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2024/08/13

昼行燈113「里帰り」

Photo_20240813033901  「里帰り


 星空だった。大好きなお月さんも今日はお休みみたい。
 お袋の田舎に里帰り。乗り物が苦手なお袋は、乗り物を乗り継ぐ旅は前夜から緊張してる。顔が引き攣ってる。大丈夫だよ。間違ったっていつかは何処かへ着くんだかねって、云ってあげたいけど、かく云うボクも不安でたまらなかったから、情けない。

 それでも、田舎に着いた。小さな村。遠い昔は六戸の家しかなかったという。その中でもお里は旧家だとかで、やたらとデッカイ家。屋根瓦なんて立派なもので、ちょっとしたお城の風格が漂ってる。
 そう、お袋は田舎じゃお姫様育ちだったんだ。

 だけど……ボクのような出来損ないが出来て面目丸潰れで里帰りもままならなかったとか。お袋はお祖母ちゃんにどれほど厳しく叱責されたことやら。お爺ちゃんはボクが生まれて間もなく亡くなってしまったっけ。
 ボクは囲炉裏を囲む賑やかさが苦手で、居たたまれない風なお袋を観てるのが辛くて一人家を抜け出した。
 何処に居ても居場所のない自分。

 でも、一歩家を出たら自由だ。世界がボクのものになる。田圃と畑と小川と屋敷林と墓地と池と神社やらお寺やらの村。畔の道に土手の道。砂利道に。やがて誰かの屋敷の敷地を抜けて、星々の空を追って行った。

 ボクを迎えてくれる場所が何処かにある。ボクが居たって構わないって抱きしめてくれる何処か。
 すると夜陰に小山が見えてきた。田舎の兄ちゃんがあれは墓所、遠い昔の偉い方の塚だって教えてくれた。
 中に今も遺体が埋まってるって云ってたっけ。

 行く宛のないボクは小山の上に登っていった。勇気を出して!
 あの山には登っちゃいけないって兄ちゃんが云ってたけど、今日はボク一人。誰も観ていない。お山の大将になってやる!

 天辺には何もなかった。ただ夏の夜風が心地いい。それに、星たちに近付いた気がする。街灯もない田舎の村だから星明かりが眩しいくらいだった。星屑なんて言葉を兄ちゃんに教わったことがある。星と屑がくっ付いている。数知れない流れ星が星々にぶつかって痛いって言って、星たちが粉々になって、それで星がどんどん増えるってことも兄ちゃんが教えてくれた。

 その兄ちゃんはもう居ない。もしかしたら、この塚の中に埋まっているのかもしれない。
 ボクの来るのを待っているのかもしれない。居場所のないボクを暖かく迎えてくれるのは、星になった兄ちゃんしかいないのだ。

 ボクは塚の上で寝転がってみた。深い草がボクを包んでくれるに違いない…。
 そんなわけなどありえなかった。訳の分からない虫たちがボクを擽り追い立てる。ちぇ! ここもボクの居場所なんかじゃないのか。しぶしぶ起き上がった。

 塚の天辺に立って星空を見上げた。星だ。星たちの煌めくあの世界だ。ボクの居場所はあの世界なんだ。

[画像は、「星空 - Wikipedia」より]

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