あの日から始まっていた (33 自分一人の部屋)
脱衣所にも電気ストーブはあるが、強弱だけの古い奴。それだけでは寒さを凌ぐことはできない。
冬、それも深夜となると、部屋がこんなに静かだとは今まで気付かなかった。時計の秒針の音だけが生きているかのようだ。自分の息遣いなど自分でも気付かない。最新式とはいえ、電気ストーブだけでは(それも中では)部屋は十分暖かいとは言えない。重ね着し、一人の部屋の特権で、電気ストーブはズボンが焦げない程度に近付けている。
エアコン…そういえば、その前は石油ストーブというか石油ファンヒーターを使っていた。石油というより灯油ストーブなのに、なぜ石油ストーブと呼称するのか、不思議だ。灯油ストーブは、案外と音が鳴る。灯油の燃える音なのか分からない。頼もしいし、実に暖かかった。だが、人日火の不始末が怖くなって、止めた。それに密室で灯油ストーブが燃えていると、酸素不足になりそうなプレッシャーを感じてもいた。根拠はないのだが。
電気ストーブだけの、やや心許ない部屋。折々、ポットのお茶をカップに注ぐ、その音が自分を暖めてくれるようだ。実際、カップを握って手先を温めたりする。
静けさ。秒針の音だけの部屋。今は降っていないとはいえ、先日の雪がまだ消えていない。あるいはもう雪が降り出しているのかもしれない。カーテンを開けると、真っ暗な世界のはずが、眩いほどに白く輝いていたりする。白銀の世界であるだけじゃなく、雪は音をも吸収する。
雪の降る夜が静かなのは、雪景色の寒さや心細さの故だけじゃなく、実際に雪は音を吸収するという。「雪が降ると静かに感じる理由 | Denon 公式ブログ」によると、雪「の結晶の隙間の部分に音の振動が閉じ込められてしまい、遠くまで音が届かなくなるの」だとか。
このサイトを覗いて気付かされたのだが、「ぐっと冷え込んだ時や雪が降り積もった時にいつもより遠くからはっきりと音が聞こえてくる時もあります。遠くの列車の音や、沖に出た船の音などです」という。そのメカニズムはそのサイトを覗いてもらうとして、音に限っても雪の世界の不思議を想わないではいられない。
一人きりの部屋。体の不調もあって、夜の底の静けさが一層身に染みる気がする。心も体も交歓し合う相手がいない自分を痛感させられるからだろうか。あるいは、自身がそれほど時を経ずして雪に埋もれていくように消えていくと強く予感したからだろうか。
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