昼行燈24「古タイヤの列」
何が故に篭る自分になったのかは、既に書いたのでここでは略すが、そんな引き篭もる自分を<外>の世界に引っ張り上げてくれたものは、一体、何だったろう。孤独が怖かったから? そんなことはなかった。誰とも言葉を交わさない世界には、それはそれで甘い甘い濃密なるパラダイスがあって、しかも、その楽園は広く豊かで色とりどりの果樹に満ちており、何もその自己完結した世界から抜け出さなければならない理由など、見当たらなかったのである。
篭る自分。閉鎖はされていても、閉じ込められているようであっても、とにもかくにも完結している。やがては密封された世界で窒息して果てるのだとしても、うまくいけば安楽死もありえる。
安逸なる世界、孤独に時に吐き気しそうになっても、それでも、外の世界よりは甘美で濃密なる伽藍堂。外の世界には、摩天楼やら水晶宮があるのかもしれないけれど、でも、そんな煌びやかな世界だってその実他人の不在な、生々しい命の滾りや輝きと出会うことのない、閉塞された陳腐な、そう罅割れた鏡の乱反射に過ぎないんだ…自分には。
そんな自分を<外>の世界へ導いてくれたのは、あの日の出来事のお陰だった。まるで天からの呼び掛け、思いがけない照明だった。いきなり舞台の上に引っ張り上げられたんだ。穴倉の自分を引き摺り出してくれたんだ…あの人が!
(拙稿「冬籠(ふゆごもり)」より。画像は、「半分埋まったタイヤ」より)
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