ボクの世界は真っ赤な闇
「ボクの世界は真っ赤な闇」
暗闇の何処かから声が聞こえる。声の主は目の前にいる。きっと先生だ。「10から1まで逆に言いなさい」とか何とか。生徒らは順番にハキハキと、中にはつっかえながらも、何とか答えている。やがてボクにも番がやってくる。ボクにできるだろうか。隣の女の子は、なんて綺麗な声なんだろう。「じゅう きゅう はち なな……さん にぃ いち。」ボクだ。みんなの目線がボクに集まる。何十もの目玉がボクの顔にへばり付く。視線というハリネズミの針がボクの心を突き刺す。椅子を引いて立ち上がるボク。「じゅう…きゅう……はち……」そこで止まってしまう。「なな」が言えない。
ボクには「なな」は、「なだ」だったり、「だな」だったり、「だだ」だったりする。「なな」だけは発音できない。いや、自分では「なな」と言っているつもりだけど、人にはそうは聞こえないらしい。「花」と言ったつもりが「はだ」とか「鼻」とか、「あだ」とか。体が段々火照ってくる。頭の中が沸騰しそうだ。世界が真っ赤だ。世界はボクには真っ赤な闇なんだ。「なな」さえ超えたら、次の「ろく」はボクにも言える。「ご」だって、「よん」だって……。あ、ダメだ。「よん」は言えない。「よふ」がせいぜいだ。「よふ」なんて言ったら、みんな笑うだろうな。先生だって、笑いをかみ殺してたもんな。世界が血の涙の色に染まる。
| 固定リンク
« 赤い闇 | トップページ | 首都高速に迷い込む…夢 »
「心と体」カテゴリの記事
- 米研ぎに注射の夢に(2021.02.17)
- 麻酔は未だ効いてない(2021.01.03)
- 辿り着けない(2021.01.01)
- 首都高速に迷い込む…夢(2020.11.18)
- ボクの世界は真っ赤な闇(2020.10.16)
「小説(ボクもの)」カテゴリの記事
- ボクの世界は真っ赤な闇(2020.10.16)
- マスクをするということ(2020.05.11)
- 夢は嘘をつかない(2020.05.10)
- ジェネシス 7 先生(2019.01.27)
- ジェネシス 6 雪の朝の冒険(2019.01.25)
「小説(オレもの)」カテゴリの記事
- ボクの世界は真っ赤な闇(2020.10.16)
- マスクをするということ(2020.05.11)
- 夢は嘘をつかない(2020.05.10)
- 私は偏在する塵(2020.03.06)
- 呆然自失の朝が今日も(2020.03.04)
「ドキュメント」カテゴリの記事
- ボクの世界は真っ赤な闇(2020.10.16)
- 赤い闇(2020.05.09)
- スズメバチの巣を撤去した(2017.08.03)
- 未明の腹痛(2015.08.10)
- 白夢(2011.08.21)
「創作(断片)」カテゴリの記事
- タールの彼方(2021.01.24)
- ボクの世界は真っ赤な闇(2020.10.16)
- 赤い闇(2020.10.15)
- 真夏の夜の夢風なモノローグ(2020.08.09)
- マスクをするということ(2020.05.11)
コメント