昼行燈5
もしからした、幼児達は案外と彼等が現に見たり感じたりする、まさに彼等が生きている世界をリアルに描いているのかもしれない。
ただ、あまりにリアルなことと、その突飛もない表現に、既成の価値観や視点や教養や常識の虜になってしまっている大人には、その真の価値が分からないだけなのかもしれない。
あるいは、その想像を絶する現実世界の豊穣さと奥の深さにまともに立ち向かったりしたら、大人として常識を以って生きていけなくなるという懸念を結構、真剣に予感するが故に、臭いものに蓋(ふた)というわけではないだろうが、少なくとも危険なものを大慌てで覆い隠すのではないかと思われてくる。
しかし、そうはいっても、幼児が成長するとは、大人の社会への仲間入りを果たすということであり、人間社会のルールや決まりごとや杓子定規であっても、型通りの見方や伝統や教養などを身に付けていくことに他ならない。
強くなければ生きられない。が、優しくなければ生きている甲斐がない。という発想があるとして、それを援用するなら、常識豊かでなければ生きられない。が、常識の虜になったなら生きているとは呼べない、ということになるのか、どうか。
以前にも、ここで書いたことがあるが、近くの市役所跡地の工事現場で見た幼児の絵に、心底、感動したことがあった。現場を覆うフェンスの表、通り沿いの壁面に、幼稚園(保育所)ほどの年代の子どもの絵(の複製)が展示されていた。それらの絵の素晴らしさに圧倒されたのだった。
どこかミロやシャガールのような、しかし、もっとフワフワした、半熟卵のようにブヨブヨの感性が、そのままに壁面に、あるいは四角い額の中という陋屋に、生の、形にならない未熟な、生傷から膿が滲み出すのも構わずに漂っているような気がしたのだ。
生きるためにはタフになる必要がある。感性を、理想を言えば柔軟にというか、鞭のように撓るように養い育てられているのが、好ましいが、実際には、麻痺させたりすり減らせたり、現実から目を背けてしまったりして、やっとのことで生きているのが大概である。
というか、感性を鈍らせていることに気づくことさえ、ない。
実際、世界は豊穣なのだというのは、構わないが、しかし、豊穣すぎて、消化し吸収するどころか、その前に際限のない、豊穣さというのは、生きるには危険すぎるのだろう。子どものままの感性があったりしたら、日常を生きることはできない。それが許されるのは芸術家など、ほんの一部の人間の特権なのだろう。
大人になって子どもの感性を持つとは、日々、傷付くということ、生傷が絶えないということ、傷口が開きっぱなしだというkとに他ならない。不可能に近い生き方だ。それでも、バカの壁ではないが、既成の価値と感性という壁をほんの一時くらいは、無理矢理にでも開いてみる必要があるのかもしれない。
胸の奥の価値の海を豊かにするためにも。
(拙稿「三人のジャン…コンクリート壁の擦り傷」中の「アウトサイダー・アートのその先に」より抜粋。画像は、「【美術解説】ジャン・デビュッフェ「アール・ブリュット運動の創設者」 - Artpedia アートペディア/ 近現代美術の百科事典・データベース」より「ジャン・デビュッフェ「Grand Maitre Of The Outsider」(1947年)」)
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