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2023/09/15

昼行燈2

Neon  遠い呼びかけがあった。真っ赤な闇の彼方からの呼び声だった。朝を告げている。
 朝なのか。朝とは何だ。分かるはずもない問いが脳裏を駆け巡る。巡りすぎて眩暈しそう。


 起きなければならない。お前は起きるんだ。誰かがそう云う。何物でもないそれは濃厚だが透明な闇に抗うようにして起きる意思を示す。体がバリバリ鳴ってる。軋る音。擦過音。骨と筋と皮とが擦れ合ってるんだ。まるでぶっつけ本番で何十キロのマラソン走をこなしてきた翌朝のようだ。

 でもそれはなんてことない日常を昨日も送っただけなのだ。だから今日も昨日のように生きるんだ。曜日は? 学校へ行かないと。
 何かとんでもない異変が体に起きているに違いない。朝からこんなに疲れ果てているなんてありえない。


 布団は? いつものように団子になってる。寝苦しくて跳ね飛ばしたんだ。重石みたいに圧し掛かっていた。布団のせいで苦しかったのか。そう思いたかっただけだとは分かりきっている。


 若いはずの体。心だって若い。親たちの目。世間の目。級友の目。誰とも遜色のない生活を送るんだ。送れている振りだけは忘れちゃない。
 乾き切った肉体に少しずつ体液が巡っていく感触がある。若さという潤滑油が浸透し始めている。
 ロボットのような体。だけど外見は人間。


 魂の抜け殻…という自覚があった。意識がないわけじゃない。ただ、鉛の海をやっとのことで起き上がり、着替え、家族の下へ。
 惰性だけが頼り。空間の何処かから何者かが見詰めている。抜け出ていった魂が眺め下ろしているいるのだろうか。誰の魂? 意識は何処にある。


 だんまりの食事のあと、奥の座敷へ行った。誰もが慌ただしい中、それは体をゴロゴロ転がしてみた。どうにも重苦しい岩が居座っている。岩を転がして少しでも柔軟な肉体を取り戻したかった。朝の空しい習慣。

 

                         (09/15 23:20)  

[画像は、「ネオンサイン LED ネオンライト 「まねきねこ OPEN」 看板」]

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