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2023/11/29

昼行燈(番外2「音という奇跡」)

Takemitu   「音という奇跡

 森の奥の人跡未踏の地にも雨が降る。誰も見たことのない雨。流されなかった涙のような雨滴。誰の肩にも触れることのない雨の雫。雨滴の一粒一粒に宇宙が見える。誰も見ていなくても、透明な雫には宇宙が映っている。数千年の時を超えて生き延びてきた木々の森。その木の肌に、いつか耳を押し当ててみたい。

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2023/11/28

昼行燈42「無間 」

Gaito無間

 夢の中にいるはずだった。なぜなら宇宙空間をゆらゆら漂っているのだから。ん? ゆらゆら? そんな呑気で居ていいのか?

 何処までも落ちていく…それとも際限もない上昇なのか。右も左も、上も下もない。グルグル回っている。メニエル病の日々の再現。あれ以上の猛烈な遠心力が脳味噌の神経細胞の一つ一つを引き裂いている。グリア細胞までが星屑にならんとしている。凍てつくという表現が可笑しいほどに懐かしい。

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2023/11/27

昼行燈41「 ダストシュート」

Husen  「ダストシュート


 奴は蛇の目をしていた。間違いなく、奴は爬虫類だ。冷血動物だ。いや、動物に熱い血が流れるというイメージがあるなら、興味ある対象に向かっていくのが動物というのなら、そもそも、外界に興味あるものがあるというのなら、奴は、動物ですらない。
 といって、奴が植物というわけでもない。

 奴は、大地とは何のつながりもない。根無し草ですらないのだ。

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2023/11/23

昼行燈40「縫合」

Rengoku   「縫合

 眠れない夜を潜り抜けた。眠気はある。睡魔は襲ってくる。矢継ぎ早に繰り出す焔の切っ先。
 炙り出されて部屋を飛び出した。胸がむかむかする。乾麺が胃の腑で縺れてる。
 逢わなきゃならない。切迫する思いが滾る胆汁で味付けされていた。

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2023/11/22

昼行燈39「 廃墟」

City_20231123034601  「廃墟

 

 寝苦しい夜だった。長い長い夜の果ての、遠い幽冥の境にいた。まるで、中東の戦闘の地を潜り抜けてきたような気分だった。
 しかも、オレは、加害者だ。空襲する側に立っている。絶対、安全な場所にいて、ボタン一つを軽く押すだけ。
 すると、目の前の液晶モニターに、綺麗な軌跡が緩やかな曲線を描いていき、ターゲットに当たると、一瞬、青白い閃光が煌くと、すぐに真っ暗闇の画面に戻る。
 それだけのことだ。ここにいるオレは、鼓動が早まることもない。

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2023/11/20

昼行燈38「軽石」

Karuisi   「軽石

 行く当てなどなかった。あてどなくふらついていた。何かを探し求めていたと思いたかった。真っ昼間の空は空白の原稿用紙のようだった。今どき原稿用紙なんて言葉が出てくるなんて。
 何かを拾い集めたかった。やたらとそんな衝動が沸き立っていた。だからってなんで河原なんかに来たんだろう。河原で石ころでも拾う?
 遠い昔、石けりやら石で水切りなんて他愛のない遊びに興じていたことが思い出される。
 今はただ拾いたい。石の手応えを手の平に感じたかったのだろうか。

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2023/11/19

昼行燈37「ドリッピング」

Number-32ドリッピング

 

 どんな表現の営為も、その表現の衝動の基盤には、自らでさえ探りえない暗くて深い、分析も、まして全体的俯瞰など論外であるような、広大なる沃野とも荒野とも判断の付きかねる世界があることを誰しも、気づかざるを得なかった。
 遠い昔、私とは一個の他人だと、誰かが喝破したのだった。
 が、20世紀になって、一個の他人であろうと何だろうと、あらゆる輪郭付けの試みの一切を呆気なく放棄せざるをえないほどに、<私>は見えなくなっている。誰かが言ったように、私とは、せいぜいのところ雲なのだ。

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2023/11/16

昼行燈36「糸が切れた」

Zaisu  「糸が切れた

 

 何だか妙に浮かれた気分だった。目覚めたときからふわふわしていた。きっと愉快な夢でも見てたんだろう。惜しいことに何も覚えていない。とにかく前向きというかふっきれたというのか、ケセラセラというのか觔斗雲(きんとうん)にでも乗っかってるようだ。


 そういえば、一時期、繰り返し見る夢があった。それはボックス型の椅子にどっかり腰掛けたまま、何処までも町中を駆け抜けていく夢だった。高座椅子とでも呼ぶのか、肘掛のあるがっちりした、まるで箱にすっぽり埋まってしまうような椅子だった。

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昼行燈35「バスキア!」

201ディープスペース(2):バスキア!

 

 オレは、街中をやたらと歩き回った。何かを求めて? それとも、何かから逃げるために?
 そのどちらでもあり、どちらでもない。
 オレは、壁の落書きを見て歩いた。他に見るものなど、何もなかったからだ。空の青? 公園の緑? 今更、都会で風景など眺めたって、何の新味があるものか。所詮は、作り物の自然、刈り込まれた、自然とは名ばかりの、冷たく乙に澄ました他人行儀な植木じゃないか。
 小奇麗で洒落たショーウインドー? 聳え建つ高層ビル群? 高速道路とモノレールと地下鉄と運河の立体交差する湾岸の眺望? 瀟洒な豪邸の居並ぶ高級住宅街? 昔ながらの佇まいを残す古びた住宅街? 

