昼行燈126「眼差しという匕首」
靄っている。靄が何かも分からないのだが。ブヨッとしたゼリーの海に漂ってるのかもしれない。腕や脇腹や背中、それとも口蓋からジクジク滲み出た膿なのかもしれない。ようやく瘡蓋になったと、ホッとしたのも束の間、揺り戻す膿の波はあまりに濃密で、貰いそびれたチョコレイトのように苦く甘い。喉を埋め尽くして固まって血反吐の噴出を辛うじて塞いでる。遠い記憶の断片たちが遥かな波に弄ばれて愉しそうだ。出来ることなら混ぜて欲しい。一人ぼっちは見棄てられた公園の揺り篭それとも鞦韆に似ている。錆びれ切らないと大地に横たわることは叶わない。それまでは意味のない呟きを風に紛らせるだろう。届かない想いはギシギシ鳴るネジかバネ。聴いてくれるのは、野鳥か蟋蟀か野良猫か。左の耳から右の耳へと素通りする。誰かが聞き届けてくれる。待ち続けて草臥れて木乃伊が笑みを浮かべてる。そんな日々の達磨さん。
靄の、膿の、ゼリーの……正体は、それは他人の視線、眼差しという匕首、林立する刃だ。
と思い込んだ、決め付けてきたことがとんでもない勘違いだったと気付くのに何10年も費やしてしまった。気付いたときには遅すぎた。
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