昼行燈65「結ぼれ」
そもそも「結ぼれ」って何だ? 「結ぼれる」の「連用形、あるいは連用形が名詞化したもの」だなんて云われてもピンとこない。
「結ぼれる」とは、「結ばれて解けにくくなる」とか「心にわだかまる」「関係をつくる」なんて説明されたら猶のこと訳が分からなくなる。「musubore」が流行ってるって云われてもねー。
R.D.レインの『結ぼれ』は一度読んだきりで投げ出してしまった…はずだ。
内容なんて思い出せない。数十年も昔だしね。こっそり内容案内を覗いてみたら、「さまざまな人間の出会いがつくる心の状況の多様なシェーマについての魅力あふれる小さな詩集。ふしぎさに充ち、一つのシナリオ、一つの短編小説、あるいは定理集でもあり、人々を誘う」だって。
これじゃますます分からない。詩集だから最初からそもそも説明不能か。
この『結ぼれ』が切っ掛けなのか…多分そうじゃないだろうけど…よせばいいのに、他の内容案内も覗いてしまった。すると、「結ぼれ、絡みあい、こんがらがり、袋小路、支離滅裂、堂々めぐり、きずな――異才の精神科医が詩の言葉として書きつけた、人間を束縛する関係性の模様。「詩人」レインの原点たる寓話性に満ちた伝説の書」だって。
ああ、ますますドツボだ。
こうなりゃ、数学の出番だ。明解に解き明かしてくれるに違いない。が、いきなり「結び目理論(むすびめりろん、knot theory)とは、紐の結び目を数学的に表現し研究する学問で、低次元位相幾何学の1種である。組合せ的位相幾何学や代数的位相幾何学とも関連が深い。素数と結び目にもエタールホモロジーを導入して密接に関係する」とあって、即撤退だ。
数学は俺には我が心以上にこんがらがって見える。あんな本に十代のガキが手を出すんじゃなかった。というか、手が出てしまったんだ。
あの頃俺はフランスの画家ジャン・デュビュッフェらのアール・ブリュットに入れ込んでた。ゴッホやゴーギャンに踏みとどまっておればいいものを、なんだってアウトサイダーというかプリミティブアートというか、枠から食み出す世界に魅了されてたんだ。
俺は自分が中空に漂っていて、端っこの見えない一本橋の上をよろよろ彷徨っていると感じていた。こんなあやふやならいっそのこと堕ちてしまいたいという誘惑に駆られてならなかった。が、そもそもどっちへ落ちればいいのかが分からなかった。
眠れない夜を明かし、これ以上横になっても居られなくて起き上がろうとしたら、いきなり世界がグルグル高速回転し始めちゃって、訳が分からなくて吐き気に見舞われた。慌てて起き上がっちゃいけない、ゆっくり起きればどうってことはないって経験で分かってるのに、つい下手をする。世界が酩酊してる。
いや眩暈してるのは俺のほうか。どっちがどっちかが分からない。それこそ縺(もつ)れ合って絡み合って解(ほぐ)しようがなくなっていた。
出口がなかった。世界の負の特異点になっていた。結ぼれじゃなく解(ほつ)れの時を待ち焦がれていた。縮小再生産の極に居た。ブラックホールの穴に落ち込んでしまえばいい…そんな時がいつしか訪れたのかせっかくのチャンスを見逃したのか。分からない。それでも今日まで生き延びてきた。もう、固結びで構わない。蓑の中で眠りこけていればいいんだ。
[冒頭の画像は、「統合失調症であったアドルフ・ヴェルフリ(英語版)の1905年の作品。」(01/29 03:57作)]
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