昼行燈28「謎の女」
俺は決して孤独じゃない。…というか孤独なんてとっくの昔に忘れちまったよ。
あの痺れるようなヒリヒリする感覚には懐かしさの念すら抱いてしまう。この世への恋する気持ち、この世への未練。しがみついていたかったんだ。抱き着きたかった。抱き合うなんて贅沢は論外だった。
吐きたいほどの孤独、孤立に苦しんでいた。何故に自分には叶わないのか、その不条理を恨んですらいた。
が、悲しみも枯渇の思いも絶望感ですら今では遠いものに成り果てた。肉体から膿のようにジクジク凍み出す生々しい心情は、やがて瘡蓋となってしまった。瘡蓋とは、傷などの表面に、にじみ出た 漿液 しょうえき ・ 膿 うみ ・血液などが乾いて固まってできる組織であり皮のことだという。
ってことは、瘡蓋を剝がしたらまた鮮血が、漿液が、膿が滲み出てくるのだろうか。俺にも熱い血が流れてるとでも?
俺には声をかける勇気がなかった、なんて云えるはずもない。臆病者だと自分で認められるものか。無縁墓地に引き籠って墓石の陰から女を覗き見てるなんて恥ずかしくって認められるはずもない。
そうだ、瘡蓋だなんて嘘っぱちだ。臆病者の言い訳に過ぎない。それが証拠に夢の中ではあの謎の女に跪き縋りついて助けてくれと泣きじゃくっているじゃないか。愛とかなんとかじゃなく、救いを求めている…夜毎に。
(冒頭の画像は、「木下晋 | ギャラリー枝香庵」より「無縁仏」)
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