昼行灯77「影の女へ」
わたしなど、生まれた時から形がなかった。形を成すすべもなく、無力のままに世界の中に放置された、そう魂の躯。そんなわたしを追いかけてどうするというのだ。
わたしは、世界を見失っている。多くの力を借りて、やっとこさここまで来たけれど、もう、疲労困憊なのだ。
わたしは、アゴラの真っただ中で、泣き叫ぶことも許されず、ただただ委縮している。歪に癒合したままに、息も絶え絶えでいる。
目は開けていても、その目は何も見ていない。怖いのだ。そして臆病なのだ。
そんな奴を追ってはいけない。悔いが残るだけだ。肉の身を奪われ、心の肉すら腐っていく。
あなたは、影になっている。被爆の影のように、やがて輪郭すら消えていくに違いないのだ。美しかったあなたは、今では見る影すらないじゃないか。
わたしは、失われた影を求めて生きていくだろう。陽炎のように、幻のように揺らめく影を求めて彷徨い続ける。
そんなわたしに、あたなは決して追いつけないし、痕をすらたどることはできない。
徒労に終わるだけの執念は捨て去るのが賢明だ。あいつは、人間のクズ、カスなのだ。
えっ? まさか、今頃、気づいたって?
遅くはないよ。光を目指して生きていくんだよ。あいつは、何処まで行っても光の影なのだ。
[掲げた絵は、お絵かきチャンピオン さんの作品です。 ホームページ:「小林たかゆき お絵かきチャンピオン」]
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