昼行燈26「森の雨音」
数千年の時を超えて生き延びてきた木々の森。その木の肌に、いつか耳を押し当ててみたい。
きっと、遠い昔に忘れ去った、それとも、生れ落ちた瞬間に迷子になり、誰一人、道を導いてくれる人のいない世界に迷い続けていた自分の心に、遠い懐かしい無音の響きを直接に与えてくれるに違いない。
その響きはちっぽけな心を揺るがす。心が震える。生きるのが怖いほどに震えて止まない。大地が揺れる。世界が揺れる。不安に押し潰される。世界が洪水となって一切を押し流す。
その後には、何が残るのだろうか。それとも、残るものなど、ない?
何も残らなくても構わないのかもしれない。
きっと、森の中に音無き木霊が鳴り続けるように、自分が震えつづけて生きた、その名残が、何もないはずの世界に<何か>として揺れ響き震えつづけるに違いない。
それは森の雨音の余韻。
それだけで、きっと、十分に有り難きことなのだ。
(拙稿「石橋睦美「朝の森」に寄せて」より。拙稿「誰もいない森の中の倒木の音」参照。画像は、「「森の雨 / Mưa Rừng」~雨にまつわる名曲~│ベトナム生活情報サイト、VIETJO Life(ベトジョーライフ)」より)
| 固定リンク
「心と体」カテゴリの記事
- 明けない夜に(2025.03.20)
- 昼行燈126「眼差しという匕首」(2025.03.16)
- 孤独を託つ宇宙(2025.02.02)
- われは海の子(2025.02.03)
- 昼行燈125「夢の中で小旅行」(2024.11.26)
「駄文・駄洒落・雑記」カテゴリの記事
- 昼行燈125「夢の中で小旅行」(2024.11.26)
- 雨の中をひた走る(2024.10.31)
- 昼行燈123「家の中まで真っ暗」(2024.10.16)
- 昼行燈122「夢…それとも蝋燭の焔」(2024.10.07)
- ローンライダー(2024.10.02)
「妄想的エッセイ」カテゴリの記事
- 明けない夜に(2025.03.20)
- 昼行燈117「夏の終わりの雨」(2024.09.04)
- 昼行燈108「無音の木霊」(2024.08.02)
- 昼行燈105「月に吠える」(2024.07.24)
- 昼行燈104「赤茶けた障子紙」(2024.07.24)
「旧稿を温めます」カテゴリの記事
- 明けない夜に(2025.03.20)
- 孤独を託つ宇宙(2025.02.02)
- 昼行燈124「物質のすべては光」(2024.11.18)
- 昼行燈117「夏の終わりの雨」(2024.09.04)
- 昼行燈116「遠足」(2024.08.27)
「祈りのエッセイ」カテゴリの記事
- 昼行燈115「ピエロなんだもの」(2024.08.26)
- 昼行燈101「単細胞の海」(2024.07.19)
- 昼行燈68「喧騒のあとで」(2024.02.12)
- 昼行燈67「真冬の月と物質的恍惚と」(2024.02.11)
- 昼行燈(番外3「葬送のこと」)(2023.12.12)
「ナンセンス」カテゴリの記事
- 明けない夜に(2025.03.20)
- われは海の子(2025.02.03)
- 宇宙を彷徨い続ける(2025.01.14)
- 昼行燈125「夢の中で小旅行」(2024.11.26)
- 昼行燈122「夢…それとも蝋燭の焔」(2024.10.07)
「あの日から始まっていた」カテゴリの記事
- 明けない夜に(2025.03.20)
- 昼行燈126「眼差しという匕首」(2025.03.16)
- 昼行燈125「夢の中で小旅行」(2024.11.26)
- 昼行燈124「物質のすべては光」(2024.11.18)
- 昼行燈118「夢魔との戯れ」(2024.09.05)
コメント