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2024/07/30

昼行燈107「強迫観念」

Chousinka  「強迫観念

 夢の中にいるに違いない。得体の知れない生き物たちが犇めき蠢いている。命たちがもんどりうっている。命の怒涛が俺に圧し掛かってくる。
 草むしりに日々齷齪してる俺への復讐なのか。日々、際限のない数の生き物たちを踏みつけ掻き削り引き千切っている。俺はただ普通に生きているだけなのに。ただ目障りな雑草を毟り取り、観ただけで、いやその存在の気配を感じ取るだけでぞわぞわさせる微細な虫けらどもを殺虫剤で抹殺を図っているだけなのに。

 ただ眼前が、足元が、身の回りが平穏であればそれでいいのだ。一歩外の空間がどれほど汚穢(おわい)で卑猥で猥雑でどうしようもなく濃密な命の横溢となっていようと、俺の構ったことじゃない。

 けれど目糞が耳垢が鼻糞がフケが水虫が奴らの餌場になっていることくらいは知らないじゃない。体細胞てだけじゃ生きられない。腸内細菌は100兆個もある。しかも奴らが生きる上で不可欠だというではないか。悪玉菌やら善玉菌やら、それどころか日和見菌までが犇めき合ってる。

 そんなことを知った日から、自分がいかに無力で無知で無数の生き物に対し恩知らずで身勝手なのかを知った日から、俺は自分がどんな宇宙に逼塞しているか分からなくなった。理解など不能だ。意識って何だ? 際限もない数のバクテリアの海に束の間漂う、波間の泡か波飛沫じゃないか。

 俺はもう観念した。何に対し観念したのかすら分からないままに。生きているだけで面壁してる。面壁九年なんて目じゃない。虫や植物を食べ合い修行なんて他愛もない話だ。大地は勿論だけど、息する空気にだって際限のない数の生き物が浮遊している。

 聞いた話だと、空気中の微生物を調査したら、地球の50%もの光合成をしたり五大栄養素のミネラルを供給したりしていたと驚きの結果が出てるってことだ!

 俺はだからもう訳が分からなくなってしまった。俺って何だ? もう俺は何様だなんて考えないことにした。俺はただ生きているだけだ。…というか生きているんだよね。生かされていると思えってか。

 ああ、正体不明の強迫観念が夢の中にまで浸潤してしまっている。

 

[「空気中の微生物を調査したら、地球の50%もの光合成をしたり五大栄養素のミネラルを供給したりしていたと驚きの結果が続々!(NHKスペシャル取材班+緑慎也) | +αオンライン | 講談社(1/3)」 トップ画像は、NHKスペシャル取材班/緑 慎也著『超・進化論 生命40億年 地球のルールに迫る』(講談社BOOK倶楽部)より。(07/30 03:39)] 

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