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2024/02/16

昼行燈70「ハンカチが七枚」

Mezara   「ハンカチが七枚

 どこぞの宿に紛れ込んでいた。それともアパートか。俺の新居なのか。やけに閑散としてる。部屋がいくつもあるのに、荷物が何もないからか。荷物どころか家具がまるでない。
 そりゃそうだ。引っ越してきたばかりなんだもの。
 何故かトイレにいる。尿意だ。切迫してる。戸を何枚も開けて、ようやくそれらしい部屋に。壁も床も真っ白で清潔感が漲ってる。広い。六畳は優にある。落ち着かないぞ。

 

 が、肝心の便器がない。床には目皿らしきものがある…が、やたらと大きい。大きすぎる。そこに飛ばせばいいのか。ホントにここがトイレなのか。大の時はどうするんだ?

 だけど今はあれこれ穿鑿してる場合じゃない。もう我慢ならない。放尿し始めた瞬間、戸が開きっ放しだと気付いた。が、今更どうしようがある ! ?
 やれやれ何とか間に合った。だけど水だ。終わったら水を流さないと。水はどこにある。手洗いもできない。

 気が付いたら隣の部屋にいた。これまた十畳ほどの解放感たっぷりの空間。窓は見当たらないのに、真っ白な外光が眩しいほどだ。俺はハンカチを探している。何のためだか分からない。トイレのあとだから手を拭きたい? 

 とにかくハンカチを探さないとならないのだ。部屋の片隅に旅行バッグがあった。あの中に俺の服が詰まってるはずだ。壁際には同居人がいた。俺の慌てふためくのを高みの見物してやがる。俺は焦ってる。何が何でもハンカチだ。ズボンのポケットにジャンバーのポケット、ビニールの袋に三枚ねじ込まれている。あちこと搔き集めたら七枚にもなった。これだけあれば十分のはずだ。

 何に十分なのかは分からない。分からずともあったことに満足しないと。俺はようやく安堵の胸をなでおろした。 (02/16 02:30)

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