« 昼行燈(番外3「葬送のこと」) | トップページ | 昼行燈48「真冬の明け初めの小さな旅」 »

2023/12/12

昼行燈47「ふわふわ ふわふわ」

Nisseki 「ふわふわ ふわふわ

 

 中空に漂っている。地に足がついてない。
 ふわふわ ふわふわ。
 何処へ行く? 何処から来た? 何処にいる?

 群れにはぐれて人家も途絶えて久しい。
 森の中の道がいつしか踏み分けるのも難しい、ただの岩だらけの筋になってる。あの岐れ道の小道を畦道と思い込むなんてどうかしてる。あれは豪雨で土砂が奇妙に堆積し盛り上がり筋道擬きになっただけなんだろう。それを俺は…。

 血迷ってしまったんだ。峠道だなんてありえない。ちょっと裏道に分け入っただけのはずなのに。これはどう見ても杣道、獣道、それともただの土砂崩れの跡に過ぎないのか。

 すぐ近くに人けがあるような気がする。それとも獣の気配なのか。土砂に薙ぎ倒された藪木やら蔓やら草が堆積している。歩くとふわふわするのはそのせいなのか。擦り減った革靴。ただの散歩のはずだったのに。

 下っていく。きっと沢があるに違いない。それともただの崖が行く手を阻むのか。
 焦る。焦ってる。段々切羽詰まってきた。夕食の前に腹ごなしとばかり森を散策するなんて気取ってみたのが間違いの元だ。岐路で迷った際に覚えた違和感をもっと真剣に考えるべきだったんだ。

 あの宿からそんなに遠ざかってはいないはず。大声を出す? 一層草深くなってきた。熊などは出ないだろうけど、虫も野鳥も見かけないのは何故だ?

 土の道が恋しい。人の痕跡に焦がれる。
 まさか、マジで道に迷ってしまったのか。そもそも一人で山間の宿を訪ねたのは、ほんとにただの気紛れだったのだろうか。こうなることを期待していた? 
 

[画像は、拙稿「大岩山日石寺……千厳渓へ」より]

|

« 昼行燈(番外3「葬送のこと」) | トップページ | 昼行燈48「真冬の明け初めの小さな旅」 »

心と体」カテゴリの記事

小説(幻想モノ)」カテゴリの記事

創作(断片)」カテゴリの記事

ナンセンス」カテゴリの記事

あの日から始まっていた」カテゴリの記事

昼行燈」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 昼行燈(番外3「葬送のこと」) | トップページ | 昼行燈48「真冬の明け初めの小さな旅」 »