小説(ボクもの)

2024/08/27

昼行燈116「遠足」

Hotaru_20240827030401   「遠足

 何が嫌いって、何が嫌だって、遠足ほど恐怖の日はなかった。遠足の日が近付くと胸が苦しくなる。いよいよ明日が遠足の日となると、願うのはただ一つ、一刻も早くその日が過ぎ去ること。ガキの頃 幾度となく受けた苦しい手術さえも比べものにならない苦しみ。

 それは自分には友達が居ないことが露になること。何てつまらない苦しみ? そうかもしれない。だけどバスで現地に着いて、途端に途方に暮れてしまうのだ。ボクは何処へ行けばいい?

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2024/08/13

昼行燈113「里帰り」

Photo_20240813033901  「里帰り


 星空だった。大好きなお月さんも今日はお休みみたい。
 お袋の田舎に里帰り。乗り物が苦手なお袋は、乗り物を乗り継ぐ旅は前夜から緊張してる。顔が引き攣ってる。大丈夫だよ。間違ったっていつかは何処かへ着くんだかねって、云ってあげたいけど、かく云うボクも不安でたまらなかったから、情けない。

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2024/07/29

昼行燈106「仕返し」

Taimo   「仕返し

 遠い昔のこと。保育所時代の頃から好きだった彼女。小学生時代も中学生になっても。全く相手にされてないのに、性懲りもなくずっと好きだった。中学校の卒業式の日、とうとう最後の時が訪れた。あの子は、俺の目の前であのやたらとカッコいいアイツに真っすぐ近付いていって、ラブレターらしきものを手渡したのだった。
 ああ、あの子の好きな男の子って、ああいうタイプなのね。
 分かっちゃいたけどさ。

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2024/07/23

昼行燈103「おしくらまんじゅう」

Oshikura   「おしくらまんじゅう

 

「おしくらまんじゅう、押されて泣くな」
 冬になると学校では、おしくらまんじゅうで遊ぶ。
 校庭は雪がどっさり降っていて、さすがに遊べなくなっている。
 いつだったか、自衛隊の人たちが来て、ブルドーザーで雪掻きしたことがあるって、近所のおばちゃんに聞いたことがある。そこまでは積もってないみたいだけど。
 ああ、でも、そんな光景、見てみたい。

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2023/09/29

昼行燈7

Jerryfishglass「あの日のボク」

 宵闇の町を歩いていた。もうすぐ我が家。
 最後の曲がり角を曲がったら、そこに小さな水溜りがあった。
 アスファルトの道にできた小さな、束の間の池。

 跨いで通るか、迂回するか、それとも、ゆっくりこのまま歩いて過ぎるか。
 迷ってしまって、とうとう水溜りの前で立ち止まってしまった。

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2023/09/21

昼行燈4

Tuki_20230921005501  何処までも広がる田圃の連なり。嘗ては一面の麦畑だったとは信じられない。今は農閑期。田植え前。嵐の前の静けさ。何処行く当てもなく歩いていた。まだ明るかった空が既に宵闇に沈みかけている。畦道や用水路の縁を辿っていたけど、月影のない筋は次第に曖昧の闇に呑み込まれていく。

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2021/09/09

あの日から始まっていた (9 火車の頃)

 ガキの頃、あるいは物心付いたかどうかの頃、地獄絵図の夢をよく見たものだった。立山曼荼羅に描かれる世界が、私の夢の中では現実だった。
 幾度となく炎熱地獄、無間地獄の世界を逃げ惑った。目が醒めて、ああ、夢だったのかと安堵の胸を撫で下ろすのだったけど、目覚めというのは、眠りの間の束の間の猶予に過ぎず、夜ともなると、また、元の木阿弥へと突き落とされていく。

 

 その地獄では、同じ場面が繰り返された。ある男(自分?)の脛(すね)の肉が殺ぎ落とされる。

 

 血が噴出す。肉片が何処かへ行ってしまう。男は、取り戻そうと駆け出すのだが、炎熱に阻まれて追うことは侭ならない。

 

 が、気が付くと、男の眼前に肉片が転がっているので、男は慌てて肉片を拾い、脛にあてがって元の状態に戻す…のだが、またまた誰かの手により(それとも鋭い刃によって)殺がれてしまい、血が噴出し、男は肉片を追おうとする…。そんな繰り返しだった。

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2021/08/26

あの日から始まっていた (5 赤い闇)

赤い闇

 

 手探りして歩いている。何処を歩いているのかさっぱり分からない。何故に歩くのか。それは走るのが怖いからだ。早くこの場を抜け出したいのだが、漆黒の闇が辺りを覆っている。ぬめるような感覚がある。巨大なナメクジに呑みこまれているようだ。それとも呑み込んでいるのか。


 息はできている。空気はあるのだろう。吸う。溜める。吐く。意識して呼吸する。体の中に何かを取り込んでいる。肺胞がギリギリの活動をしてくれている。
 踏ん張って歩きたい。が、足元が覚束ない。押せば引く、引けば圧し掛かってくる。体が重苦しい。世界は開かれている。そう直感している。ただ、隙間が見えないだけだ。何処かに出口がある。そう信じて生きていくしかない。

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2021/08/25

あの日から始まっていた(4 ゼンマ)

Gyo  人間は、どうしても、モノ を想う。思わざるを得ない。言葉に したくてならない。言葉にならない ことは、言葉に縋りつくようにして 表現する奴ほど、痛く骨身に感じている。

 肉体は、肉体なのだ。肉体は、我が大地なのである。未開のジャングルより遥かに深いジャングルであり、 遥かに見晴るかす草原なのであり、どんなに歩き回り駆け 回っても、そのほんの一部を掠めることしか出来ないだろ う宇宙なのである。

 

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2021/08/22

あの日から始まっていた(3 バケツ)

 暗闇の何処かから声が聞こえる。声の主は目の前にいる。きっと先生だ。眼鏡の奥の目線が冷たい。「10から1まで逆に言いなさい」とか何とか。他の生徒らは順番にハキハキと答える。中にはつっかえながらも、何とか答えている。やがてボクにも番がやってくる。ボクにできるだろうか。隣の女の子は、なんて綺麗な声なんだろう。「じゅう きゅう はち なな……さん にぃ いち。」ついにボクだ。みんなの目線がボクに集まる。何十もの目玉がボクの顔にへばり付く。視線というハリネズミの針がボクの顔を心を突き刺す。椅子を引いて立ち上がるボク。「じゅう…きゅう……はち……」そこで止まってしまう。「なな」が言えない。

 

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