昼行燈47「ふわふわ ふわふわ」
群れにはぐれて人家も途絶えて久しい。
森の中の道がいつしか踏み分けるのも難しい、ただの岩だらけの筋になってる。あの岐れ道の小道を畦道と思い込むなんてどうかしてる。あれは豪雨で土砂が奇妙に堆積し盛り上がり筋道擬きになっただけなんだろう。それを俺は…。
血迷ってしまったんだ。峠道だなんてありえない。ちょっと裏道に分け入っただけのはずなのに。これはどう見ても杣道、獣道、それともただの土砂崩れの跡に過ぎないのか。
すぐ近くに人けがあるような気がする。それとも獣の気配なのか。土砂に薙ぎ倒された藪木やら蔓やら草が堆積している。歩くとふわふわするのはそのせいなのか。擦り減った革靴。ただの散歩のはずだったのに。
下っていく。きっと沢があるに違いない。それともただの崖が行く手を阻むのか。
焦る。焦ってる。段々切羽詰まってきた。夕食の前に腹ごなしとばかり森を散策するなんて気取ってみたのが間違いの元だ。岐路で迷った際に覚えた違和感をもっと真剣に考えるべきだったんだ。
あの宿からそんなに遠ざかってはいないはず。大声を出す? 一層草深くなってきた。熊などは出ないだろうけど、虫も野鳥も見かけないのは何故だ?
土の道が恋しい。人の痕跡に焦がれる。
まさか、マジで道に迷ってしまったのか。そもそも一人で山間の宿を訪ねたのは、ほんとにただの気紛れだったのだろうか。こうなることを期待していた?
[画像は、拙稿「大岩山日石寺……千厳渓へ」より]
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