遠足が怖い
「クリスマスキャロル」を読んでたら(何十年ぶり!)、昔のことが思い出された。何があったわけじゃなく、その当時の自分のやるせない……居たたまれない感情。小学生の頃(中学生になってもだけど)、何が嫌いって、何が嫌だって、遠足ほど恐怖の日はなかった。遠足の日が近付くと胸が苦しくなる。いよいよ明日が遠足の日となると、願うのはただ一つ、一刻も早くその日が過ぎ去ること。ガキの頃 幾度となく受けた苦しい手術さえも比べものにならない苦しみ。
それは自分には友達が居ないことが露になること。何てつまらない苦しみ? そうかもしれない。だけどバスで現地に着いて、途端に途方に暮れてしまうのだ。ボクは何処へ行けばいい? みんな三々五々連れだって、喜び勇んで、弾む心のままに、散っていく。ボクも負けずにバスから遠ざかる。まだ屯している先生やクラスメイト、バスガイドの目から一刻も早く逃れるため。
リュックサックを背負い初めて来た観光地で途方に暮れつつ、兎に角他人の……クラスメイトの目線の届かない場所を居場所を求めて、長く果てし無い、いつか終わりの時が来るとは到底信じられない……終わりなき責め苦の時が始まったのだ。あの木立の陰、あの池の向う側、トイレの裏、何かの施設の一角……だけど、何処へ行っても楽しげなクラスメイトらの姿が待ち受けている。みんな、仲間してシートを敷いて歓談したりふざけあったり、誰もボクのことなど気にしてやいない。ボクは居ないも同然。
でもボクは懸命に居場所を探す。やっと何とか他人の目線の届かない場所を見つけた。リュックサックからお袋が作ってくれた弁当を出そうか……いやまだ早そうだ……まだ10時にもなってないみたいだ。そうだ、御菓子だ、チョコレートかキャラメル、それともガムか飴玉か。あ、まずい誰かの人影だ。ボクが一人 木の陰に座って御菓子を取り出しているところを目撃される。慌てて立ち上がって、ボクは急ぎ足で此処じゃない何処かへ向かう。そう友人の所へ向かうかのように、仲間はボクにだっているんだけど、たまたま今は事情があって移動している最中だと見せ掛けようとする。観客など居ない、不毛で徒労な一人芝居。ああ、何処へ行けばいい?
ようやく見付けた場所で大急ぎで弁当を食べる。いなり寿司やらウインナーやら玉子焼きやら……。ボクの目は周囲への警戒を怠ってはいない。何としてもボクが一人だってこと、一人で時を空費していることがバレちゃいけない。気の小さな、その実見栄っ張りのボク。昼過ぎ……ああ、この先の時間のなんと長いことか。バスに戻って別の場所に移動するのだ。バスの中だって、辛い窮屈な移動時空であることに変わりはない。そもそもボクは何処に腰掛ければいいんだ?
不毛過ぎる、徒労過ぎる、ひたすら自滅の時空。ボクはバスの一番奥から2番目の列にやっと、一つ空いてる席を見付けていたのだ。3人組の奴等だ。右側に二人、で一人左側に。それで一つ席が空いていたというわけ。ラッキー?!
書ききれない長い不毛の思い出。他人には詰まらないだけの愚痴話なんだろう。それにしても、「クリスマスキャロル」でどうしてこんな思い出が蘇ったんだ?
そうだ、小説の主人公の頑なな性分が我がことのようで、つい感情移入したんだ。小説は霊的存在が、せめてクリスマスくらいは性根を入れ替えてと諭されるけど、当時の自分には誰も相談する相手はいなかったな。
(2020/06/13 作)
[以下は、頂いたコメントへのレス: ガキの頃の自分は、我ながら可哀想です。集団行動とは相性が悪い。高校に修学旅行がない……これは志望校選択の大きな要素でした。高校に入って3ヶ月して入った部活。年度末の打ち上げ会に辟易して辞めた。社会人になってサラリーマンになって、何が嫌だって、会社の飲み会(仲間同士じゃないやつ)が嫌でした。入社して十数年して、とうとう我慢ならずコンパをパスしたら、社長が怒りまくって……首になりました。(6/14追記)]
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