昼行燈69「俺は終わっちゃいないんだ!」
店にやらたと勧められて買った靴。そう路面のようなブランドの靴、スニーカー。思い出した! アスファルトとかって云っていたような。なんだってこんな流行の先端を行くような靴を選んだんだ。…云われたままに買うのが愚かだったのか。
流行などからはまるで埒外に居るはずの俺なのに。靴底のギュッとしたグリップ感は、俺にはファッショな感覚に急き立てられているような違和感ばかりだ。
俺は土を感じたいのだろうか。都会に居て何を夢見てる。アスファルトとコンクリートとガラスとステンレスとプラスチックと。頭にはウィッグ、口にはマウスピース…近頃、入れ歯はマウスピースどころか歯のウィッグと呼ぶそうな。ネイルだって忘れない。付け睫毛じゃなく眉毛 ウィッグなんだって。お洒落なコンタクトレンズも忘れない。そしてカーボンネガティブ素材のパンツにジャケットに下着。
あのショーウインドーに映るのは俺なのか、宇宙人なのか。透明なパイプを通り抜ける感覚は何処へ忘れた。周りのすべてが見えるし、中の俺の全てが晒し者になっている。ここまで赤裸(せきら)な俺なのに誰とも交わらない。交差しない。捻じれの関係が際限なく続く。捻じれ捩れ縺れ合って…。ちょっと待てよ、捻(ね)じれと捩(よじ)れは違うのか? 頭の中が縺れてしまってる。
ああ、あんなところにいかにも都会的ですって顔した観葉植物が。嫌だ、そんなもの観たくない。観葉植物だけが同居人の俺という侘しさが露骨じゃないか! 俺は生け花も鉢植えも観葉植物も嫌いなんだ。好きなのはコンクリートの隙間を縫って顔を覗かせる雑草だ。奴らは脚下の大地を知っているはずなんだ。
そうだ、何故奴らのことを忘れてたんだろう。苔だって頑張ってる。俺は一人なんかじゃない。俺の仲間は無数にいる。そう気づいた瞬間から俺は妙に嬉しくなった。可能性は何処にでも潜んでいる。俺は終わっちゃいないんだ!
[画像は、我が家の南側の壁面。蔦の絡まる我が家…]
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