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2023/11/01

昼行燈26「森の雨音」

17336   「森の雨音

 森の奥の人跡未踏の地にも雨が降る。
 誰も見たことのない雨。流されなかった涙のような雨滴。誰の肩にも触れることのない雨の雫。雨滴の一粒一粒に宇宙が見える。誰も見ていなくても、透明な雫には宇宙が映っている。


 数千年の時を超えて生き延びてきた木々の森。その木の肌に、いつか耳を押し当ててみたい。
 きっと、遠い昔に忘れ去った、それとも、生れ落ちた瞬間に迷子になり、誰一人、道を導いてくれる人のいない世界に迷い続けていた自分の心に、遠い懐かしい無音の響きを直接に与えてくれるに違いない。


 その響きはちっぽけな心を揺るがす。心が震える。生きるのが怖いほどに震えて止まない。大地が揺れる。世界が揺れる。不安に押し潰される。世界が洪水となって一切を押し流す。
 その後には、何が残るのだろうか。それとも、残るものなど、ない?


 何も残らなくても構わないのかもしれない。
 きっと、森の中に音無き木霊が鳴り続けるように、自分が震えつづけて生きた、その名残が、何もないはずの世界に<何か>として揺れ響き震えつづけるに違いない。


 それは森の雨音の余韻。


 それだけで、きっと、十分に有り難きことなのだ。

 

(拙稿「石橋睦美「朝の森」に寄せて」より。拙稿「誰もいない森の中の倒木の音」参照。画像は、「「森の雨 / Mưa Rừng」~雨にまつわる名曲~│ベトナム生活情報サイト、VIETJO Life(ベトジョーライフ)」より)

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