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2023/11/20

昼行燈38「軽石」

Karuisi   「軽石

 行く当てなどなかった。あてどなくふらついていた。何かを探し求めていたと思いたかった。真っ昼間の空は空白の原稿用紙のようだった。今どき原稿用紙なんて言葉が出てくるなんて。
 何かを拾い集めたかった。やたらとそんな衝動が沸き立っていた。だからってなんで河原なんかに来たんだろう。河原で石ころでも拾う?
 遠い昔、石けりやら石で水切りなんて他愛のない遊びに興じていたことが思い出される。
 今はただ拾いたい。石の手応えを手の平に感じたかったのだろうか。

 誰かに河原の石ころだろうが、拾ってはいけないと云われたことがある。こんな草茫々の川辺にすら法律が網を懸けている。
 そういえば葬儀の際の雑談で、川や海の石を拾って持ち帰ってはいけないと聞いたことがあった。なんでも、岩石には色々な念が込めらやすいとか、海や川そして山などにある石には亡くなった方の霊が憑いているとか。墓石だったものが川に流れて石のような形になっているものもあるかもしれないし、神社なんかに鎮座していたかもしれない。それどころか、大昔までに遡れば古墳時代のような遺跡の石の成れの果てかもしれない……。

 骨上げ……骨上げの際に係りの奴が箸の使い方がぎごちなくて、拾い上げ損ねて骨壺の首からカラカラ転がり落ちてしまって焦っていたことがあったのを思い出した。厳粛なはずの場が妙な具合に空気が和らいでしまって、悲しみさえコロコロ転がっていったようだった。
 もうひと昔の場面に過ぎない。まさかあの時の骨の欠片がこんな場末の薄の原に覆われた一角にひょいと姿を現すはずもない。
 ふと足元の石ころが妙に気になった。軽石? 多孔質というのか、川の源流からじゃなく、海に由来する…ひょっとすると海底火山の噴出物。凝灰岩が発泡した成れの果てが遥々飛んできたんじゃないか。

 拾い上げてみた。その手を日に翳してみた。あの日、係員が摘まみ損ねた骨上げの骨の欠片に思えたからだ。軽さが妙に心に響いた。全ては…行きつくところはこんななんじゃないかと思えてならなかった。それでもよかった。姿は変わり果てても、それを掬いあげてやったんだから。やっと会えたね。奴はそう云った。

 

[冒頭の画像は、「軽石 - Wikipedia」より]

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