、それだけが奴の唯一の自慢の種さ。それもな、ここ
   だけの話だけどな、奴が諳んじられるのは、「東海道中膝栗毛」
   の中身の話じゃねえぞ、驚くな、タイトルと登場人物の名前を間
   違いなく言暗唱できるってえ、それだけなんだから。
きた:ゲ! 呆れるね。でも、いいじゃあねえか。可愛いじゃねえか。
   膝栗毛の意味も知らない奴らしいや。噂じゃ、今度、「公開道中
   乳繰り毛」を書くとかってな。やめときゃいいのによ。
やじ:それが、そうでもないらしいぜ。
きた:どういうことだ。
やじ:奴、「東海道中膝栗毛」の肝腎の登場人物の名前を勘違いして
   たらしいんだ。
きた:登場人物の名前? 弥次さん・喜多さんだろう。誰だって知って
   らあな。
やじ:それがよ、奴、弥次郎と喜多八だと思い込んでいたらしいんだ。
きた:あちゃ!
やじ:で、弥次郎をもじってというか、親しみを込めて弥次さんだし、喜
   多八さんじゃ、難しいから、北八とした上で、きたさんと呼ぶこと
   にしたらしいんだ。
きた:だったら、それでいいじゃねえか。オレは名前なんて、全然、拘
   らねえぞ。北八でも、東八でも、環八でもどうでもいいやな。おめ
   えの名前だって、弥次郎だろうが、やじろべえだろうが、次郎吉
   だろうが、オレはどうでもいいやな。ちゃんと付き合ってやるぜ。
やじ:次郎吉は、ちょっとな。盗人だし、市中引き回しのうえ最後は品
   川の鈴ケ森刑場で獄門だったって話だし。そういや、香西かおり
   さんのニュー・シングルが、『人生やじろべえ』だってな。
きた:どうして、ここに香西かおりが出てくるんだ? 頭の臭さで、かお
   りつながりか?
やじ:そいつあ、かおりさんに失礼だろうが。いや、ただ、オレが好きだ
   からよ。それに、おめえが、やじろべえなんて言うからじゃねえか。
きた:ったく。でも、言っておくがな、おめえさんよ、香西かおりのファン
   らしいけど、新曲はもう、『白い雪』になってんだぞ。
やじ:げげ。やばい! オレとしたことが。
きた:それにしても、小説の登場人物の名前を勘違いして覚えている
   なんて、奴らしいな。
やじ:まあな。オレとしては、名前を間違えて付けられたってことに、ち
   ょっとばかり、癪な気持ちもあるけど、ま、奴が付けたんじゃ、この
   程度かなって諦めてるけどな。
きた:じゃ、作者の奴も諦めればいいのにな。
やじ:ところでよ、奴が十返舎一九を尊敬しているのは、どうやら、作
   品の中身とかって、そんな高尚な理由じゃねえらしいんだ。
きた:ってえと?
やじ:十返舎一九が、原稿料だけで生活を維持できた最初の職業作
   家だってえいう、それだけの理由なんだから。
きた:だろうな。想像できるぜ。
やじ:なのに、自分は名前さえ、勘違いしてしまった。ああ、これじゃ、
   印税生活も夢の夢だって、嘆いているってえわけさ。
きた:そうか、奴の嘆きってえのは、そんなとこか。
やじ:ただな…。
きた:ただ、なんだ。
やじ:ここまで来て、オレ、ふと、思い出したんだけど、「東海道中膝栗
   毛」の登場人物の名前って、弥次郎兵衛と喜多八じゃなかった
   っけかって。
きた:弥次郎兵衛と喜多八?! ん? そういや、そうだったな。
やじ:でも、落ち込んでる奴に、今更、あなた、間違ってないですよ、な
   んて言えないじゃねえか。
きた:そりゃ、そうだ。でも、なんだ、それじゃ、書き手が勘違いしていて、
   登場人物のほうが正しく状況を理解しているって、一体、どういう
   こった? 訳が分からんぞ。
やじ:それが、いかにも奴らしいエピソードってことになるのかもな。
きた:あーあ、だな。登場人物してるのが、情なくなるな。ま、オレたち
   ゃ、大人だし、奴の調子に合わせておくさ。
やじ:ま、勉強嫌い、人嫌いじゃ、土台、印税生活なんて、無理なこと
   さ。
きた:な、奴だって、名前を無精庵って自称してるくらいだから、少しは
   自覚してるんだろうな。
やじ:それがそうでもねえから、哀れじゃないか。無精庵の無精はよ、
   最初、無性にの無性を使うはずだったんだ。つまりよ、無性にカネ
   が欲しいって意味でな。でも、さすがに正直すぎるってんで、無精
   で誤魔化しらってえ噂だぜ。
きた:あーあ、奴、身の程を知って、駄洒落問答でも繰り広げていりゃ、
   お似合いってものなのにな。
やじ:だから、俺たちがここにいるんじゃねえか。
きた:あ、そっか?! 俺たちは奴の玩具ってえわけか。やになってき
   たな。
やじ:だから、やにきたを洒落て、やじきた問答ってえわけさ。
きた:がっかりだな。
やじ:所詮、こんなもんよ。

                                 (04/06/27)
[「やじきた問答 1-5」は、ホームページでどうぞ!]

| | コメント (0) | トラックバック (0)