あの日から始まっていた (8 睡魔)
鉛色なんだから仕方がない。気取ってるわけでも、屁理屈をぶってるわけでもない。
あの日から始まっていた鉛色の日々は、あまりに深すぎて重苦しくて、自分でも分からずにいた。
私はやたらと粘る曖昧の海に独り漂っていた。朝の目覚め…それが目覚めと呼べるなら…親の遠い呼び声で深く淀んだ泥水の底にいることを気付かせられた。
我が身を寝床から引き剝がすようにして、体を捻転させて粘る謎の透明な液体を布団に擦り付けて起き上がった。
疲れ果てていた。睡眠時間帯はあった。夜の九時か十時には就寝した、そんな遠い記憶はある。が、真っ赤な闇が続くだけの夜だった。火照って熱に魘されるばかりの夜だった。
喉がカラカラに乾いていた。痛いくらいだ。口中の赤茶色の粘液。歯茎から染み出す血が唾液と絡み合い、乾き、また粘り、の繰り返しの果てのタールだ。
ふらつく体を親たちの前では誤魔化していた。起きたら何とかなる。そうだ、あの頃は未だ若かったんだ。生命力は枯渇していなかった。起きている日中の間に体に澱となって蜷局を巻く疲労困憊の塊を少しずつ解きほぐしていく。夕方頃になってやっと動く元気が出てくる。が、夜は容赦なく迫ってくる。眠気はある。睡魔は襲ってくる。怖い。だが、誰もが眠りに就く時間帯に独り目覚めたままでは居られないのだ。
| 固定リンク
「心と体」カテゴリの記事
- 来るな!(2023.03.03)
- 闇の闖入者?(2023.02.16)
- ノートルダムの深淵?(2023.02.15)
- 宇宙を舞う二人を追う…(2023.02.13)
- なんと殺されそうに(2023.02.12)
「小説(幻想モノ)」カテゴリの記事
- 罅割れのガラス窓(2022.10.09)
- あの日から始まっていた (11 赤いシーラカンス)(2021.09.16)
- あの日から始まっていた (8 睡魔)(2021.09.08)
- あの日から始まっていた (7 雪の朝の冒険)(2021.09.08)
- あの日から始まっていた(2 頬杖)(2021.08.17)
「駄文・駄洒落・雑記」カテゴリの記事
- なにがゆえの悪夢だった?(2023.02.09)
- 観る前に飛ぶんだ(2022.10.25)
- 野良猫の怪…源五郎の夏(2022.07.31)
- あの日から始まっていた (* 番外編)(2021.11.08)
- あの日から始まっていた (12 匂いを嗅ぐ)(2021.09.22)
「創作(断片)」カテゴリの記事
- 海月為す(2022.12.22)
- 観る前に飛ぶんだ(2022.10.25)
- 青い空、白い雲(2022.10.10)
- あの日から始まっていた (27 ぬめり)(2021.11.06)
- あの日から始まっていた (19 球体関節人形)(2021.10.12)
「ナンセンス」カテゴリの記事
- 来るな!(2023.03.03)
- 闇の闖入者?(2023.02.16)
- ノートルダムの深淵?(2023.02.15)
- 宇宙を舞う二人を追う…(2023.02.13)
- なにがゆえの悪夢だった?(2023.02.09)
「あの日から始まっていた」カテゴリの記事
- 観る前に飛ぶんだ(2022.10.25)
- あの日から始まっていた (39 独りきりの祝祭)(2022.03.11)
- あの日から始まっていた (37 南天の実に血の雫かと訊ねけり)(2022.02.21)
- あの日から始まっていた (36 「祈り」を巡って)(2022.01.29)
- あの日から始まっていた (35 葬送のこと)(2022.01.21)
コメント