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2023/10/17

昼行燈16

Magma  「ピエロの夢」

 星…宇宙に焦がれ仰いでいたのは遠い昔。無数の星々が煌めている。遥か遠い、遠いという言葉すらあほらしくなる。気が遠くなる。人はいつか、あの星のどれかに辿り着くのだろうか。きっと俺でない誰かが実現するに違いない。

 が、そんな夢の中の星の瞬きに純粋の極みを嗅ぎ取っていたロマンの時は過ぎ去ってしまった。

 なぜ夢は潰えた? もしかして宇宙が暗黒物質に満ちていると知った日から? 宇宙が暗黒の砂漠に成り果てたから? 

 無の砂漠…礫や岩、そして砂。いつか見たサハラ砂漠の砂の美しさ。お互いがぶつかり合って角が取れて丸っこくなって、半透明の…そう無数の微細な宝石の、それこそ地上の宇宙じゃないかと感じたものだ。あるいは宇宙の星はサハラ砂漠の砂が風に舞いあげられて天蓋に散らばった…なんて夢想は果てしなかった。

 違う。星に焦がれなくなったのは、暗黒物質なんかのせいじゃない。有能な奴らが宇宙へ飛び出すのは、この地球を散々荒らしまくって不毛の大地になったから、見捨てて逃げ出すためなんだ。奴らだけが我先に脱出しようと焦ってる。暗愚なエゴの塊。

 そして、あの不毛な夜の果てしない、際限のない欲望の空回りの挙句の無力のせいだ。なんて無能なんだ。溢れ返っていた欲情はいざ肉の海に飛び込んだら、あっさり沈没。溺れてしまった。星どころか空っぽな肉体に呆然とするばかりだった。灼熱の脳髄は真っ赤に、やがては蒼白なまでに灼け切ってしまった。肉片が引き千切られている。そこまでしても美の正体はついに見つからなかった。

 美の狩人を気取った俺はピエロだ。犠牲になったあいつが浮かばれない。

 

(画像:「《コンポジション》1950 年 グァッシュ、インク、紙 21.9 ×16.0cm DIC 川村記念美術館」「38歳で夭逝。20世紀を代表する画家ヴォルスが描く「感情のマグマ」 | 文春オンライン

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