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2023/11/14

昼行燈34「オワンクラゲ」

Aequorea 「オワンクラゲ

 

 闇の宇宙を漂うものがある。フワフワプカプカ浮き漂っている。
 浮いている。漂っている。上も下も横も何も座標となる軸がない以上は、落ちていようと昇っていようと同じ事。
 もしかしたら、ただひたすらに迷い続けているだけなのかもしれない。
 絶対零度に常に最接近している光なき空間。前も後ろも分からない以上は、時間があるともないとも言いようがない。

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2023/11/13

昼行燈33「沈黙の宇宙に鳴る音楽」

Blacksmoker_20231114063001沈黙の宇宙に鳴る音楽

 

(略)途切れ途切れの音の連なり。でも、一旦、曲を聴き始めたなら、たとえ中途からであっても、一気に音の宇宙の深みに誘い込んでくれる。
 たとえば、何処かの人里離れた地を彷徨っていて、歩き疲れ、へとへとになって、喉が渇いたとき、不意に森の奥から清流の清々しい音が聞こえてくる。決して砂漠ではないはずの地に自分がいるのは分かっている。木々の緑や土の色に命の元である水の面影を嗅ぎ取らないわけにいかないのだから。
 でも、やはり、水そのものの流れを見たい。体に浴びたい。奔流を体の中に感じたい時がある。

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2023/11/10

昼行燈32「青い闇の道」

Sscn1222青い闇の道

 

 夢の中の道を歩いている…そんな気さえするほど妙にリアルな感覚がある。
 踏む足に大地の厚みを覚える。
 砂利と雑草と、コンクリートの破片とが奇妙に入り混じった、茫漠たる道が続いている。
 道の先は見えず、振り返ることも後戻りすることも叶わない。
 振り返ろうとした途端、方向感覚を失っている自分に気付かされる。
 先というのは、顔がたまたま向いているがゆえに、先と思い込んでいるだけ。

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2023/11/09

昼行燈31「誕生日に寄せて」

Rosoku誕生日に寄せて

 

 私は今、何を書く当てもなく、こうして画面に向かっている。
 が、画面に向かっていると言いつつ、私の気持ちとしては今日、生まれた人のことを思って心を整えようとしている。
 その人の気持ちになって、生きることを考えてみたいと思っている。

 人が生まれるというのは、どういうことなのだろう。それこそ、動物などが生まれるというのとは、明らかに違うような気がする。別に人間様が動物より上だとか、優れているということではなく、暦の中に自分の生まれた日を見出す時、誰しも一入の感慨を抱くということ、ただ、そのことを思うのである。

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2023/11/06

昼行燈30「瑠璃色の光」

Ruri 昼行燈30「瑠璃色の光」

 窓は締め切っている。なのに、風が唸るように鳴っている。
 窓外の葉っぱの散り果てんとしている木々が悲鳴をあげてるのか。木立の間を駆け抜ける風が快哉をあげてるのか。
 木々や荒れ地の草を行方を阻む邪魔者とばかりに薙ぎ倒さんとしているのか。舞い上がる枯れ葉は衣擦れの音符となって踊り狂っている。

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2023/11/05

昼行燈29「沈黙の宇宙に鳴る音」

Tumagoii 沈黙の宇宙に鳴る音

 

 途切れ途切れの音の連なり。でも、一旦、曲を聴き始めたなら、たとえ中途からであっても、一気に音の宇宙の深みに誘い込んでくれる。

 たとえば、何処かの人里離れた地を彷徨っていて、歩き疲れ、へとへとになって、喉が渇いたとき、不意に森の奥から清流の清々しい音が聞こえてくる。決して砂漠ではないはずの地に自分がいるのは分かっている。木々の緑や土の色に命の元である水の面影を嗅ぎ取らないわけにいかないのだから。

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2023/11/02

昼行燈28「謎の女」

G6謎の女

 不思議だ。
 同じ女なのだろうか。俺の行く先々で現れる。それも行った先々で違う装いで。

 それは夢のようであり、現実以外の何者でもない。
 ついには夢の中にまで現れるようになった。

 まさか俺の影? 俺の望み? 救いですらある?

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昼行燈27「黒い雨の降る夜」

Kuroiame黒い雨の降る夜


 あれは夢の中でしか見ることの出来ない黒い雨の降る夜のことだった。
 鮮烈なほどの蒼い光が俺の目を刺し貫いた。貫通した光は、瞬時に消え去っ たが、俺の後ろの分厚い壁に怪しい人影を残していた。
 その日から俺は影の世界に生きてきた。

 

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2023/11/01

昼行燈26「森の雨音」

17336   「森の雨音

 森の奥の人跡未踏の地にも雨が降る。
 誰も見たことのない雨。流されなかった涙のような雨滴。誰の肩にも触れることのない雨の雫。雨滴の一粒一粒に宇宙が見える。誰も見ていなくても、透明な雫には宇宙が映っている。

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