あの日から始まっていた (9 火車の頃)
ガキの頃、あるいは物心付いたかどうかの頃、地獄絵図の夢をよく見たものだった。立山曼荼羅に描かれる世界が、私の夢の中では現実だった。
幾度となく炎熱地獄、無間地獄の世界を逃げ惑った。目が醒めて、ああ、夢だったのかと安堵の胸を撫で下ろすのだったけど、目覚めというのは、眠りの間の束の間の猶予に過ぎず、夜ともなると、また、元の木阿弥へと突き落とされていく。
その地獄では、同じ場面が繰り返された。ある男(自分?)の脛(すね)の肉が殺ぎ落とされる。
血が噴出す。肉片が何処かへ行ってしまう。男は、取り戻そうと駆け出すのだが、炎熱に阻まれて追うことは侭ならない。
が、気が付くと、男の眼前に肉片が転がっているので、男は慌てて肉片を拾い、脛にあてがって元の状態に戻す…のだが、またまた誰かの手により(それとも鋭い刃によって)殺がれてしまい、血が噴出し、男は肉片を追おうとする…。そんな繰り返しだった。
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