昼行燈99「迷子」
「迷子」
あれは冒険だったのか、ただ道を誤って、迷っただけだったのか。
小学2年だったろうか。夏の終わりのとある昼下り、学校から帰り、カバンかバッグを置いて、散歩にでた。遊び仲間は、居なかった。一人きりで出歩くのは初めてじゃなかったけど、ちょっとだけ、違う角で曲がってみた。
見たことのあるような、ないような町並み。藪。田圃。空き地。どれほど歩いたわけじゃないけど、これ以上、行っちゃいけない。臆病な心が制していた。
あそこで曲がろう! 曲がって、あともう1回曲がればウチに向かう……はずだった。だけど、どこまで歩いても、馴染みの建物や兄ちゃんが枝に見張り塔を作ったでっかい木や、置き去りの土管のある空き地に出合えない。
夏の長い午後も少しずつ暮れてくる。電信柱の街灯がちらつき始める。我が家の近所の玉切れの街灯を探そうか。妙にえげつない橙色に光る看板は何処だ?
誰か、一人ぐらい知り合いに出会わないものか。
暗い! その瞬間だった、聴き馴染みの音が鳴るのが聞こえてきた。踏切のカンカン鳴る音だ! 僕の好きな電車がやってくる。
踏切目掛けて走り出した。ボクのウチは、踏切を越えて、真っ直ぐ行けばいい。踏切を夕陽の沈む方へと歩けば、ボクのウチなんだ!
……ほんとにそうだった。
家に帰りついた。玄関の暖かそうな灯り。ただいまって言ったかどうか覚えていない。
台所のお袋も、お帰りって答えたっけか。
記憶だと、お袋は素っ気なく振り返っただけ。ボクが夕方になっても居ないってこと、気にならなかったの?
そう、訊きたかったけど、口にはできなかった。
ボクの初めての大冒険だったんだよ! そう、威張りたかったのに。
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