昼行燈4
遥か遠くの農家の窓明かり、しょぼくれた電信柱にぶら下がる電灯が頼りだ。ボクは窓灯りがたまらなく恋しい。胸が締め付けられるようだ。あの橙色の光はボクを誘惑する。農村に散在する家々の灯りは団欒の証しなのか。ボクの家にだって明かりは灯っているはずだ。だったら家に帰ればいいじゃないか。なんだってわざわざ出てきたんだ?
虫は光に焦がれるという。月影が頼りだとか。けれど、月のない夜。新月なのか、それとも曇天なのか。まるっきり月の姿がない。虫の気持ちが分かるようだ。もう子供でもないのに何てガキっぽい感傷に浸ってるんだろう。
屋敷林に囲まれた農家の灯は樹影に揺れて淋しい。だけどだからこそ愛しい。微かな光の溜まり場が確かにあそこにある。その光の誘惑に釣られてボクは彷徨っている。ボクの居場所は何処だ? あの赤い光の明滅はなんだろう。
空にはボクの好きな星も今夜は一つもない。星にボクの胸が疼くこともない。
眠れなかった夜々の果ての夜明け。鉛の体を引き摺って昼行燈になって日中をやり過ごした。
ボクが目覚め始めるのは宵闇迫る頃なのだ。
辛うじて生きていると感じられるのも夕刻。夜が深まるほどにボクは覚醒していく。朝には疲れ果てていた体が蘇るような気がする。だからボクは夜の果ての放浪をやめられないんだ。
[画像は、拙稿「孤独な配達人の独り言」より] (09/21 00:53)
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