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2024/07/19

昼行燈101「単細胞の海」

Kikuji   「単細胞の海へ

 夢の中に居るに違いない!
 願望なのか悲鳴なのか分からない、声にならない声が喉元に蟠っていた。溜まって腫れあがった浮腫が破裂しそう。膿なのか叫びか喚きの渦が噴出する裂け目を見出せずにいる。

 大地は人の救いなのか癒しなのか。それとも生き物たちの塗り込められた怨念の堆積なのではないか。炸裂し引き千切られた肉片と骨の欠片が腐りきることも出来ずに地の中でウロウロ彷徨っている。

 蚯蚓やら螻蛄やら飛蝗やら蜘蛛やら蜻蛉やら。蝶やら蝉やら蟻やら黄金虫やらカナヘビやら。猫に犬に土竜に鼠に鳥に蝙蝠に狐に狸に熊に鹿まで。魚に苔にアメーバにプランクトンに藻に水母に細菌までも。ついでなら侘びに寂までもってんだ。

 炸裂したとばっちりは地の上だけじゃない地の中までも。お前らだけが被害者面するんじゃない。いわばお前らは自業自得じゃないか。切羽詰まった土壇場に至ってさえも沈黙を頑なに守って、それでいて今頃になって怨嗟の声か。遅すぎる。それよりなんで俺たちが無言の行で細胞膜を引き裂かれて潮に融け去り行かなきゃならないんだ。

 数十億年の孤独と沈黙の海に還るべき時が来たんだ。平和の海、潮の揺蕩う命の宇宙よ。20億光年の孤独がどうしたってんだ。そうだ単細胞の蠢く海に戻るべき時は今だ!

 

[画像は、「告発するシュルレアリスム―山下菊二《戦争人間》 | SHINWA AUCTION ブログ」より]

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