昼行燈95「海月」
海中をゆらゆら漂う海月を見るともなしに見ていると、幻想的な気分に陥っていく。濃厚な非現実感の純粋結晶が舞っている。
海水へ姿の見えない何物かが飛び込んだ。
空中にあっては全くの透明体。風さえ柳のしなるように避けていく。
そいつが或る日、海に飛び込んだ。
自殺? それとも、ただの気紛れ?
海中にあっても、そいつの姿は見えない。
ただ、形は分かる。海に沈んだときの水流、次々に変幻する泡の行方。
やがて、ついにそいつが姿を現す日が来た。
海月というのは綺麗すぎる表現。
月の光が海に照り、月の形の影が海に漂い、あまりに海が月に見惚れすぎたものだから、ついには、海に月の精が舞い降り、海月という命の塊へと結晶したのかも。
全く逆に、満月の夜、月が何気なく下界の海を見遣ると、そこには眩いばかりに美しい影が。見入っているうちに、或る日、それが我が姿なのだと悟る。そして、凪の時の水鏡のような海に映る我が月影に見惚れ、いつしか海月へと結晶してしまったのかも。
月は案外、ナルシストなのかもしれない。
でも、良く見ると、やはりそいつは姿を日の下に晒したくなかったのだろう。
人の目に見えたそいつは、そいつと思ったそれは、実はそいつが海中で泳ぎ漂ううちに身に纏った透明な衣だったのだ。
そいつが波に、海に、泡に刻み込んだそいつの記憶だったのである。
命は目に見えない遠い記憶。月の精の結晶、それが海月。
(07/05 02:48)
[拙稿「水母・海月・クラゲ・くらげ…」参照。画像は、「クラゲ - Wikipedia」より]
| 固定リンク
「心と体」カテゴリの記事
- 昼行燈125「夢の中で小旅行」(2024.11.26)
- 昼行燈124「物質のすべては光」(2024.11.18)
- 雨の中をひた走る(2024.10.31)
- 昼行燈123「家の中まで真っ暗」(2024.10.16)
- 昼行燈122「夢…それとも蝋燭の焔」(2024.10.07)
「小説(幻想モノ)」カテゴリの記事
- 昼行燈118「夢魔との戯れ」(2024.09.05)
- 昼行燈101「単細胞の海」(2024.07.19)
- 昼行燈96「夜は白みゆくのみ」(2024.07.09)
- 昼行燈95「海月」(2024.07.05)
- 昼行燈93「ハートの風船」(2024.07.01)
「妄想的エッセイ」カテゴリの記事
- 昼行燈117「夏の終わりの雨」(2024.09.04)
- 昼行燈108「無音の木霊」(2024.08.02)
- 昼行燈105「月に吠える」(2024.07.24)
- 昼行燈104「赤茶けた障子紙」(2024.07.24)
- 昼行燈101「単細胞の海」(2024.07.19)
「旧稿を温めます」カテゴリの記事
- 昼行燈124「物質のすべては光」(2024.11.18)
- 昼行燈117「夏の終わりの雨」(2024.09.04)
- 昼行燈116「遠足」(2024.08.27)
- 昼行燈114「二つの影」(2024.08.20)
- 昼行燈112「サナギ」(2024.08.12)
「創作(断片)」カテゴリの記事
- 昼行燈123「家の中まで真っ暗」(2024.10.16)
- 昼行燈122「夢…それとも蝋燭の焔」(2024.10.07)
- 昼行燈121「お萩の乱」(2024.09.20)
- 昼行燈120「小望月(こもちづき)」(2024.09.17)
- 昼行燈118「夢魔との戯れ」(2024.09.05)
「ナンセンス」カテゴリの記事
- 宇宙を彷徨い続ける(2025.01.14)
- 昼行燈125「夢の中で小旅行」(2024.11.26)
- 昼行燈122「夢…それとも蝋燭の焔」(2024.10.07)
- 断末魔(2024.10.01)
- 昼行燈121「お萩の乱」(2024.09.20)
「ジェネシス」カテゴリの記事
- 昼行燈124「物質のすべては光」(2024.11.18)
- 昼行燈118「夢魔との戯れ」(2024.09.05)
- 昼行燈115「ピエロなんだもの」(2024.08.26)
- 昼行燈112「サナギ」(2024.08.12)
- 昼行燈111「長崎幻想」(2024.08.09)
「あの日から始まっていた」カテゴリの記事
- 昼行燈125「夢の中で小旅行」(2024.11.26)
- 昼行燈124「物質のすべては光」(2024.11.18)
- 昼行燈118「夢魔との戯れ」(2024.09.05)
- 昼行燈117「夏の終わりの雨」(2024.09.04)
- 昼行燈115「ピエロなんだもの」(2024.08.26)
コメント