あの日から始まっていた (16 麻酔は未だ効いてない)
← 題名不詳 (画像は、「小林たかゆき お絵かきチャンピオン」より)
「麻酔は未だ効いてない」
私は手術室にいる。随分と閑散としている。手術室は広くはないが、中に何も器材らしきものがないので、ガランとした 皮肉屋なら殺伐としたと表現しそうだ。
しかもやけに明るい。照明のせいというより、ばかでかい曇ガラス窓からの外光のせいかもしれない。左側の片隅にはいかにもやる気のなさそうな看護婦が壁際に立ち私に背を向けている。医師が右側に立っている。やたらと若い。
大丈夫か? 経験はあるのか? 前回の手術の体験が脳裏を過る。安心感が醸し出されていた……。が、今回は不安感ばかりが先に来る。始まった。麻酔注射が射たれる。感覚が意識が薄れていく。が、まだ完全には消えてない。体はピクリとも動かせないがその気になれば動かせるような。まだだぞ、まだ斬っちゃ駄目だぞ、そう訴えたい。声は出ない。まだだってば!
無為に抗っていた。…………尚も抵抗しよう、麻酔は完全には効いていないと腕か手先か目で伝えようとしていた。
が、何か違う。終わった? 終わって意識が目覚めかけているのか? 手術室の白々しい光が溢れかえってる。鼻……口許の手術は終わったと思っていいのだろうか? 誰も応えてくれない。
[「麻酔は未だ効いてない」(2021/01/03)より]
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