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2023/10/23

昼行燈20「あの影しかない」

Image_20231023031801  「あの影しかない

 

 何だか知れない影を追っていた。
 何処かなよっとしている。でも、鞭のようにしなっている。
 嫋やかというのか艶麗というのか抱きすくめたい姿かたちが俺を惹きつけてたまらないのだ。
 できれば追いすがって抱きたい、押し倒したい、その一心だった。

 一体あの影は何処から湧き出したんだ。夜半になって静かすぎる部屋に心癒されていた。
 ところが突如カーテンがふんわり揺れだした。いや灯りの部屋なんだ、何も見えるはずがない。だけど蠢きを感じた。巨竜の胴体が過っていく圧倒的な存在感があった。

 あるいはカーテンの破れ目から明かりが忍び込んだのか。違う! 影が覗き込んだのだ。
 臆病者の俺。体は竦むばかり。蹲って縮こまって毛布に包まって貝になりたかった。俺は貝になってブヨブヨの身も心も一滴たりとも零れ出ないよう必死だった。

 なのに引き摺り出されてしまった。影の奴の艶めかしい腰の撓みには敵わなかった。蓑虫の俺の中から赤い糸が吐き出された。それともあの影が赤い糸で俺を導こうとしているのか。
 愛したい! そうだ、愛したいという赤裸な衝動が俺を突き動かしたんだ。

 変幻自在なあの影の正体は誰なのか。何だって夢にまで現れて俺を悩ます。それとも己の欲情があの影を現出させているのか。

 ふらふらと丑三つ時の闇の畦道を辿って行った。紫色の影。匂い立つ色気。俺という存在の無という空洞を埋めてくれるのはあの影しかないのだ。追うしかない。擦り減って瀕死の魂が追わせるんだ。何が何でも摑まえる。俺を救えるのはあの影しかないのだ。

(画像は、拙稿「影のない女」所収の「小林たかゆき お絵かきチャンピオン」より)

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