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2023/09/28

昼行燈6

Amebike 雨の中黙々と走り続けていた。帰路だから気楽だし、目的地があるってことがいい。帰ればとにかく眠ることができる。だからひたすら耐えて走る。
 走っているのは俺じゃない、オートバイだ。俺は跨っているだけ。目の前の光景を注視し、コントロールパネルも折々見遣り、特に燃料計は神経質なほど確かめる。あの燃料切れの悪夢の再来はなしだ。


 五月の連休の雨。寒くはないはずだが、気温も高くないが、ライダージャケットやパンツの中までずぶ濡れになってる。雨は襟元から手元からブーツの足元から、雨合羽の隙間から、どんどん濡れていく。
 バイクには風防がついている。雨は遮ってくれるはずだ。が、これだけ雨がひどいと気休めにもならない。前傾姿勢になり雨を躱そうとするのだが、風圧に威を増した雨は容赦なくバイクにライダーに襲い掛かる。叩きつける。歩行者なら傘で十分でも、走行するバイクには降り頻る雨粒という弾丸の連射となる。
 音が凄まじい。エンジン音もタイヤの音も聞こえない。ただただ砕け散る雨音。ヘルメットの風防も叩きつけてくる雨粒で視界が危うい。まだ真昼間なんだが。シールドの中も曇っている。浸み込んだ雨が湯気になってる。シールドにワイパーはない。バイクの風防もただ直撃する風雨を幾分和らげてくれるだけ。
 寒い。ひたすら寒い。高速道路。次のパーキングに入るかどうか。入ってもずぶ濡れの姿で休憩所に行くのも気が引ける。着替えができるわけもない。
 ほんの少しの気休めは、長いトンネルだ。たまに数キロのトンネルに突っ込むと、バイクには風だけが吹き付ける。俺は、数分にもならないトンネル通過の間に濡れたジャケットが少しでも乾いてくれることを願う。時速百キロ前後で走ってるんだ、風は秒速30メートル近い。そんな強烈な風なら、雨合羽くらいは乾かしてくれそうなものだ。
 そんな淡い期待は呆気なく潰え去る。脇を車が追い越していく。いつもなら俺のバイクが追い越すはずが、雨で気弱になって走行車線を走っている。追い越し車線に入る覇気はない。
 雨の中の数百キロの走行はつらい。ひたすら長く感じる。終わりが見えない。百キロのスピードなのに、先が何時になっても見えない、減らない。
 寒い。ちょっとでも気を抜くと風邪を引きそうだ。なけなしの気力を振り絞って、ひたすら耐える。
 しかし俺は何に耐えているんだ? なんで雨と分かっていてバイクで帰省する? 今の窓の開かない、車内販売のない列車、立ち席しか取れない列車が嫌いなのは分かるけど。だけど俺は何が何でもバイクなのだ。正月だって雪中強行でバイクだし。何故だ?

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