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2023/11/10

昼行燈32「青い闇の道」

Sscn1222青い闇の道

 

 夢の中の道を歩いている…そんな気さえするほど妙にリアルな感覚がある。
 踏む足に大地の厚みを覚える。
 砂利と雑草と、コンクリートの破片とが奇妙に入り混じった、茫漠たる道が続いている。
 道の先は見えず、振り返ることも後戻りすることも叶わない。
 振り返ろうとした途端、方向感覚を失っている自分に気付かされる。
 先というのは、顔がたまたま向いているがゆえに、先と思い込んでいるだけ。

 守り神だったはずの白猫も、すっかり老いて、そっぽを向いたまま。
 もう、お前を守る役目は引退の時期だと呟いている…。

 お前には、もう先がない。
 運は使い果たした。
 俺の運さえもな。
 夢ほどにリアルな空間が圧し掛かってくる。
 息が苦しくなる。
 肺胞が詰まっているのか。
 それとも、喉がねじれてしまったのか。

 懇願する思いが脳の血管に塊となっている。
 焦がれる思いは神経細胞を焼き尽くしてしまった。
 生き延びる余地は、夢の中にしか残っていなかったのに、その夢さえ、見ることは叶わない。
 血反吐のような花が道端に咲いている。
 天国へ、それとも地獄へと導く道しるべ。

Manju

 それはそれは美しい花だ。
 お前に終わりを告げる花、彼岸花、曼珠沙華、血の花。
 肺から口へ、口から天へと吐き出された命の花。

 家の裏へ続く道は、青い闇の道。
 あるようであり、ないようでもある、限りなく透明に近いブルーな道。
 幽明の境を彷徨っても、やがては行き止まりとなる道。

 亡霊たちが幾人も先導してくれている。
 だから、決して迷うことはない。
 お前の行き着くところは決まっているのだから。

 みんな、待っているよ。
 みんな…お前が地獄に突き落とした仲間たちだ。
 血の涙のような真っ赤な闇に流れる青い闇の川に流されて、みんなの元へ行くがいい。

 

             (拙稿「青い闇の道」より)

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