赤い闇
手探りして歩いている。何処を歩いているのかさっぱり分からない。何故に歩くのか。それは走るのが怖いからだ。早くこの場を抜け出したいのだが、漆黒の闇が辺りを覆っている。ぬめるような感覚がある。巨大なナメクジに呑みこまれているようだ。
息はできている。空気はあるのだろう。吸う。溜める。吐く。意識して呼吸する。体の中に何かを取り込んでいる。肺胞がギリギリの活動をしてくれている。
踏ん張って歩きたい。が、足元が覚束ない。押せば引く、引けば圧し掛かってくる。体が重苦しい。世界は開かれている。そう直感している。ただ、隙間が見えないだけだ。何処かに出口がある。そう信じて生きていくしかない。
体が重い。目覚めた瞬間から体が鉛に成り果てている。起きなければならない。まともな体のはずなのだ。周りの連中はそうであることを期待している。自分でもそう思いたい。平凡極まりない奴。目立つところなど何もない。だが、重い。布団から起き上がるのが苦しい。
夕べは……夕べも眠れなかった。眠りはとっくに失われたのだ。周りの誰も知らないが、ボクだけは知っている。思い知っている。睡魔が襲う。奈落の底へとボクを突き落とす。睡魔は優しい悪魔だ。悦楽の底へ誘うだけ誘っておいて、誘惑に駆られ惹かれて真っ赤な闇の沼を目にした途端、ボクは撥ねつけられる。血塗られた壁面が無限の発条となってボクを叩き起こす。
寝るな! 寝るんじゃない! お前に睡眠など許されていない。意識は流れない。ぶつ切りの赤い闇夜がデコボコの隧道となって永遠に続くのだ。
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