あの日から始まっていた (21 孤独ではなく孤立)
← 画像は、「小林たかゆき お絵かきチャンピオン」より
「孤独ではなく孤立」
(前略)
詩人の孤独な魂を感じたとはいえる。
神と対話し、自己と対話し、パリという大都会での、何物でもない自分の漂泊の魂。
都会の孤独。群衆と雑踏の中だからこその孤独。
孤独の中でこそ、人は徹底して自らを、世界を問うことができる。生半可な答えなど要らない。
というより、孤独の境涯にあって、その人がどこまで徹底して問い得たかが、その後のその人の人生を決めるといってもいいだろう。
二度目に本作を読んだのは、小生が大学を卒業し、上京したかどうかの頃。大学で二年、留年したので、友人らはみんな卒業したか、さっさと退学したか、いずれにしろ、特に最後の一年は独りぼっちで仙台の町で暮らしていた。
卒業し上京した当初も、独りぼっち。友と言えるのは、本だけ。大学の図書館で借りまくり、折々文庫本を買い、新刊本は買えないので、古書店をぶらついたりした。
本書も新刊で買ったのではなく、古書店だったようだ。
(中略)
自分は、決して孤独に耐えられるような人間ではない。というより、甘えっ子といったほうが的確だろう。
ただ、肉体的事情が自分を独りぼっちに追い込んでいく。否応なく。
一つは容貌であり、もう一つは、睡眠障害。十歳の時の手術で、鼻呼吸が一切できなくなった。
黙っていたら、油断したら、人前でも、口を大きく開けて、酸素不足の魚が水面で喘ぐように呼吸してしまう、ちょうどそんな光景を思い浮かべればいいだろう。
そんな惨めな姿をさらさないためには、日中、人前に居るときは、常時、口を閉じているふうを装わないといけない。映画館で数時間を過ごすなど、難行苦行である。授業もひたすら辛いだけ。
何が一番辛いって、朝、起きた時。
夜はほぼ眠れない。睡眠時無呼吸症候群という病気というか、症状があるが、小生は鼻呼吸ができないのだ。つまり、夜、自分には睡眠がありえないことになる。
朝は、疲労困憊している。骨が粉々に砕かれたかのように、体が疲弊しきっている。
起きるべき朝、自分は起きるために、一日のほぼ全精力を使い果たす。
日中は、ほとんど眠いっていない疲労と睡魔との闘いに明け暮れる。起き上がった時にはもう、自分は腑抜けになっている。昼行燈である。
そんな自分が、普通の人の日常を送れるはずがない。疲れ切って余力などないのに、まともな暮らしなど、ありようはずがなのだ。
これら二つの理由で(あと少し付け加えるなら言語障害など…)、自分は孤独ではないとしても、孤立した中身の乏しい精神生活を余儀なくされたのである。
(後略)
[「孤独ではなく孤立」(2017/08/13)より]
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