昼行燈123「家の中まで真っ暗」
頼みの綱は茶の間だけだ。が、茶の間の出窓から窺えるのは漆黒の闇。盛って云えば屋敷林に囲まれた過保護な佇まい。防風林でもある杉や松、樅、椿、山茶花、楓たちが片寄あって外光の侵入を防いでいる。しかも、茶の間の隣の台所の戸を開けて10歩も歩けば納屋が構えている。納屋の脇の隙間を立木の枝葉を避けながら歩けばようやく遠からぬ町の家並みや団地の灯りが終夜灯っているのが分かる。ただ、茶の間からは一切の人気と絶縁状態なのである。
家の中さえ暗い。暗すぎてトイレに向かうにも難儀だ。茶の間を一歩出たら墨を流したというか墨に浸されたというべきか、柱や箪笥や襖や廊下の壁を手探りしながら一歩一歩…摺り足で進まないとならない。父母の生前は玄関にも普段は立ち入らない開かずの間にも豆電球が常夜灯のように、それこそ日中をも問わずに灯したままだった。
いま一人きりの自分は、頑なに父の真似を敬遠してる。まだそんなことはしたくない。まだ必要はない。そうなったらあとは坂を転げ落ちるように、崖の底に踞ってしまう。しかも一人きりで。土壇場…切羽詰まって身動きが取れない。進みようがない。
せめて玄関の軒灯りだけでも灯す? 誰も来ないのに勿体ない? 何を惜しんでる? 先がないのに惜しむことなどあるだろうか?
ということで、センサーライトを家の内外数ヵ所に設置した。これで少しは安心かしら?
(読書メーターにてアップ済 10/16 03:20)
| 固定リンク
「心と体」カテゴリの記事
- 昼行燈125「夢の中で小旅行」(2024.11.26)
- 昼行燈124「物質のすべては光」(2024.11.18)
- 雨の中をひた走る(2024.10.31)
- 昼行燈123「家の中まで真っ暗」(2024.10.16)
- 昼行燈122「夢…それとも蝋燭の焔」(2024.10.07)
「駄文・駄洒落・雑記」カテゴリの記事
- 昼行燈125「夢の中で小旅行」(2024.11.26)
- 雨の中をひた走る(2024.10.31)
- 昼行燈123「家の中まで真っ暗」(2024.10.16)
- 昼行燈122「夢…それとも蝋燭の焔」(2024.10.07)
- ローンライダー(2024.10.02)
「ドキュメント」カテゴリの記事
- 昼行燈123「家の中まで真っ暗」(2024.10.16)
- 昼行燈114「二つの影」(2024.08.20)
- 昼行燈57「ドキュメント 脱糞だ!」(2024.01.05)
- 野良猫の怪…源五郎の夏(2022.07.31)
- あの日から始まっていた (39 独りきりの祝祭)(2022.03.11)
「夢談義・夢の話など」カテゴリの記事
- 昼行燈125「夢の中で小旅行」(2024.11.26)
- 雨の中をひた走る(2024.10.31)
- 昼行燈123「家の中まで真っ暗」(2024.10.16)
- 昼行燈122「夢…それとも蝋燭の焔」(2024.10.07)
- ローンライダー(2024.10.02)
「創作(断片)」カテゴリの記事
- 昼行燈123「家の中まで真っ暗」(2024.10.16)
- 昼行燈122「夢…それとも蝋燭の焔」(2024.10.07)
- 昼行燈121「お萩の乱」(2024.09.20)
- 昼行燈120「小望月(こもちづき)」(2024.09.17)
- 昼行燈118「夢魔との戯れ」(2024.09.05)
「昼行燈」カテゴリの記事
- 昼行燈125「夢の中で小旅行」(2024.11.26)
- 昼行燈124「物質のすべては光」(2024.11.18)
- 昼行燈123「家の中まで真っ暗」(2024.10.16)
- 昼行燈122「夢…それとも蝋燭の焔」(2024.10.07)
- 昼行燈121「お萩の乱」(2024.09.20)
コメント