あの日から始まっていた (8 睡魔)
鉛色なんだから仕方がない。気取ってるわけでも、屁理屈をぶってるわけでもない。
あの日から始まっていた鉛色の日々は、あまりに深すぎて重苦しくて、自分でも分からずにいた。
私はやたらと粘る曖昧の海に独り漂っていた。朝の目覚め…それが目覚めと呼べるなら…親の遠い呼び声で深く淀んだ泥水の底にいることを気付かせられた。
我が身を寝床から引き剝がすようにして、体を捻転させて粘る謎の透明な液体を布団に擦り付けて起き上がった。
疲れ果てていた。睡眠時間帯はあった。夜の九時か十時には就寝した、そんな遠い記憶はある。が、真っ赤な闇が続くだけの夜だった。火照って熱に魘されるばかりの夜だった。
喉がカラカラに乾いていた。痛いくらいだ。口中の赤茶色の粘液。歯茎から染み出す血が唾液と絡み合い、乾き、また粘り、の繰り返しの果てのタールだ。
ふらつく体を親たちの前では誤魔化していた。起きたら何とかなる。そうだ、あの頃は未だ若かったんだ。生命力は枯渇していなかった。起きている日中の間に体に澱となって蜷局を巻く疲労困憊の塊を少しずつ解きほぐしていく。夕方頃になってやっと動く元気が出てくる。が、夜は容赦なく迫ってくる。眠気はある。睡魔は襲ってくる。怖い。だが、誰もが眠りに就く時間帯に独り目覚めたままでは居られないのだ。
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