昼行燈18 「海の響きも聞こえない」
頬擦りしたいほどの滑らかさ。
血糊のリンクを、涙の飛沫を飛ばして滑っていく。
削られ飛び散る深紅の氷。
美しい。美し過ぎる。
目が潰れそうなくらいだ。
それとも抉られ続けているのは、縫合されそこなった肉の海なのか。
抉っているのは、何?
怒り? 悲しみ? それとも、痴愚の笑み?
結び付ける位置を間違えたのか。
そもそも縫えるはずもなかったのか。
血汐が沸き立ち、縫い目の隙間を裂いて噴出する。
血反吐が、世界を赤く染める。
なのに、この森閑たる闇は何なのだ?
喚く声さえ凍てついて、響き渡るのは、零度の波。
真っ青な闇の彼方に黒い影。
何がある? 何かが映っている?
それ以外の何かがあるというのか?
傷口が閉じている。
心の扉という名の傷口が。
心の傷は膿を垂らすことも忘れ、今は心自身が瘡蓋となり、やがては…貝になる。
海の響きは聞こえない。
穴が見えない。
トンネルの出口が見えない。
いつまで経っても、どこまで行っても闇雲な手探り。
手応えのない、目覚めることを忘れた夢。
寒い!
誰のモノともしれない肉の身を裏返し引き伸ばして、頭から被ってみる。
温みが得られるかと。
そんなはずはなかった。
ただ口さえもが塞がれ、息が出来なくなっただけだった。
それでよかったのかもしれない…そう思った。
(拙稿「海の響きも聞こえない」より。画像は、「Collection de l'Art Brut」より)
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