罅割れのガラス窓
床にへばり付いている朝。凍り付いているのか。あるいはもうすでに息絶えているのかもしれない。
息をしている? 吐いてみる。吸ってみる。繰り返す。呼吸できないことはない。ただ、生きている感覚が遠いだけだ。いつもの朝。朝とは時計の決めること。誰かの呼び声に臣従しているだけ。誰か? 世間? 社会? 習慣?
寝具に張り付いた薄皮を剥がすように、寝床に浸み込み粘着いてしまった体液を取り戻すように起きる。
起きるとは、コンクリートの棺からヘリウムガスの海に彷徨い出ること。魂は何処だ。心は何処だ。意識はあるのか? 罅割れの曇りガラスの壁面越しに青空が見える。白い雲さえ眩く輝いている。誰かの声だって襖越しに聞こえる。
時間だよ。間に合わなくなるよ。起きなさい。
誰の呼び声だろうと、遠い。遥か彼方からの命の響き…その余韻だけが届いてくるようだ。
目覚めまでの数十秒、それとも数分、もしかしたら数時間かもしれない。学校での嫌な体験が蘇ってくる。どんよりした意識の何処かに学校がある。普通な風を装っている。だけど、それだけで精一杯。先生の声など届かない。まして意味など分からない。まわりのみんなは分かっているらしい。
どうやら10から1までを逆に言っているようだ。みんなそれぞれの席で立って、ちゃんと云えたら座ることができる。次の生徒に順番が回る。段々迫ってくる。懸命に復唱しようとする。10…9…8…だけど、ここで詰まる。7が云えない。7は鬼門だ。当時の自分はいつもそこで行き詰まる。息詰まる。ナナが云えない。ダダとしか云えないのだ。じゅう、きゅう、はち~までは何とか云える。でも、ナナは不能だった。自分で嫌というほど分かっていた。それが云えなくて立ち往生したことが何度あることか。
[画像は、「ワレてしまった様子の写真素材 - ぱくたそ」より]
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