ボクの世界は真っ赤な闇
「ボクの世界は真っ赤な闇」
暗闇の何処かから声が聞こえる。声の主は目の前にいる。きっと先生だ。「10から1まで逆に言いなさい」とか何とか。生徒らは順番にハキハキと、中にはつっかえながらも、何とか答えている。やがてボクにも番がやってくる。ボクにできるだろうか。隣の女の子は、なんて綺麗な声なんだろう。「じゅう きゅう はち なな……さん にぃ いち。」ボクだ。みんなの目線がボクに集まる。何十もの目玉がボクの顔にへばり付く。視線というハリネズミの針がボクの心を突き刺す。椅子を引いて立ち上がるボク。「じゅう…きゅう……はち……」そこで止まってしまう。「なな」が言えない。
ボクには「なな」は、「なだ」だったり、「だな」だったり、「だだ」だったりする。「なな」だけは発音できない。いや、自分では「なな」と言っているつもりだけど、人にはそうは聞こえないらしい。「花」と言ったつもりが「はだ」とか「鼻」とか、「あだ」とか。体が段々火照ってくる。頭の中が沸騰しそうだ。世界が真っ赤だ。世界はボクには真っ赤な闇なんだ。「なな」さえ超えたら、次の「ろく」はボクにも言える。「ご」だって、「よん」だって……。あ、ダメだ。「よん」は言えない。「よふ」がせいぜいだ。「よふ」なんて言ったら、みんな笑うだろうな。先生だって、笑いをかみ殺してたもんな。世界が血の涙の色に染まる。
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