昼行燈121「お萩の乱」
そのうち、そうだ、今年はせっかくこれだけ萩が見事なんだし、薬湯を作るかとか、あの納屋の屋根を葺き替えしようじゃないかなんて盛り上がってきた。
そのうち、萩が薬草って、萩の木の何処が薬になるかで揉め出した。中には萩は木かどうかで論議してるおじさんたちも。そもそも萩が秋の七草っていうくらいだから、草に違いないということになった。どっちでもいい、鑑賞すればいいじゃないかという横着な奴もいる。萩で薬湯となると、根っ子が一番。だけど、根っ子を引っこ抜くのは大変だぞとか、あれ、いっぺんに引っこ抜いたら、根絶やしになるぞ、だったら嫌だわ、いやいや茎とかでも出来るんだぞ! なら、ま、いっか。
萩は昔は…と言い出した奴がいた。昔って、いつのことさ? とどこぞのガキ。わしがお前のようなガキだった頃のことさ。家畜の冬季の飼料として、萩の葉を利用したんだ。秋に山から枝ごと刈ってきて…、山ってどこさ。俺等の町に山なんてあったっけ。あったさ、小学校の裏山、あれは削られて今じゃただの小高いスキー山になっとるが、嘗てはこんもりしたそれなりの山だったんだぞ。今じゃ見る影もないがな。で、親戚一同みんなして山から枝ごと刈ってきたもんだ。乾燥させて葉だけを取り、干し草などに混ぜ込んで…小父さんが食べたの? 馬鹿を云うな、家畜の飼料にしたんだ。
後ろのほうでオハギだとかボタモチだとか騒いでるガキがいる。ありゃ、近所のガキじゃないか。どっちが好きかで喧嘩している? すると、なんでボタモチと呼ぶのか知ってるのかとどこぞの小母さんに聞かれて二人ともダンマリ。
ボタモチは、小豆餡を春に咲く牡丹に見立てたことに由来するからよ。じゃ、オハギは? とガキ。萩の花か茎から作るの? じゃ、やっぱり人間の飼料? 違うのよ。それはね、小豆餡の様子を秋の彼岸の時期に咲く小ぶりで細長い萩の花に見立てたことからなのよ。ガキは???? ボタンとボタモチがどうしてもつながらない。オハギと萩の花が似てるとは到底思えないでいる。
そこへ近所の世話役の小父さんが飛び入り参加。子供にそんな講釈は無理だよ。そもそも、本来、江戸時代などは、ぼた餅とおはぎは同じものだったんじゃ。母多餅 一名 萩の花(ぼたもち いちめい はぎのはな)というくらいだからの。それがのちの世になって、春のお彼岸には春に咲く牡丹(ボタン)の花に見立てて『ぼた餅』と呼び、秋のお彼岸には秋に咲く萩(ハギ)の花に見立てて『おはぎ』と呼んだんじゃ。
見ればオハギの山も随分と小高くなってきていた。ガキ連が先を争って奪い合ってる。大人連中は、萩の木でどう屋根の葺き替えをするか、議論は尽きないでいる。随分と平和な萩の乱に終わりは見えない。
「季節で変わるおはぎの呼び方 | 【公式】京都 瓢斗(ひょうと)| 京都・渋谷で会食・接待・お祝いなら「しゃぶしゃぶ・日本料理」【京都 瓢斗】」「春のお彼岸・秋のお彼岸 「ぼた餅」と「おはぎ」の違いとは? - ウェザーニュース」「ハギ - Wikipedia」冒頭の萩(の花)は、自宅の庭先のもの。中途の画像は、「おはぎの特徴・歴史・味 - 和菓子の季節.com」より)
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